むしろ泣いて蹲って落ち込め!
「………………」
部屋を出たら、なんとそこには邑璃が立っていた。
「………………」
「………………」
なんだかとっても非難がましい目を向けてくるあたり、さっきまでのやり取りを聞かれていたのは明白だった。
「……盗み聞きとは感心しないな」
「……ごめん」
らしくもなくしおらしく謝ってくるあたり、本当に悪いと思っているらしい。
こいつ、何か落ち込んでないか?
「………………」
まあいいか。
今はこいつの心配をするような気分じゃないし。
っつーか、なんかもういろいろどうでもいいし。
結局のところ、俺の運命なんてこいつら次第なんだから。
このまま女装して女子高に通わされようが、変態野郎としての汚名を着せられようが知ったことか。
パーティーが終わるまでまだ時間はあったが、俺はそのまま寮に戻ることにした。
優勝者の紹介など最低限のことは済ませたし、俺がいなくなったところで何の支障もないはずだ。
部屋に戻る前に佳崇に一言伝えようとしたのだが、
『ハロー親友! お前の女装姿も堪能したし、ゆーりちゃんとも仲良くなれたし、ついでに普段はお目にかかれないごちそうもたっぷり頂けたから俺はそろそろ帰るぜ! つーかゆーりちゃんとお前が傍にいないときにあのセレブ会場にいるのはちょっとしんどいしな! 空気的に! つーかどこ行ったんだ~?(^^)/』
的なメールが携帯に届いていた。
なので、
『疲れたから部屋に戻ってる。また遊ぼう。今度は元の姿で!(-_-)』
と返信しておいた。
『この裏切り者~(T_T)』
という佳崇からの返信を最後に、メール画面を閉じる。
裏切り者云々はどうでもいいとして、今は必要以上に話すと佳崇にまで八つ当たりしてしまいそうだ。
いくらこんなメールを送ってくる馬鹿とはいえ、こんなめちゃくちゃな気分のまま八つ当たりなんてしたくない。
馬鹿でも得難い友達なのだから。
「………………」
「………………」
寮の自室で、俺と邑璃はソファーに座って向かい合っていた。
テーブルには邑璃が淹れてくれた紅茶が置かれている。
「……飲まないの? 冷めちゃうよ」
「……ああ」
気分ではないとはいえ、せっかく淹れてくれたのだからとりあえず口をつける。
「…………………」
おいしい。
気分は晴れないけど、少しだけマシにはなってきた。
「ねえ、なっちゃん……」
「何だよ」
「さっちゃんのこと、本当に何とかしなくていいの?」
「何とかするも何も、俺に出来る事なんて何もないだろ」
俺はただの一般市民で、何の力もない子供でしかないのだから。
同じ子供でも邑璃や咲来のような、家の力を持っている奴とは違うんだ。
「バラすなら好きにすればいいさ。この学校にいられなくなるなら、むしろ俺にとっては好都合だ」
「………………」
「どうせ権力で、家の力で、金の力で振り回されるしかないんだ。どうなろうと知ったことか」
「なっちゃん……」
「お前も、悊人氏も、咲来も、結局やってることは同じじゃないか。力で相手を従わせる。だけどな、飼い犬にだって最低限のプライドはあるんだ。俺は飼い主の靴の裏まで舐める気はない」
「………………」
邑璃が泣きそうになったところで、俺はソファーから立ち上がって自分のベッドへと移動しようとする。
邑璃の泣き顔を見たくなかったから。
泣かせるつもりなんてない。
泣かせたいわけでもない。
だから逃げる。
これ以上話していても、俺はきっと邑璃を泣かせるようなことしか言えないだろうから。
しかし、そう簡単にはいかなかった。
その点で言えば、俺は邑璃のことを甘く見ていたのかもしれない。
泣いて蹲って落ち込んで。
そういう普通の女の子と同じ行動を取るだろうと予想していた俺は、果てしなく甘かったのだ。
何故なら。
「なっちゃんの……」
ぶるぶると震えた邑璃がつかつかと俺の方に向かってくる。
「なっちゃんの……!」
もしかしてビンタな展開か!? と身構えていたのだが、ここでも予想は外れてしまう。
「なっちゃんのばか――――っっっっっっ!!!!!」
「っっっっっ!!!!!?????」
泣き落としでもビンタでもなく、金的をかまして部屋を飛び出していく邑璃だった。
「ぐ……ぐおぉぉぉぉぉ…………!!」
股間を押さえて一人蹲る俺。
し、死ぬ……!
痛覚の刺激だけで死ぬ!!
あ、あの女……! よりにもよって金的かましていく事はないだろうが!!
部屋で一人悶絶しながら、俺は飛び出していった邑璃を呪いたい気持ちだった。
もちろん、泣かせてしまったことに対する罪悪感など皆無だ。
こんなことをする奴に対して罪悪感を感じる義理はない!!
つーか、痛えっっっ!!!




