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百合色革命  作者: 水月さなぎ
百合色革命 第一部
16/92

万年発情期ヒロインへの憂鬱 02

 十分後――


「………………」


 あと少しで熟睡できそうな段階になって、再びベッドがごそごそするのに気付いた。


「………………」


 振り返ると、邑璃がそこにいた。


「………………」


「えへへ。やっぱり一緒に寝よ!」


「………………」


 反省の色ゼロだった。


 さっきのごめんねは一体どこへ行ったのだろう。


 あのしょんぼりとした背中は一体何だったのだろう。


「……『反省』って言葉の意味、ちゃんと分かってる?」


「もちろん。分かってるよ」


「………………」


 分かってない。全然分かってない。


「『過去を振り返るな』っていい言葉だと思わない?」


「…………さっきまでは思ってたけど今は最悪の言葉だと思ってる」


 過去の失敗を気にしすぎて前に進めなくなるのはよくないが、だからといって過去を開き直って再び問題行動を取るというのはいかがなものか。


「なっちゃん」


「なに?」


「女の子が女の子を好きになるって、やっぱりおかしいかな?」


「………………」


 また答えづらいことをさらりと言ってくるなあ。


「理解は出来ないけど、おかしいとまでは思わない」


 俺に言えるのは精々この程度だ。


 いや、もう一つだけあるな。昔誰かに言ったことがあるけど、今のこいつにも言えるかもしれない。


「誰も好きになれないよりは、誰かを好きになれる方がずっといい」


「なっちゃん……」


「人を好きになれるって事は、多分すごい事だと思うから」


「なっちゃんっ!」


「わあっ!」


 背中合わせに寝ていた邑璃がいきなり背後から抱きついてくる。


 む、胸が! 胸が当たってるから!


 離れろーっ!


「ちょ、ちょっと、離して! お願いだから離れて!」


 やばいやばいやばいやばい!


 俺だって男なんだぞ!


 下着も付けていないやわらかい胸を背中にぎゅ~っと押し付けられたりしたら、いくらなんでも我慢できないって!


 たとえ相手が万年発情期百合娘だとしても我慢できなくなっちゃうってば!


「やっぱりなっちゃん大好き!」


「分かった! 分かったからとにかく離れて!」


 布団の中でじたばたと暴れる俺。それでもしがみつ邑璃。


 そろそろ俺の理性が限界であります。


「……あのね、なっちゃんで二人目なんだよ。そう言ってくれたの」


「え……?」


 後ろから抱きついて小さな頭を俺の背中に預けたまま、邑璃は消え入りそうなくらい小さな声でそう言った。


 その身体は、少しだけ震えていた。


「邑璃……さん……?」


「わたしだって、自分が普通じゃないって事くらい分かってるよ。女の子しか好きになれないなんておかしいって思ってるよ」


「…………」


「男の子のことも好きになろうとしたよ。でも駄目だった。やっぱり女の子にしかドキドキしないの」


 きっと最初の頃はすごく悩んだのだろう。


 悩んで、苦しんで、それでもやっぱり変われなくて。


 自分はおかしいと思い続けて。


 それでも……


「小学生の時にね、ある男の子に言われたの」


 そんな自分を変える出会いではなく、受け入れられる出会いがあった。


「『誰も好きになれないよりは、誰かを好きになれる方がずっといい。それはきっとすごい事だから』って」


「…………」


 あ……。


 昔、誰かに言ったことのある言葉。


 公園でたった一人泣いていた、小さな女の子。


 その子に伝えた、何気ない言葉。


 深く考えた言葉じゃなかった。


 思いついただけの、だけど心からそう思う言葉を伝えただけだ。


 あの時の女の子が、今ここにいる。


「あの時思ったの。わたしは今のままでもいいんだって。無理に変わらなくても、わたしはわたしのままでいいんだって」


「…………」


 出会ったのは偶然。


 名前も知らなかったし、顔すら忘れていた。


 俺にとっては、その程度の出会い。


 その程度の気持ちで向けた言葉でしかなかった。


 それでも、邑璃にとってはそんなものこそがかけがえのないものだったんだ。


 なんとなく言っただけの軽い言葉を、今までずっと大事にしてきたんだ。


 それは、なんて……


「だからわたしはどれだけ振られてもめげずにいられるんだよ」


「…………」


 なんて……大罪だろう(涙)。


 俺の幼い頃の過ちが、この開き直り上等万年発情期百合娘を作り上げたのかと思うと、いろんな人に対する罪悪感でいたたまれなくなる!


「あの時の男の子に、わたしはとても救われた気がするんだよ」


「…………」


 あの時の俺はどうやら取り返しのつかないことをしてしまったらしい。


 なんてこったい。


「そしてなっちゃんは、あの時の男の子とおんなじことを言ってくれた。だからわたしはこれからもっと、今のわたしを好きになれると思う」


「そ、そう……それは何より……かな?」


 ああああああああ。


 俺ってば俺ってばもしかしてとんでもないことをしてしまったんじゃないだろうか。


「なっちゃん大好き! なっちゃん大好き! きっとこれからもっと好きになるよ! 振られても振られても好きでい続けるよ! だって大事なことに気付かせてくれた二人目なんだから!」


 しかも過去の行いと現在の行いが巡り巡って俺の災厄になって戻ってくるなんて……


「うう……」


「誰よりも大好きになると思う!」


「あうう……」


 女の子に告白されているのに、ちっとも嬉しくない状況だった。


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