カラオケにて親睦会!
――で、午後の授業がどうなったかというと、
「何故、揃いも揃ってカラオケボックスに……?」
枢さんが午後の予鈴とともに教室にやってきて、教卓に手をついて真っ先に言った言葉が、
「今日は親睦会にしましょ~」
……だった。
「………………」×八。
「だってほら、みんなすっごく仲が悪そうじゃない? やっぱりクラスメイトは仲良くするべきだとお姉さんは思うのね。だから親睦会」
「………………」
いや、だから……授業は……?
経済学みたいなのは?
そして数分後にはカラオケボックスに十人が入り込んでいた。
何故か緋樫まで来ているし。
訳が分からない。
講師が率先して授業サボらせてどうするよ。
「やっぱり高校生と言えばカラオケでしょ?」
などとのたまう枢さん。
あんたはもう高校生じゃねえだろうが……という突っ込みは怖いから自粛。
俺も喉仏を潰されるのは御免だし。
まあ何だかんだ言いつつも女子連中は結構楽しんでいるようなので良しとするべきかな。
「カラオケなんて久し振りだね、さっちゃん」
「ですわね。しばらく来ていなかったので久し振りにストレス発散が出来そうですわ」
「まあスカッとするのもいいかもね」
邑璃、咲来、凜は女同士でかたまっている。
あんまり仲が良さそうには見えなかったのにこれもカラオケパワーというやつだろうか。
「ボクはカラオケってあんまり得意じゃないんですけどね~」
気まずそうに頭を掻く斗織。
声は悪くないと思うのだが、歌唱力となるとまた別なのかもしれない。
「まあ歌いたくないんだったら聴き専になっとけばいいんじゃないか?」
このメンバーで全員歌っていたら待ち時間がかなり長そうだし、歌わないヤツがいるくらいでちょうどいいと思うし。
「あらあら駄目よ、おるちゃん。これは『親睦会』なんだから。みんなで歌わないと」
しかし状況はそこまで甘くはなかった。
強烈な強制オーラを纏った枢さんが斗織に迫る。
「うわああ! ななななんですか枢さん!?」
「そんなおるちゃんには一番手をプレゼント! はいマイク!」
「うえええええっ!!??」
「うわあ……」
この空気は逆らえない。
逆らったら潰される。
にこにこしながら斗織が曲を入力するのを待っている。
「ひいいいいい……」
斗織は涙目になりながら曲を入力する。
やはり付き合いが俺なんかよりは長いだけあって彼女の恐ろしさは身に沁みているようだ。
むしろ逆らう事の愚かさを知り尽くしているようだ、というべきか。
そして斗織が歌う羽目になったのだが……
「こ、これは……!」
驚愕する面々。
部屋中に響き渡る斗織の歌声。
声は結構いいと思うのだが、しかし……
「………………」
「あ、相変わらずの音痴ですわね……」
「声がいいだけに尚更目立つっていうか……」
咲来も凜も眉をしかめて耐えている。
邑璃に至っては自分次に歌う曲目を探すことに集中して、もとい逃げているお陰で無反応。
「………………うう」
歌っている最中もみんなの反応をしっかり見てしまった斗織は、歌い終わった後に凹みまくっていた。
「だから嫌だったのに……ボク歌うの苦手だって言ったのに……」
「………………」
ソファに『の』の字を描きながらいじける斗織。
その横では羽塁が無言で斗織の肩を叩いている。
どうやら慰めているらしい。
無口ではあるが斗織とは結構仲が良いのかもしれない。
「じゃあ次はわたくしが」
「お、咲来も歌うのか」
「ええ。せっかく来たんですもの」
「何歌うんだ?」
「それは始まってからのお楽しみですわ」
そして流れ始める音楽。
どうやら普通の邦楽のようだ。
コンビニなどに行くと結構流れている、メジャーな曲だった。
しかも結構うまい。
歌い終わると拍手する。
「ふふ。久し振りに歌うと結構すっきりしますわね」
「上手だったよ、さっちゃん」
「ありがとう、邑璃さん」
「相変わらず平凡どころは上手いわね」
「棘のある褒め方痛み入りますわ、凜さん」
やっぱりこの二人は微妙に仲が悪いのかもしれない。
まあどっちもお嬢様タイプだしなぁ。
……いや、家格で言えば邑璃が一番お嬢様なはずなんだが。
「えっと、よし、これにしよう!」
ようやく曲が決まったらしい。
「じゃあ次わたしね!」
そういえば邑璃はどんなものを歌うのだろう……。
「きみ~と、一緒が一番大好きな時間~♪ 大好きって大好きってことばをなんども~」
「………………」
……思いっきり電波系だった。
ちょー電波。
邑璃自身が電波みたいな存在だけど、しかし歌まで電波にすることないだろ、みたいな。
更にびっくりなのは、
「プリ●ッキュアプ●ッキュア♪ ぷ~●きゅ~あ~♪」×繰り返し。
枢さんのプ●キュアソングだ。
しかもめっちゃうめえ!
