赤いチョークってどんな味?
今回はちょいとボリューム少なめです。
明日検定があるんですよ~。
来週にはちょっとボリューム復活してると思うんでそれまで待っててくださいね~(´∀`)
とにもかくにも正体がバレたからといって特に変わったこともなく、つーか順応性が高すぎる生徒たちのお蔭(?)で俺の日常は大した変化もなく流れていく。
塔宮学園女子高にこの度新しく編成された特別クラス「2-N」は、塔宮本家当主候補が集めに集められた特別中の特別クラスだった。
ちなみに通常はAからFクラスまでしかない。
何故いきなりNにまで飛んでいるのかと言うと、単に気分の問題らしい。
『N』は『高貴なる』の『N』なのだそうだ。
金持ちの考えることはまったくもって理解不能だ。
Nクラスは東校舎の一階、つまりは入り口付近にある。
階段を上ることも長い廊下を渡ることもない、比較的楽な位置にあると言える。
ちなみにこのNクラス教室、元々は美術準備室だったらしい。
理事長の要請、もとい鶴の一声的なもので急遽美術準備室はNクラス仕様に改装されたらしい。
邑璃曰く、
「べ、べつに近いとか楽だとかいう理由からじゃないんだからね! あそこの教室が一番使用頻度が低いから代用するにはちょうど良かっただけなんだからね! わ、我が儘とか言うの禁止!」
とかなんとか……
まあ、その辺は詳しく問い詰めると色々とぼろが出そうなので見て見ぬふりをしてやろう。
確かに美術準備室は二つあるし、一つくらいならこっちに譲ってくれても問題はないだろう。
むしろ問題は中身……もといそこに居座ることになる人間たちである。
教室の広さに反して席についている人数はわずか八人。
俺と邑璃と咲来と斗織が一グループとして廊下側に固まっている。
もう一方は天華と静留と羽塁、その後ろに凛が窓側に陣取っている。
教卓には緋樫が立っていて、一応は授業らしきものをしている。
らしきもの、という表現を使っているのは、こちらの今までの進行具合などを全く考慮に入れない俺様授業内容だったからだ。
最初に開いたのが三年から使う教科書だったというのだからもう始末が悪い。
「せっかく治外法権地帯にいるんだからくそまじめにかったるい速度で授業する必要なんてないですよね? 卒業までに東大卒業程度の学力を身に付けてもらう勢いで授業を進めますからよろしくさん」
「………………」×八。
俺・邑璃・咲来・凛は高二。
斗織・静留は高一。
羽塁は中三。
天華は小六。
言うまでもないことだが、俺と邑璃は当面必要な分の勉強しかしていない。
つまりは高校二年生始まって数か月の身でいきなり三年の授業から始められてはたまったものではない、という事だ。
斗織達はどうなのだろう。
飛び級とか言ってたし、案外この滅茶苦茶さ加減にもついていけるのかもしれない。
「高卒程度の学力なら通信教育で完了してるし、ボク的には問題ないですね」
と最初に漏らしたのは斗織だった。
「この程度、所詮はお遊びレベルよね」
ひらひらと教科書をばたつかせながら嫌味たっぷりに言うのは凛。
俺と邑璃を除いた面々は特に困ったというような反応はしなかった。
むしろどうでもいい、みたいな。
天華までもがまるで問題視していないのだから恐れ入る。
つーか天華は昨日のお姉さま恐怖症の方がダメージデカくてそれどころではないような気もするけれど。
むしろ最初から俺の方を睨んでいる。
無理もないことかもしれないが、それは逆恨みというものだろう。
最初に喧嘩を吹っかけてきたのは天華の方なのだから、報復されたことを恨むのは筋違いだ。
それにまあ、なんだ。
将来的に考えると案外悪い経験でもないと思うんだけどな。
まあ、そんな感じで。
「そういうわけです。分かりましたか、そこの愚民」
何故か俺に対してだけ言う緋樫。
「………………」
俺ガン無視。
「いてえっ!」
チョークが額に飛んできた。
めちゃくちゃ痛い。
しかも何故か赤チョーク。
「講師の言う事はきちんと聞きましょうね、そこの愚民」
「……俺は『愚民』っていう名前じゃないんで返事をする義理はないです……ねっ!」
とりあえず反撃。
食らったチョークを緋樫に投げ返す。
だがあっさりと避けられてしまう。
しかし俺だってその程度は予測済みだ。
予め二本に折っておいたもうひとかけらを『ふん。よけてやったぜこの愚民』みたいな表情で気を抜いているアホ面めがけて投げてやった。
「っ!」
「あ」
結果として、緋樫の顔面にはヒットしなかった。
俺の投げたひとかけらがどこに行ったかというと、
「…………!!」
緋樫の口の中だった。
チョークってどんな味がするんだろう?
