本家と分家はライバル関係? 03
「それで? 『候補』って一体なんのことなんだ?」
咲来と別れて邑璃と教室へ戻る途中、俺は気になっていた単語について質問していた。
咲来は俺を見て『候補の一人』かと聞いていた。その時の目が微妙な敵意を帯びていたのを見逃すほど、俺は鈍くない。
「えっとね。多分、なっちゃんには関係ないことだと思うんだけどね。塔宮本家の跡取り問題だよ」
あっけらかんと邑璃は言った。
「は? 跡取りってお前じゃないのかよ?」
「違うよ~。わたしは候補の一人ってだけ。さっちゃんを含めた分家の人たち……えっと、確か十人くらいいたかなぁ。とにかくその人たちで跡取り争いみたいなのをしてる、みたいな?」
「みたいな? っておいおい。当事者のくせに他人事みたいに言ってんじゃねえよ」
「他人事だよぉ。だってわたし別に跡取りになる気なんてないもん」
「は……?」
今、なんかすげえ事言わなかったかこの女。
塔宮本家の嫡子たる塔宮邑璃お嬢様が、跡取りになる気がないですと!?
「う~ん……なんっていうかね、人の上に立ってる自分の姿っていうのがどうにも想像できないんだよね~」
「………………」
「むしろ苦手というか、うん。そんな感じ」
「そんな感じ、じゃねえだろ」
「あはは。確かにわたしがやらなきゃいけないことならそれなりの責任を持って頑張るんだろうけど、でもそうじゃないし。跡取り候補は何人もいて、その中にはきっと、わたしなんかよりもずっと塔宮家を継ぎたい人がいて、そのための努力をしている人がいる。だったら跡継ぎはわたしじゃなくてもいいと思う」
「………………」
「あ、だからといって別に塔宮家の人間としての責任を放棄している訳じゃないんだよ。ただ、わたしが塔宮家のために出来ることは、跡取りになることだけじゃないって思ってるだけ。たとえば跡取りになった人のサポートとか、そういうのでもいいと思ってるんだよね~」
「………………」
負け惜しみでも卑屈でもなく、本心からそう思っている邑璃の態度に、俺は何も言えなかった。
何かが間違っている気がするのに、その間違いが何なのか分からない。
屈託なく笑う邑璃の横で、俺はただ黙っていることしかできなかった。




