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百合色革命  作者: 水月さなぎ
第二部 VS篇
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デートしよう! 多分デート?

 前回の凛と羽塁とのデート(!?)の疑いをかけられた俺は、次の週末に何故か邑璃と咲来との強制デートイベントに参加させられることになった。


 つーかマジ強制。


 逆らえる雰囲気でもなかった。


 女ってどうしてこういう時だけ言い知れぬ恐ろしさを発揮しやがるのだろうか。日々女装を強要されている俺ですら女心というのは理解できない。


 いや、理解してはいけないものなのかもしれないが……。



 そしてやってきましたモンキーパーク!


「なんで猿!?」


 デートはまあいいとしよう。


 しかしどうして猿巡り……もといモンキーパークっていうチョイスになるんだ!?


 少なくともデートでチョイスする場所としてはどうよ!?


「あはは~。パパりんになっちゃんとデートするって言ったらこのチケットくれたんだよ~」


 モンキーパークの優待チケットをちらつかせながら答える邑璃。


「って、悊人氏のチョイスかよ!? 自分の娘のデートチョイスに猿ってどういう趣味してんだよあの人は!?」


「さすがパパりんだよね~」


「そこは感心するところじゃねえっ!」


 猿・さる・サル!


 見渡す限り猿世界!


 何が悲しゅうて女の子とのデートでこんな場所に来なければならないのだろう?


「まあまあ。わたくしは棗生さんとデートさえ出来れば場所にこだわったりはしませんが」


 などとしおらしい風なことを言っている咲来ではあるが、実のところ凜とのことをダシにして強制デートにまで持ち込んだのはこいつの手腕である。


 邑璃はあくまでそれにのっかっただけのことだ。


 まあその辺りは咲来の手柄だと認めているからこそ、邑璃も咲来の分のチケットを用意したのだろう。


 その辺りは実にフェアな関係だと思う。


「そこはこだわれ。むしろ譲れない一線レベルでこだわれ」


 咲来がそんな調子だからこそモンキーパークデートが実現してしまったのだ。


 しかも俺の主観では両脇に女の子がいるハーレム系イベント、という感じではあるのだが、しかし客観的に見れば女の子三人で遊びに来ているという風体なのだった。


 何故ならせっかくのデートなのに俺は女装させられているからだ!


 何故休日まで女装しなければならないのだ!


 女装なんて学校だけで充分だ!


「仕方ないでしょ。なっちゃんは女の子の姿の時が一番可愛いんだから」


「当然みたいに言ってんじゃねえよ!」


 暗黙の了解みたく言ってんじゃねえよ!


「ここを出たら買い物に行きましょう。男物の服を購入してその場で着替えれば邑璃さんと言えども邪魔は出来ません」


 そして咲来がまっとうな救済措置を提案してくれる。


「ああ……それはいいな。確かに妙案だ」


「やだー! なっちゃんは女装のままでいいのーっ!」


「………………」


「………………」


 一人だけ駄々をこね続ける邑璃のことは二人して無視することにした。



 猿山の通路はとても狭い。三人横に並んで歩ける広さではないので、俺たちは必然的に縦一列でのんびりと進んでいく。


 ちらほらと見えるお猿たち。油断すると悪戯をされるそうなので不用意に近づいたりはしない。


 邑璃・俺・咲来の順番で進んでいるのだが、やはり一番はしゃいでいるのは邑璃のようだ。


 俺とのデートだからなのか、それとも猿がおもしろいからなのか。


 どちらに優先順位を置いているのかは、今後の発言で明らかになる。


「あ!」


 わりと近くにいた猿を指さしてから邑璃がびっくりしたように振り返る。


「どうした?」


 何か興味深いものでも見つけたのかと俺も咲来も邑璃が指さす猿の方へと視線を移す。


「すごい! 猿ってお尻だけじゃなくて局部も赤かった!」


「………………」


「………………」


 真面目な顔をして何を言っているのだこの馬鹿女!


