万年発情期ヒロインへの憂鬱 04
「おはよ~、なっちゃん」
「おはよう、邑璃さん。起きたのならさっさと退いてほしいのだけど」
「もーちょっと抱きついていたいんだけどな~」
「却下」
再び抱きついてこようとする邑璃を今度こそ引き剥がし、俺は素早くベッドから下りた。
「あ~ん。なっちゃんのいけず~!」
俺の残り香の残るベッドで鼻をくんくんさせながら、邑璃は悶えていた。
その姿を見て、
…………うん。
コレに発情するほど、俺も節操無しじゃない。
と、自分を納得させつつ安心した。
あまり時間的余裕はないのだが、朝からシャワーを浴びることにした。
シャワーを浴びないと落ち着かない、とかそういう理由ではない。
着替えの際に鍵の掛かる場所に入る口実が欲しかっただけだ。
手早くシャワーを浴びて身体を拭き、塔宮学園の制服を着る。ウィッグをつけてニッコリ笑えば美少女の出来上がりだ。
「………………」
いや、自分で美少女とか言うのもどうかと思うんだけど、でも実際、こうすると自分じゃないくらい美少女に仕上がってるんだよなぁ。
鏡の前にいるのが自分だって言うのが信じ難いくらいに。
重ねて主張するが、別にナルシー感性に目覚めたとかじゃないから!
「なっちゃん? そろそろ出てこないと朝ごはん食べ損ねちゃうよ」
鍵をかけたドアの向こうから、邑璃が呼びかけてくる。
「今出るから。先に行っても構わないけど」
「やだ! 一緒に行くの!」
「………………」
昨日の昼間では気遣いの出来る優しい娘、という印象だったが、今となってはただの駄々っ子にしか見えない。
ため息混じりに眼鏡を着用して、浴室の鍵を開けた。
「遅いよなっちゃん」
「別に待ってて欲しいなんて頼んでないけど」
「私が待っていたいの!」
「むしろ先に行ってくれた方が助かるくらいなんだけど」
「ストーカーになってでも付いていくからね」
「何て迷惑な……」
などというやりとりを繰り広げながら食堂へ向かった。
気遣いの要らない間柄、みたいな会話に聞こえないこともないが、俺にとってはそこはかとなく真剣勝負なやりとりだ。
何せ、油断すれば昨日の二の舞になることが目に見えているのだから。