なんて、間違っても口に含んで試してみたいとは思わないけどな。
わははは。ざまーみろ!
「うわあ……不味そ……」
邑璃があっちゃ~、みたいな表情で緋樫を見ている。
緋樫がぺっぺっとチョークを吐き出しながら俺の方を睨みつけてくる。
しかし先に投げてきたのは緋樫の方であって、口に入ったのはたまたま運が悪かっただけのことなのでそこまで睨まれても困る。
いやまあ、ざまあみろくらいは思ってるけどさ。
「……塔宮棗生、生活態度マイナス五ポイント」
「っ!?」
緋樫は教卓の内側にある棚から生徒名簿を取り出して、なにやらメモを取っている。
どうやら生徒のチェックに使うモノらしいのだが……
「ちょっと待てー! 何だそれ!?」
「何って、内申メモですよ。講師に対する口のきき方がなってませんね。更にマイナス三ポイント」
「………………」
さらにメモを続ける緋樫。
「ちなみにこれは僕の独断と偏見と個人的主観によって作成されますが、一応は正式書類として提出されるのでそのつもりで」
「………………!!」
職権フル乱用!
邑璃といい緋樫といい、塔宮家の人間はどいつもこいつもこうなのか!!
「大学進学にしろ就職にしろ内申が悪いと色々大変でしょうね~。ああ可哀想に」
「………………」
超白々しい演技で俺を憐れむ緋樫。
うーむ。もう一回くらい口の中にチョークを突っ込んでやろうかしらん?
「進学も就職もしなくていいんだよ~。なっちゃんはわたしのお嫁さんになってもらうんだから♪」
悩む暇もなく邑璃が爆弾発言。
「嫁!? 婿ならまだしも嫁確定!? 俺ウエディングドレス着ちゃうわけ!?」
まあ婿なら考えないでもない。
嫁は断固拒否だけど。
「きっと似合うよ~」
「似合ってたまるかっ!!」
断固拒否だけど!!
「個人的にはウエディングドレスよりもタキシードの方が見たいですわね。もちろん隣は邑璃さんではなくわたくしですけど」
横から咲来がちゃっかり自分の希望を述べてくる。
「なんだよ~。まだ諦めてないのかよ?」
結局告白こそされていないものの、ここまであからさまに態度で示されては好意を持たれていることくらいは分かる。
分かるんだけど俺ってば別に咲来には恋愛感情持ってないしなぁ。
「決着はまだついていませんしね。すくなくとも棗生さん自身が誰かと決着をつけるまでは諦めるつもりはありませんわ」
「ふーん……」
それってつまり俺が誰かと結婚するまでってことか?
タキシードにしろウエディングドレスにしろ。
……いやいや! ウエディングドレスはナシ! ナシナシナシ!!
「まあアレだな。頑張って惚れさせてみろよ。チャンスがないとは言わないからさ」
「頑張りますわ!」
一応咲来も可愛い部類には入るんだよな。
だから可能性がないとも言い切れない。
「なっちゃんはわたしのなんだからあげないよ!」
さらに逆から邑璃が俺の腕を掴んでくる。
それはともかくとして胸を押し付けてくるのはやめろ。
教室で息子が元気になったらどうしてくれる。
さらにすぐ後ろからは、
「……うーん。棗生さんのウエディングドレスかぁ~。ちょっと見てみたい気もしますね~」
「……想像するんじゃねえよ」
斗織がわずかに頬を赤く染めながらそんなことを呟いていた。
つーか男のウエディングドレス姿を想像して赤くなるんじゃねえよ!
そんなこんなで特別クラス初日の午前はトラブルオードブルみたいな展開だった。
新しく入ってきた奴らとも親睦を深めなければとも思うのだが、向こう側がこちらに関わろうとしてこない以上こちらから歩み寄る義理もない。
邑璃達の敵であって俺の敵ではないはずなのだが、どいつもこいつも何故か俺を目の敵にしている気がするのは気のせいだろうか?
相手を間違えるなよー?
俺は候補じゃないぞー。




