葛籠祭の恐怖 02
次の日。
葛籠祭の出し物企画の話し合いが行われている教室。
「塔宮棗生さんがいいと思います!」
誰かが手を上げてそんな事を言っていた。
「…………はい?」
首を傾げる俺。
何がいいって?
黒板には『ボーイ・ミーツ・ガール』と書かれている。
クラスの出し物ではなく、学園側の出し物らしい。
各クラスから一人か二人ほど参加者を募って、男装をさせるらしい。
そして東側の方も同じような企画をやっていて、それぞれの優勝者を夜のパーティーでその格好のまま参加させるというのが葛籠祭の名物イベントだそうな。
で……その男装イベントに何故に俺が!?
男装も何も、元々男ですよ?
いや、そのあたりは内緒なんだけど。
「あ、いいね。塔宮さん凜としてるし、カッコいい感じだし。男装が似合うって言うのはあるかも」
クラス委員長の小牧閑琉がうんうんと頷く。
「………………」
小牧に連動して、クラスメイト達が微妙な盛り上がりを見せる。
「うん、塔宮さんならアリかも」
「きっと美少年に仕上がりそうよね」
「っていうか写真に撮りたいわ」
などと、俺の参加が決まってしまったような流れになってしまっている。
いやいやいやいや、マジでヤバいから。
それはいくらなんでも不味いから!
下手するとバレるから!
このまま参加させられたら正体がバレてしまうから!
「ゆ、邑璃……」
無駄と知りつつも、俺は邑璃の方に助けを求めてみるが……
「はうう。なっちゃんの困った顔……素敵だにゃあ……」
「………………………………」
にゃあ、じゃねえよ!
変な顔に見とれてんじゃねえよ!
駄目だこいつ。
まるっきり役に立たねえ。
「せっかくだから東側の制服を着せてみたら?」
副委員長の秋吉千鶴が更にヤバい提案をしてくる。
しかもこのイベントの準備用に男子校側の制服を用意した紙袋が教卓の横に置いてある。
候補者に着せてみてから改めて参加させるかどうかを判断するとかなんとか……。
「あ、あの……私はその……目立つのが苦手だから参加したくないんだけど……」
小牧に対して一応の抵抗をしてみるが、
「でもねえ。推薦者は塔宮さんしかいないしね。クラスのためだと思って、ここは頑張って!」
「………………」
確かに、黒板には俺の名前しか書かれていない。
つーか誰でもいいから立候補くらいしろよ。
「はい。じゃあこれ着てみて。着替えは隣の教室を借りちゃおう。今ちょうど移動教室だから」
秋吉の方も既に俺にやらせる気満々らしく、制服の入った紙袋を手渡してくる。
「………………」
駄目だ。この空気は逆らえない。逆らったら間違いなく無理矢理に脱がせられて着替えさせられてしまう。
そうなれば絶体絶命。俺の塔宮学園ライフが終わってしまう。
……いや、終わるだけならまだしも変態の汚名が……。
「わ、分かったわ……」
くそう!
着ればいいんだろ着れば!
俺は乱暴に紙袋を受け取って隣の教室へ行った。
「くっそ~。バレても知らねえぞ!」
半ばやけくそ気味に男子制服に着替える。短髪用のウィッグもあったが、ロングのウィッグをつけている上からさらにつける、というのは無理があるので、ロングのウィッグの方を外した。
「………………」
男装ではなく元に戻っただけだよこれじゃあ。
鏡がないから確認できないけど、これってやっぱりまずいよなあ。
多分、男にしか見えないだろうし。
などと隣の教室で腕を組んで悩んでいると、
「塔宮さん、もう着替え終わった? みんな待ってるんだけど」
小牧が俺を呼びに来てしまった。
「あ、えっと。一応着替えることは着替えたけど……」
二つのウィッグを慌てて隠す。自前の短髪だとバレるとまずい。
そのタイミングでドアが開けられた。
「………………」
「………………」
小牧絶句。
俺も何となく沈黙。
「び、美少年だわ……」
「………………」
「やっぱり塔宮さんで決まりね!」
「………………」
抵抗も出来ないままクラスへと連れて行かれる俺。
そして……
「「「「きゃああああああああっっっっっっっ!!!!」」」」
クラスメイトの黄色い声と共に、俺のボーイ・ミーツ・ガールのエントリーが確定してしまったのだった。




