次男だからって人身御供かよ!? 03
結局抵抗も何も出来ないまま塔宮家の黒塗り高級車に乗せられた俺は、理不尽すぎる我が身を嘆くようにブツブツと文句を垂れていた。どうせ独り言なので誰かに聞かせるような内容でもない。しかし隣にいた新堂にはしっかりと聞こえてしまっているようで、
「棗生様。お父上にこのような形で身売りされて落ち込むのは分かりますが、どうか元気を出して下さい。塔宮家での待遇は、決して悪くないものだとお約束いたしますから」
「別にそんな理由で落ち込んでる訳じゃない」
つーかあんな親父に売られたのが理由で落ち込むなんてあるわけがない。むしろ早々に関わりが無くなって清々するぐらいだ。
「ではどのような理由で落ち込んでいらっしゃるのですか?」
「……コレクション」
「は……?」
「……俺が五年かけて集めた秘蔵コレクションをあの家に置いてきたのが心残りなんだ!」
「………………」
新堂はどうしようもないモノを見るような目で俺を見ていた。
「な、何だよその目は!? 思春期の青少年からエロ本を取り上げたら一体何が残るって言うんだ!」
「……欲求不満の解消がお望みでしたら何人か女性を紹介しましょうか?」
「マジで!? って待て待て! 青春まっただ中の思春期少年にはセフレなんてまだ早いって! せめて十代の間くらいは一途な恋愛をしてみたいぞ!」
「ははは。棗生様は意外と純情でいらっしゃる」
喜びかけたり首を振って誘惑を振り払ったりと忙しい俺を見て、新堂はおかしそうに笑っていた。大人の余裕が微妙に腹立つ。つーか『意外と』は余計だっつーの!
まあいい。秘蔵コレクションはいずれ落ち着いた頃に取りに行こう。あれはそのまま朽ち果てさせるには勿体なさすぎる。何せ前日から並んでやっと手に入れた究極のお宝まであるのだ! ……ってエロ本に何でそこまで熱くなってるんだろう。いや! 健全な少年としては正しい反応の筈だ! 筈……だよな?