「乳首も赤いよ!」


「黙れ!」


「……デート中にする発言としてはかなりどうかと思いますわね」


 とりあえず教育的指導として拳骨一発。


 ごちん、と鈍い音を立てる。


 涙目で頭を押さえる邑璃の姿は小動物のようで少しだけ可愛い。


「何するの~……?」


「その反論は受け付けない。自分の発言を振り返れ」


「事実なのに~……」


「事実でもわざわざ口にすることではないだろ……」


「面白そうだったから……」


「それだけの理由で下ネタに走るな。それだと某変態日記とキャラが被る」


「?」


「……いや。何でもない。忘れてくれ」


 あやうくメタ発言をしてしまうところだった。危ない危ない。



「あ、棗生さん。見てくださいな。あんなところにクイズプレートがありますわ」


「お、ほんとだ」


 客を楽しませるための仕掛けの一つなのだろう。


「せっかくだから見てみませんか?」


「そうだな」


 俺たちはクイズプレートの前まで移動した。


「やっぱり猿に関するクイズだな」


「ですわね」


「えーと。なになに? 『肉食の猿は存在するか否か?』だって」


 淀みなく問題を読み上げる邑璃。


「……テーマパーククイズ第一弾としては何とも微妙ですわね」


「だな……」


 答えはもちろん否。


「えー? いるよ。肉食」


 しかし邑璃が反論する。


「いねえよ。猿は草食だ」


「チンパンジーは時々他の動物を襲って食べるよ?」


「怖い事実だけど! でも猿とチンパンジーは別系統の生き物だから!」


「……あんな小さななりをしていて肉食ってのもなかなかにヘヴィーですわね」


 チンパンジー怖い。


 チンパンジーパークとかあっても絶対に行かない。



「第二問~。『猿の雄雌はどうやって見分ける?』」


 再び邑璃が読み上げる。


 どうやら数十メートル間隔でクイズプレートが設置されているようだ。


「……確かお尻を見るんでしたわよね?」


「え? 局部を見た方が早くない?」


「確かに早いけど!」


 何だか邑璃が下ネタ担当になっている。ヤバい傾向だ。



「第三問~。『猿のお尻は何故赤いの?』」


「血の色が透けて見えるからだろ?」


「年中盛ってるからじゃないの?」


「……邑璃さん。いい加減にしておかないと『下ネタヒロイン』の汚名が確定しますわよ」


 もう手遅れのような気もするが……。



「第四問~。『猿は何年前から存在している?』。えっと紀元前?」


「いくらなんでもアバウトすぎだ」


 間違っちゃいないけどもう少し明確な答えを探してみよう。


「確か七千万年前くらいですわね」


 そうそう。そんな感じで。



 などというやり取りを続けながら順調に(?)クイズプレートを制覇していく俺たち。


 邑璃の発言についてのコメントは色々な意味でスルーするということで。



 ようやく頂上にまで到着した俺たちは一つの小屋を目にした。


 人間が小屋の中に入っており、その周りを猿たちが囲んでいる。


 まるで人間こそが檻の中に入れられており、猿たちに鑑賞されているかのように勘違いしてしまいそうな光景だ。


 もちろんそのようなことはなく、人間側の安全を配慮した結果ああいう構造になっているのだろうが。


 それにしたって見た目的にはかなりシュールな光景だ。


「どうする?」


 小屋の中に入るか、という確認だったのだが二人とも素直に頷いた。


「あの中で餌を与えることができるみたいですし、せっかくだから入りましょう」


「間近で局部とか乳首とか見ることが出来るしね~」


「………………」


「あ、写真に撮ろうか」


「どの部位を!?」


「えへへ~」


 えへへ~じゃねえ!



 という訳で三人揃って小屋に突入。


 餌の種類は落花生と輪切りバナナ。


 二人は手がべたつくのを嫌って落花生を選んだので俺もそれに倣うことにした。


 金網越しに猿を見学。


「おお~」


 邑璃が興味深そうにそれを見ている。どの部位を注視しているのかは聞かぬが花だろう。


「ほーらほら」


 咲来の方は袋から取りだした落花生を猿に与えている。


 与えたら与えただけぱくぱく食べるのがかなり面白いらしい。


 俺も親子猿に落花生を与えてみる。


 小猿は親猿にしがみついているだけで落花生を受け取ったりはしないが、親猿はひたすら貪欲に落花生をひょいひょい受け取ってバリバリ噛み砕いている……のだが。


「……仕方ないけど酷い光景だなぁ」


 親猿が落花生をバリバリ噛み砕く度にその殻が胸元にしがみついている小猿の身体へと落ちていく。


 与えれば与えるほど小猿の身体は殻まみれになっていくのだ。


 もちろん親猿はそんな事に気遣ったりはしないので小猿はどんどん殻まみれになっていく。


 小猿は小猿でお乳で育っているのだから落花生を食べる必要はないのだろうが、それでも文句の一言くらいは言ってもいいのではなかろうか?


「ほーらほら~」


 そして邑璃の方は……


 落花生を猿に与える……と見せ掛けて……


「なーんちゃって♪」


 ひょいっと直前で落花生を引く。


 空振りする猿の手。


 実に不満そうに邑璃を睨みつけている。


「ほらほら~」


 ひょいひょいと猿で遊んでいる邑璃。


「酷いことやってんな……」


「え? だって面白いよ?」


「………………」


 ドS根性発動中。


 しかし思わぬ逆襲を受けることになる。


「ウキッ!」


 邑璃が俺の方を向いた隙を見計らって、先ほどまで邑璃にいいように遊ばれていた猿が金網から精一杯手を伸ばして邑璃の手から落花生をはたき落としたのだ。


 そして素早く下まで降りてその落花生を回収。バリバリと噛み砕く。


「ほわっ!?」


 そして元の位置に戻り邑璃を眺めながら勝ち誇った風に鼻を鳴らす。


 フフン、みたいな?


