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百合色革命  作者: 水月さなぎ
百合色革命 第一部
23/92

お友達から始めましょう的な? 03

 嫌な感じに、しかも台無しな感じに話の腰を折られながらも、めげず挫けずへこたれず、ここに至るまでの経緯と事情を説明した。


 父親に一億三千万円で売られたこと。


 売られた先は塔宮家だったこと。


 拉致同然の扱いで連れて行かれた塔宮家で悊人氏と対面し、女装してこの学校に通うように言われたこと。


 恭吾の女装教育期間に関しては恐怖体験のトラウマが甦りそうなので割愛。


 女装したまま卒業までこの学校に通うことが、借金完済の条件であること。



 と、いう感じに、事情を話し終えた。



「まあ、あれだ。お前と仲良くしてくれっていうのは、条件というよりもついでみたいな物言いだったけどな」


 しかも悊人氏ではなく新堂から言われただけだし。 


「………………」


 邑璃は俺の話を聞き終えても黙ったままだった。


 疑っているというよりは、何か別の考え事をしているように見える。


「えーっと、なんっつーかさ。俺と一緒にいるのが嫌なら、直接悊人氏に言えばいいさ。俺としてもこんな生活を続けるのはかなりしんどいものがあるし」


 というよりも、いっそそうしてくれないだろうかという期待も込めている。


「借金がある以上、俺から契約破棄する訳にはいかないけど、邑璃の方から拒否する分には、多分問題ないだろうしさ」


「………………」


「でもまあ、他の奴にバラすのだけは勘弁な。こんな女子だらけのところで変態野郎の汚名を着せられるのは、さすがに凹むし」


「………………」


 邑璃はまだ何か考えている。


「あの、さ……。黙ってられると結構辛いんだけど……」


 沈黙に耐えきれず、俺の方から口を開く。


「あ、ごめんね。色々考え事しててさ」


「いや、それは分かってるけど」


 邑璃はベッドから立ち上がって俺の方へと向かってくる。


 そして俺の両頬にそっと手を当ててきた。


「?」


「なっちゃんは、男なんだね」


「ああ」


「……実は男装です、なんてオチはない?」


「人の裸をガン見しておいてそれを言うか」


「なかなかご立派な息子さんでした」


「黙れ」



「言わないよ」


「?」


 唐突にそう言われたので、俺の方が首を傾げてしまう。


「だから、なっちゃんのことは誰にも言わない。他の人にも、もちろんパパりんにも」


「……何でだよ? 他の人に言わないでいてくれるのは正直助かるけど、悊人氏には抗議してもいいだろ。この先二年近くも男と同じ部屋で過ごしたくはないだろ?」


「……もしかして、わたしのことを男嫌いだと思ってる?」


「違うのかよ?」


 百合ってのは大抵男嫌いの裏返しだと思っていたのだが。


「違うよ~。確かに可愛い女の子は大好きだけど、でも男嫌いってわけじゃないよ」


「そうなのか」


「そうだよ。わたしがわたしのままでいいって思えるようになったのは、あの男の子のお陰なんだから。女の子が好き。でも男の子が嫌いな訳じゃないよ」


「………………」


 いや、それ俺だから。


 その男の子は俺だから。


 ま、まあ思い出さないでいてくれる方が、俺的には助かるけど。



「なっちゃん」


「な、なんだよ」


 俺の両頬を掴んだまま、邑璃はじっと目を合わせてくる。


「昨日わたしがなっちゃんに言った言葉は嘘じゃないんだよ」


「………………」



 大好き。



「わたしはなっちゃん・・・・・にそう言ったの」


「………………」


「あの言葉を、この程度のことで嘘にするつもりなんて、ないから」


「……この程度・・・・のことか? これが」


この程度・・・・のことだよ。だって……」


「………………」


「女装したなっちゃんはこの上なく可愛いもん!」


「はい………………?」


「たとえ正体は男だとしても、わたしはこの先も女装したなっちゃん・・・・・・・・・を好きでい続ければいいだけだもん!」


「………………待て」


 それは何か?


 つまり女装している俺は好きだけど、男の俺には用はないと!?


「あの……あのですね? 出来ればその…この環境から俺を解放してくれるととっても嬉しかったりするんですが……」


 あまりに変な状況になりすぎて、俺自身も言葉遣いがおかしくなってたりする。しかしまあ、頼む立場なのだから下手に出るのは間違っていない。と思いたい。


「なっちゃん」


「な、なんでしょう」


「絶対に、逃がさないから」


「………………」


「これはパパりんからの贈り物だと思うの!」


「はい?」


「女の子しか好きになれないわたしの事を思って、わたしが好きになっても問題のない男の娘おとこのこを差し向けてくれたんだと思う!」


「………………」


 うわあ。そう言われてみると本当にそうとしか思えなくなるから怖いなあ!


「これはもう全力でゲットするのが親孝行ってものでしょ?」


「俺の意志は!?」


「一億三千万、でしょ?」


「似た者親子!!」


 似なくていいところだけが似ている!


「うん。まあ、とりあえず」


 俺の両頬から手を離した邑璃は、一歩下がって右手を差し伸べてくる。


「友達になってほしいな」


 そして屈託のない笑顔で、そう言った。


「………………」


 出来ればこの状況から俺を解放して欲しかったのだが、まあ、当初の予定通りになったと思えば、それもいいだろう。


「まあ、友達・・なら」


 俺は差し伸べられた手をそっと握った。


 邑璃もぎゅっと握り返してくる。


「うん。まあ、ぶっちゃけ『お友達から始めましょう』的な意味だけどね」


「っ!」


 その言葉を聞いた俺は反射的に手を引こうとしたが、


「きゃっ」


 邑璃の方が手を離してくれず、そのまま俺の方に倒れてきた。


「………………!」


 む、胸が!


 ネグリジェ越しの胸が当たってますから!


「なっちゃんったら大胆ね」


 俺の上に乗っかりながら、妖しく笑う邑璃。


「お前に言われたくねえっ!」


 初日から夜ばいに来た挙げ句、唇を奪った様な奴に大胆とか言われるほど俺は女慣れしてないからな!



「そう言えば、もう一つ訊きたいことがあるんだけど」


 何とか邑璃を引き剥がしてから、もう一つの疑問を投げかける。


「なに?」


「俺は確かに浴室の鍵を締めていた筈なんだが。ここの鍵ってもしかして壊れてるのか?」


 そもそも正体がバレてしまった原因は、邑璃が浴室に乱入してきたからだ。


 プライベートを考慮して浴室には鍵がかけられるようになっている。なので俺も安心してシャワーを浴びていたのだ。


「壊れてないよ」


「じゃあ、なんで……」


 邑璃は入って来られたのだろう……と言い終わる前に、


「えへへ」


 その手に持っていたのは二本の針金……ピッキング道具だった!


「ピッキングしたんかい!」


「だってなっちゃんの裸覗きたかったし」


「犯罪だ!」


「結果としてわたしに正体を知られちゃったわけだけどね」


「俺の落ち度じゃねえ!」


 コイツと一緒の部屋にいて、正体を隠したままでいられる可能性は、最初からなかったわけだ。


 つくづくとんでもない女と関わってしまったものだと頭を抱えた。


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