本家と分家はライバル関係? 02
「もう授業は終わってますわよ。あなた、教室に戻らなくてもいいんですの?」
「あ、えっと……その……」
喋り方までお嬢様だ。
背は結構高い。すらりとした細身のスタイルは、とてもバランスが取れているように見える。目鼻立ちは整っていて、それなりに威厳がある。
つーか、誰?
「それともあなたもここで昼食を摂るんですの?」
「いえ。そういう訳ではないんですけど」
ただ単に、教室に戻りづらいだけで。
「というか、あなたはここで昼食を?」
よく見ると、彼女はその手に小さな弁当を持っていた。
「ええ。ちゃんと学校側の許可は取っています」
「はあ……そうですか……」
何故わざわざ許可を取ってまでこんなところで昼飯を食おうとするのだろう、という疑問はあったが、どうせ俺には関係ないことなのでその質問は飲み込んでおくことにした。
「えっと……お邪魔なようなので、私はこれで失礼します」
「あ、ごめんなさい。別にあなたを追い出したかったわけではないんですのよ」
「分かっています。でも私は別にここにいたかったわけではないので。そろそろ教室に戻ることにします」
「そうですの。あの、あなたのお名前は?」
「私、ですか?」
「ええ。見覚えのない顔なので、誰なのかと思いまして」
「ああ。まだ転校して一月ほどですからね。塔宮棗生です」
「塔宮……?」
「あ、えっと……その……」
そりゃあ反応するよなあ。
この学園の名前なんだから。
「もしかして理事長の関係者ですの?」
「ええ……まあ……一応……」
怪訝そうな表情で俺を見てくる彼女に、ちょっとたじろぐ。
「……おかしいですわね。塔宮本家には邑璃さんしかいないはず……」
「え……?」
そして何やら考え込む彼女。
つーか、塔宮本家って……何? この人事情通?
「あーっ! なっちゃんこんなところにいた!」
「邑璃?」
空気が気まずくなりかけたところで、邑璃が乱入してきた。
「もう! なかなか教室に戻ってこないから探しちゃったんだからね!」
「別に探して欲しいなんて頼んだ覚えは……」
むしろ誤解が広がっていくのであまりつきまとって欲しくないというのが本音なのだけど。
「あれ? さっちゃんだ」
「お久しぶりですわね、邑璃さん」
俺につっかかっていた邑璃は、自習室の中にいた彼女の姿に気付いた。どうやらお互いに知り合いのようだ。
「えっと、知り合い?」
「親戚だよ~」
「星稜院咲来ですわ。塔宮の分家筋にあたります」
「へえ……そうなんだ……」
初耳だ。
つーか分家筋って……よく考えると普通の言葉なのに、このレベルで話が進むとなんか格調高く聞こえるから不思議だ。
「邑璃さん。棗生さんとはどういったご関係ですの? 塔宮本家にこんな人がいるなんて、わたくし初耳なのですけど」
「あ、そっか。分家の人たちにはまだ告知してないんだね。なっちゃんは正式に塔宮家の養子になったんだよ~。書類上はわたしの姉妹ってことになるね!」
「………………」
養子、という言葉に彼女、星稜院咲来はぴくりと眉を吊り上げる。
「ちょっと待ってください。まさか、彼女も『候補』の一人ですの?」
「候補?」
「違うと思うよ。どっちかというとパパりんの道楽だと思う。むしろわたしのために用意してくれた運命の人っていうか~」
そう言って俺の腕にすりすりする邑璃。
「………………」
つーか誰が運命の人だ。
「そうですの。それはご愁傷様ですわね……」
「いや~……憐れまれても困るというか……」
邑璃の趣味もばっちり知っているらしい咲来は、心底から憐れみの眼差しを俺に向けた。
大方、金にものを言わせて無理矢理に邑璃の相手をさせられているとでも思っているのだろう。……合ってるけど。
「まあ、『候補』でないのならそれで構いませんわ。精々邑璃さんと仲良くなさってくださいな」
「………………」
仲良く、ねえ……。
それも何か微妙っつーか。
そもそも何でこの二人、微妙に仲が悪そうなんだ?
いや、邑璃は結構友好的に話しているように見えるけど、咲来の方がなんか微妙に敵意を向けてきているような……。
「じゃあそろそろわたし達は行くね。ばいばいさっちゃん」
「ええ。ごきげんよう、邑璃さん。それに、棗生さん」
「はあ……どうも……」
結局よく分からないまま、俺は星稜院咲来と別れた。




