下心はそれなりに大事かもしれない
邑璃が学校に来なくなってから更に一週間が経過した。
もちろん、寮にも戻っていない。
家の事情ということで学校には話が通っているらしいが、ふて腐れているだけにしては長すぎる。
まさかあの程度のことで引き籠もりになるようなメンタルの持ち主でもあるまいに。
それにあの悊人氏が自分の娘に引き籠もりなんてことを許すとも思えない。
何かとんでもないことが裏で起こっているような気がして、ちょっとだけ怖いな。
まあいいか。
今は楽しむことを考えよう。
今日は遊びの日だ。
寮を出て、学園を出て、街中へと出たのだ。
だから暗いことは考えない。
遊ぶと決めた時に遊ぶこと以外を考えるのは遊んでいる相手に対して失礼だ。
その相手とは――
「よ、待たせたか?」
「いいえ。わたくしはそれほど待っていませんわ。精々三十分程度です」
「………………」
つまりアレか?
わたくしとっても待っていたんですのよ、とでも言いたいわけか?
ま、いいけど。咲来の性格はこれがデフォルトなのだからいちいち突っ込んでいたらキリがない。
もちろん、今日は咲来だけと待ち合わせをしていたわけではない。デートじゃあるまいし。もう一人いる。
「………………………………」
咲来の横で固まっている小柄な少年。
「よ、斗織。どうした? 俺だぞ~。棗生だぞ~」
「………………………………………………」
もちろんどうしてこうなっているかは分かっているので、俺の顔はにやにやしている。
「な、な、な………………」
「な?」
「何で休日まで男装してるんですかぁ――――っっっっ!!!」
「いや。俺、男だし」
「は………………?」
「だから、性別・男」
「はひ………………?」
「なんなら脱ぐか?」
「止めてください!」
それから俺が男だと説明して納得させるまでに十分ほどの時間を要してから、ようやく斗織は落ち着いてくれた。
「はあ……事情は解りましたけど、ショックです……」
「ショックか?」
「だって女装姿の棗生さんって、すごく可愛かったからボクちょっといいなぁって思ってたのに……」
「つまりアレか? 友達になりたい発言の裏にはそういう下心もあったってワケか?」
それはそれでショックだが。
「あ、いえ! そんな! 下心なんてそんな……半分程度で……」
「半分もあれば充分だっつーの!」
正直者な斗織に対して苦笑いになりながらも、こういう事を正直に言える人間性には多少の好感が持てた。
「あ、でも棗生さんが男だったとしても、やっぱり友達でいたいです!」
「当たり前だ。この程度で意見を覆すような奴と友達になるつもりなんてないからな、俺は」
「はいっ!」
嬉しそうに頷く斗織。
くう。やっぱり男だと分かっていても可愛いなあ畜生!
あれ? これって俺も微妙に下心とかあるんじゃね?
変な意味じゃなくて、目の保養的な意味で。
なんか和むんだよな、こいつ。
「では行きましょうか。チケットは既に用意してありますわ」
そう言って咲来は三人分の遊園地チケットを取り出した。
星稜院家が経営している遊園地らしい。
なのでもちろんチケット代はロハ!
塔宮学園内の友人三人で遊びに繰り出そうという企画だ。
企画・立案は咲来。
持ちかけられたのは俺。
そして斗織を誘ったのも俺だった。
友達として遊びに行こう、と言われたのだからまあ文句はあるまい。
ある種の自衛手段ではあったけれど。
咲来も少し残念そうにしていたけれど。
まあ、そういうわけで。
「では棗生さんと斗織はこちらへ。車を用意してありますわ」
「あ、うん」
素直に従う斗織。
何の疑問もないらしい。
「………………」
俺の方はそうでもないけど。
遊園地へ行くのに公共交通機関ではなく運転手付きの黒塗り高級車を使用する、という発想自体が俺にはないのだから。
さすが世界が違うなり。
待ち合わせは駅前だったが、遊園地までは車で十五分ほどかかるらしいからな。
駅のロータリーには星稜院家御用達の黒塗り高級車。
こんな一目の多い中でそんな車に乗るのは気が引けるのだが、せっかくの厚意を無駄にするのも悪いので、素直に乗り込もうとするのだが……
「もがっ!!??」
いきなり背後から口を塞がれてしまう。
って、またこの展開か!!
振り向かずとも犯人が判ってしまうのが何だか嫌すぎる!
「棗生さん!?」
「ちょっと! 何してるんですのっ!?」
斗織と咲来が車から乗り出そうとするが、
「申し訳ありません。星稜院様、草薙様。塔宮家当主のご命令によりこれより棗生様をお借りいたします。色々と予定はおありでしょうが、どうかご容赦下さい」
「………………」
「………………」
さすがに本家当主の名前を出されたら、分家の二人では何も言えないらしい。
「もがもがもが――っっっっ!!!」
「では棗生様。ご同行を願います」
「もがもがっももおもももががが――!!」
コレは同行じゃなくて拉致っつーんだよ!!
唖然と見送る二人から遠ざかり、俺は再び塔宮家へと連行されていくのだった。