でも歳考えて!
上手いけど痛いから!
更に意外だったのは、
「There's A Place In Your Heart……」
羽塁の洋楽カラオケだった。
あの無口キャラが歌い始めると滅茶苦茶気持ちが入ってる!
もちろん激上手い!
しかもチョイスが渋い!
やべえ、俺きっかけ一つでこいつと仲良くなれるかもしれない。
こういうギャップには結構弱いんだよな~。
意外な一面が見られると嬉しくなるというか、そんな感じ。
とまあ個性的な面々の個性的なカラオケが色々見られたり聴くことができたりしたわけだが、しかしこれで終わりではなかった。
むしろトドメが待ち構えていた。
天華っち。
小学六年生が一体どんなカラオケを披露してくれるのか!
実は結構楽しみだったりしたのだが……
「私の青春を返せー! 輝くときめきを戻せー! 捧げて尽くした月日をさあよーこせー! 朝日のように現れて~……」
「…………………………」
4●歳の地図って!
小学生チョイスじゃねえ!
「青春よそれじゃあーんーまーりだぜっ!!」
「あわわわ……」
やけくそ気味に歌い続ける天華を見て、大人の階段を上らせ過ぎたのかもしれないと後悔した。
うむむ。やりすぎだったか?
あれじゃあ小学生というよりは精神的には枯れた中年じゃねえかよ……。
気持ちたっぷり哀愁たっぷり、憤り全開で歌い続ける天華の姿は、今更ながら俺の罪悪感をくすぐり続けるのだった。
「うふふふ。個性的なカラオケを堪能したところでみんなのギスギスした空気もほんのり和らいできたわね~。作戦成功かしら?」
落ち着いたところで枢さんがそう言った。
「まあ……それなりに……?」
天華には罪悪感が芽生えちゃったし、羽塁ともちょっと仲良くなれるかもと思えたあたり、俺的には進歩した気がする。
「今後もこういう事をされてはたまりませんし、必要以上に険悪になるのは止めておきましょうかね。ねえそこの愚民」
「……言った側から険悪な物言いしてんじゃねえよ、この差別主義者」
「差別ではなく区別ですよ」
「本質的には何にも変わらないからな、それ」
緋樫とは絶対に仲良くなれないだろうけど。
「あらあら、仲が悪いわね、デュエットでもする?」
「「やってたまるかっ!!」」
見事にはもった。
コンマ一秒のズレもなくハモった。
「よかった、仲良しね」
「「仲良くないっ!!」」
再びハモる。
「………………」
「………………」
俺と緋樫の間に散る火花。
どうしてこういうタイミングが絶妙なのか、俺にも緋樫にも分からないが、それでもお互いにこの上なく不本意であることは間違いないだろう。
「じゃあ、仲良くなったところではい、二人で頑張ってね!」
どさくさに紛れて入力した枢さんが俺たちにマイクを手渡してくる。
「え?」
「枢さん?」
「ちなみに、拒否権はないからね~」
「………………」
「………………」
怖い怖い怖い!
緋樫も同様に震えているところをみると、彼女には逆らえないらしい。
仕方なく二人でデュエットすることに……
「飲み過ぎた~の~は~……」
「あなたのせ~い~よ~……」
「「って何でよりにもよってこんな歌!!??」」
俺も緋樫もお互いを睨みつけながらデュエットを続けた。
男と女のラ●ゲーム、のあたりはお互いにかなりどす黒い声になっていたが、なんとか地獄のデュエットをこなしたのだった。
という感じで親睦会どころか俺個人としては最後は拷問のような時間だった。
何が悲しくてあんな奴とデュエット、しかもあんな歌を歌わなければならないのか。
しかしまあ、それを除けば意外と楽しい時間ではあったのかもしれない。
などとその日の夜はため息混じりにベッドに入るのだった。




