疑問と不信 01
で、さらに場面転換。
何だか今日はイベント盛り沢山でとても一日ではない文量になっている気がするが、まあそこはスルーということで。
むしろ今からの方が本番というか。
俺も本気で応じないと色々ヤバイことになる、みたいな?
「………………」
今現在、俺は迎賓棟の三階角部屋にいる。
物置のような場所で、間違っても客を招く部屋ではないと思う。
何故このような場所にいるのかというと、それはもちろん人に聞かれたくない話をするためである。
むしろ人に聞かれたら困る話をするため、という方が表現としては正しいのかもしれない。
「よく来てくれましたわね、棗生さん」
壁際に立っているのは星陵院咲来。
俺の秘密を知る女。
そして多分、これから俺を脅迫しようとしている女。
「御託はいい。俺はあんたと世間話をするために来たわけじゃない。とっとと用件を言えよ」
もちろん、そんな相手に気を遣ったりする義理もないので、俺の言葉も遠慮のないものになる。
「ふふふ。そうやって本来の姿と本来のしゃべり方をしてくれる方が、ずっと魅力的ですわよ。もちろん、いつもの姿も可愛らしいとは思いますが」
俺の挑発などむしろ心地いいとでも言いたげに、咲来は機嫌よく笑っている。
他人の弱みを見つけた人間というのは、大抵こういうものなのかもしれない。
「バラしたければ好きにすればいい。俺は好きでこんなことをしている訳じゃない」
半ばやけくそ気味にそう言ってみるが、本心はそこまで強気じゃない。
上流階級の女の園で、女装趣味の変態野郎だなんてことをバラされるのは、ちょっと想像しただけでもぞっとする話だ。
つーか女装趣味でも変態でもないけどな!
ただ、こういう場合に弱みを見せるべきじゃないと本能レベルで警戒しているだけだ。
「そのあたりの事情も理解していますわ。あなたが望んでここに居るわけでも、女装しているわけでもないことくらいは。そしてわたくしが本家に対して多少のアドバンテージを獲得したことも」
「………………」
「わたくしは塔宮家の次期当主になりたいと思っています。このまま候補の一人として大人しくしているつもりなどないのですよ」
「好きにすればいいじゃないか。俺はそんなことに何の興味もない。後継者争いでも当主争いでも好きにしてくれ」
権力争いに巻き込まれるのは真っ平御免だ。
「もちろんそのための努力はしています。ですが当主殿はやはりご自分の娘である邑璃さんに家を継いでもらうことを諦めていないようです」
「それはそうだろう。まっとうな親なら自分の子が一番大事だろうからな」
息子を売り飛ばしたどっかのクソ親父は論外として。
「もちろん、それは理解していますわ。ですが肝心の邑璃さんがアレではとても納得できるものではありません」
「アレ?」
「彼女には塔宮家を継ぐ意思などまったくありません。最低限の責任は果たすおつもりなのでしょうが、それでも家を継ぎたいとは思っていないでしょう」
「だろうな。本人もそう言っていた。自分は人の上に立つのには向いていないと」
「……その程度の意欲しか持たない者に、目指すものを奪われかねないわたくしの気持ちが、あなたに分かりますか?」
咲来は両拳を握り締めて、震える声で言った。
そこには見た目以上の悔しさや憤りがあるのだろう。
「分からねえし、分かるつもりもねえよ。俺にとっては他人事だ」
「そうですわね。あなたにとってはそうですわね。ですがわたくしにとっては違います。わたくしにとっては、邑璃さんも、あなたも、等しく邪魔な存在なのです」
「……? 邑璃は分かるけど、何で俺? 俺は候補とやらじゃないはずだろう?」
「そういう意味で邪魔と言っているわけではありませんわ。確かにあなたが候補になった場合も、それなりに厄介ですけど。わたくしが言っているのは邑璃さんのことです」
「………………」
「あなたは邑璃さんの為にここに存在している」
「俺の意思じゃねえけどな」
「あなたは邑璃さんを変えるために当主殿に招かれたのでしょう」
「招かれてねえ。買われたんだ」
その二つの違いは果てしなく大きい。
「もちろん女装が似合うということだけではなく、それはあなたなら邑璃さんを変えられると、当主殿が見込んだのでしょう」
「……それはさすがに考えすぎだと思うぞ」
そういう目論見も確かにあるようだが、むしろそうなればラッキーぐらいの博打だった。
メインはあくまでも邑璃に対する生贄だろう。
「そうですか? あなた、本当に心当たりはないのですか? まったく?」
「………………」
数年前のことを思い出す。
何気ない俺の言葉が、一人の少女を変えたこと。
幼い頃の邑璃が、自分を受け入れられるようになったこと。
もしもあの時のことを、邑璃自身ですら俺だと覚えていないあの時のことを、悊人氏が知っているのだとしたら。
あの事を知った上で、彼が俺を邑璃に再会させたのだとしたら。
そんな出来すぎた偶然が、ありえるのだろうか。
俺の中で疑問と不信が積み上げられていく。
そんな中で咲来は、
「ねえ、棗生さん。あなた、邑璃さんではなくわたくしのものになる気はなくて?」
俺の中でトドメになるセリフを口にした。




