男の愛はのーさんきゅう!
「う……わあ……」
見たこともないような光景だった。
ここは迎賓館のパーティー会場。
名目としては東西両校の親睦会のようなものらしいが、実際のところはただの社交パーティーだろう。
豪華な料理。
豪華な衣装。
そしてお金持ちそうな人たち。
なんっつーか、世界が違う。
天井のシャンデリアは普通の電気とは比べ物にならないくらいキラキラ輝いている。むしろ煌めいている。
土足にもかかわらず床なんてピカピカのテカテカだし。
壁なんて絵が描いてあるんだぜ!?
飾ってあるんじゃなくて壁前面に絵が描いてあるんだぜ!?
どこぞの教会とか連想してしまうくらい豪華な絵が!
ティントレットとか連想できそうなくらい!
「すげえなあ。さすが上流階級……」
俺の横で呟く佳崇。
こっちも間違いなく庶民なんだが。
俺よりも順応性高そうだなぁ。
「つーか何でお前がこんなところまでついてきてるんだよ。生徒とその家族以外は招待状が必要なはずだろ?」
ずっと一緒にいたのでうっかりしていたが、こいつに招待状を手に入れる手段があったとは思えない。
「ふっふっふ。愚かなりわが親友。わが心友と一緒に居ればフリーパスなのは明白じゃないか!」
「はっ! そ、そういえば……」
こいつが常に邑璃と行動を共にしていたのはそういう意図もあったのか!?
そこまで計算高い奴ではなかったはずだが……
いや……邑璃の入れ知恵という可能性も……
どちらにせよ邑璃といっしょならそりゃあフリーパスに決まっている。
何せ理事長の娘なのだから。
その気になればこの学園内で支配の及ばないことなどないだろう。
「愛してるぜ邑璃ちゃん」
素直に感謝の意を示しているのだろうが、誤解を招くような物言いにしか聞こえないのはどうにかならないのだろうか。
「男からの愛なんてノーサンキューだよ。わたしの愛はなっちゃんに捧げると決めたんだから。感謝だけは受け取っておくけどね」
「男からって……一応そいつも男……いや、なんでもない」
あくまで女装姿のということに思い至ったのか、佳崇はすぐに口をつぐんだ。賢明な判断だ。
両校の生徒もかなり参加している環境でそんなことを軽々しく口にしてもらっては困る。
「そう言えば悊人氏は? 一応は主催者だろう?」
ここまで大きなパーティーに理事長が顔を出さないというのも妙な話だ。あの親バカなら真っ先に邑璃に会いに来てもよさそうなのに。
パーティーが始まって一時間ほど経過しても、まったくその気配はない。
「パパりんはね、あそこにいるよ~」
邑璃が二十メートルほど先を指差す。
豆粒のような大きさだが、確かに見覚えのある後ろ姿だった。
その後ろ姿が一層豆粒に見えたのは、彼の周りをあらゆる人間が囲んでいるからだろう。
その様子はまるで落としたあめ玉に群がる蟻のようだ。
「こういう場合はいつもああだよ~。パパりんは人気者だね~」
「アレは人気者っていうよりも、ハイエナの群れという印象が強いんだが……」
どう見ても周りが彼に媚びているようにしか見えない。
「まあ仕方ないよ。パパりんは稀に見る強運の持ち主だから。昔から何をやっても成功するってくらいにね。その強運にあやかって甘い汁を吸いたいっていう人間がいても、それは責められる事じゃないと思う」
「……いや、それは責めてもいいと思うぞ。他力本願全開じゃねえか……」
成功は自分の手で掴むからこそ価値がある。
他人に縋って手にした成功に何の意味があるというのだ。
悊人氏はそんな奴らの相手をしていて嫌な気分になったりしないのだろうか。
……などということを、あの後ろ姿を見て考えてしまった。