「むむぅ。猿のクセにやるじゃない」


 そして闘志を燃やす邑璃。


「……いや。猿相手にマジになるな」


 バチバチと火花を散らす猿と邑璃。


 とんでもなくレベルの低い戦いが繰り広げられようとしていた。


「まあまあ。見ている分には面白そうだから傍観していましょう」


 咲来がさりげに酷いことを言う。


 しかしそれもその通りで見ている分には俺たちに被害はないのだから、ここは傍観者に徹するのが賢い選択なのかもしれない。



 そして十分後……


「や、やるじゃない。猿のクセに……」


「ウキキィ……」


 邑璃と猿の壮絶バトルはどちらの勝利という訳でもなく終了した。


 終了せざるを得なかったのは勝負の材料が尽きたためである。


 邑璃の手持ちだった落花生の袋は既に空になっている。


 落花生を巡っての勝負だったのだから落花生そのものがなくなってしまえば勝負は終了せざるを得ないのだ。


 もちろん邑璃は決着を付けるべく新たなる落花生を買いに行こうとしたのだが、そこは俺と咲来が身体を張って止めた。


 すでに他の客の見世物にまでなっていたのだから、これ以上恥をさらす必要もないだろう。


 落花生が尽きたからといって、邑璃の敗北ではないというのも微妙なところだ。


 猿に落花生を奪われた邑璃は癇癪を起こしかけていくつかの落花生を猿の顔面目掛けて投げつけていたのだ。


 もちろん所詮は落花生。


 ダメージなどないに等しいが、しかしそれでも顔面に落花生をヒットさせられた猿にしてみれば屈辱であることに変わりはない。


 そんなこんなで邑璃の手には猿の攻撃による赤アザと引っ掻き傷。


 そして猿の方には顔面ヒットの屈辱、というドロー試合的な終幕と相成ったのである。



 そしてモンキーパークの帰り道。


「楽しかったね~」


 ドロー試合にはなったものの、邑璃はそれなりに楽しんだようでご機嫌そうに呟く。


「楽しかったっつーか、最後の方はいたたまれなかったぞ俺たちは……」


「ですわね……。むしろ他人のフリをしていたかったと言うのが正直なところですわ……」


「え~。なっちゃんもさっちゃんもひどーい! アレは真剣勝負なんだよ! 人生には決して逃げちゃいけない戦場というのが存在するんだよ!」


「それは認めるが少なくとも今回は違うと断言しよう」


 猿との勝負を避けるわけにはいかない人生とは如何なるものなのか?


 むしろそんな物があるのなら是非とも教えてもらいたいくらいだ。



 その後は三人で高級レストランで昼食を摂ったり(実に高校生らしくないお店で。咲来が予約をしていたらしく、一品一品ウェイターが細かい説明をしてくれるような場所だった。味は大変満足のいくものだったが居心地の悪さはぱない感じ)、ショッピングモールで俺の服(もちろん男物! 断じて男物!)を購入したりした。


 暴れる邑璃を咲来が押さえつけている間に俺は購入した服に着替えて男に戻る。


「うみゅ~……。なっちゃんの裏切り者~」


 男に戻った俺を見て発した邑璃の第一声はそんな感じだった。


「何故本来の姿に戻っただけでそこまで言われなければならないのか?」


「その方が断然格好いいですわよ、棗生さん」


「そう言ってもらえるとほっとする」


「ふふふ」


「あー! そこいい雰囲気になるの禁止―っ!」


 いい雰囲気もなにも女装に辟易している俺を咲来が労ってくれただけなのだが、邑璃には別のものに映ったらしい。


 そもそも辟易している原因にそんな風にキレられる筋合いもないのだが。


 その事に対する腹いせなのかそれとも単なる趣味の発露でしかないのか、邑璃は別の店で実に可愛らしい女物の服を数点購入していた。


 自分のサイズよりも若干大きいそれらの服を一体誰に着せるつもりで購入しているのか、それは敢えて訊くまでもないことだろう。


 むしろ聞きたくない。


「えっへっへ~。これ絶対似合うだろうな~♪」


「………………」


「………………」


 ともすれば公衆の面前でよだれでも垂らしかねないほど緩みきった表情の邑璃を見て、俺と咲来は微妙な表情で顔を見合わせた。


 理事長命令的な権力で俺があれらの服を着せられる日は、そう遠くないのかもしれない。


 そんなこんなで多分デート? 的な一日は終わりを迎えたのだった。


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