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百合色革命  作者: 水月さなぎ
百合色革命 第一部
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女の園は拷問空間!? 03

「優しい娘だって事は分かるんだけど、ちょっと、重い」


 まとわりついてくる感覚にどうにも慣れなくて困る。悪意がない分気を張らなくて済むが、それにしたってどうして今日初めて会った人間にここまでなつくことが出来るのだろう。もう少し警戒心とか抱くべきだと思うんだが。


「お待たせー。はい、カルピスウォーター」


「ありがとう」


 俺はポケットから小銭を取り出そうとするが、


「あ、いいよいいよ。自販機もカード使えるから」


「……そう。ありがとう」


 本当にカードさえあれば現金いらずだな。この学校。


 よく冷えたカルピスを喉に流し込むと、若干気分が落ち着いた。邑璃は隣で百パーセントアップルジュースを飲んでいる。紙パックをズルズル言わせながら一気に飲み干してしまった邑璃はベンチの脇にあるゴミ箱にそれを捨てた。俺も喉が渇いていたのでカルピスを一気に飲み干してしまい、そのままゴミ箱に捨てる。


「この後はどこに行く?」


「あとは、そうね。日用品とか、文房具とかを買えば当面は大丈夫かな」


「そうだね! 下着とかは全部揃ってるんだもんね!」


「………………え、ええ、まあ………………」


 返答しづらいなぁ。


「じゃあ生理用品とか買いに行く?」


「そ、それはまた今度でいいから……」


 マジで返答しづらいなあっ!!


「あ、そうだ。わたしも新しい下着欲しかったんだ! ついでだし後で付き合ってくれないかな?」


「…………ご、ごめんなさい。今日は自分の買い物に集中したい、という、か……その……」


 わざとか!? わざとやってるのかこの女!


「うう。そうだよね。ごめんね……。今日は棗生さんの買い物だもんね……」


 しょんぼりとうなだれる邑璃。


 ああ! だからまたそんな捨てられた子犬みたいな態度を取るんじゃないっ! 


 すっげーいたたまれない気分になるじゃないかっ!


 人懐っこくて甘え上手で落ち込み方は子犬系って、どんな無敵キャラだよこの女!


「あ、あの、そんなに落ち込まないで……。邑璃さんの買い物にも今度付き合うから……」


「ほんと?」


 邑璃は上目遣いで涙を滲ませながら俺を見つめてくる。なんだこの激萌えシチュエーション。どんな事に頷いてしまいそうになるじゃないか。


「ほ、ほんとほんと」


「下着屋さん付き合ってくれる?」


「………………」


 前言撤回したくなった。どんな拷問だコレは。


「つ、付き……合う……」


 心頭滅却すれば下着もまた涼し! って何だか嫌な感じの改ざんになってるけど。まあ使用前の女性下着なんて所詮ただの布だし! 恥ずかしがる要素なんてよく考えたら微塵もないよな! うん!


「棗生さんの下着も一緒に選んでいい?」


「勘弁してくれっ!」


「え?」


「わ、な、何でもない何でもない!」


 思わず女言葉が崩れてしまった。慌てて取り繕うが邑璃はきょとんとなったままだ。特に不審を抱いているわけではないらしい。


「あ、その、えっと……自分のは自分で選びたいというか……人に選んでもらうのは苦手というか……」


「そうなの?」


 邑璃は可愛らしい動作で首を傾げる。俺はこくこくと頷く。


「そ、そうなの。だから、ね?」


「……ごめんね」


「ゆ、邑璃さん!?」


 ようやく落ち着いたかと思ったら、いきなり邑璃はじわりと涙を滲ませてしまった。


「ど、どうしたの?」


「棗生さんは自分の物は自分で選びたいんだよね?」


「え、ええ……」


「それなのにわたし、さっきヴァイゼで……」


「あー……」


 そうだった。ヴァイゼではほとんど邑璃が選んだ物を購入してしまったのだった。機能的には問題ないから構わないかなと思ったのだが、まさかここでボロが出てくるとは。さて、どうするか……。


「えっと、その、服とか下着とか……そういうのを他人に選んでもらうのが苦手ってだけで……それ以外は割と平気というか……」


「そうなの?」


「そ、そうなの……」


 ちょっと苦しいなぁ。でも通じてるからいっか。


「服とか下着以外なら一緒に選んでも平気?」


「ま、まあ……平気……かな……?」


 多分鬼門はそれぐらいだと思うし。


「じゃあ化粧品とかもわたしのお気に入りとか勧めてみてもいい?」


「うっ……!」


 そうだ! まだそれが残っていたかっ! いや、化粧品とか言われても、使い方とか分かんないっすよ!? 恭吾のところで最低限叩きこまれたはずだけど女装と女モードの言葉遣いと態度だけで精一杯だったしっ! はっきり言って綺麗さっぱり忘れた! 恭吾の中でも優先順位はあまり高くなかったからペナルティもなかったしなっ!


「あ、えっと、その……化粧とかはまだ、うまくできないから……」


 というか、したくない。


「えー? でも女の子なんだから化粧くらいは覚えておいた方がいいと思うんだけど」


 男ですからっ!


「ほ、ほら、まだ若いから地肌で勝負したいというか……」


 あれ? 素肌だっけか? いかん。テンパりすぎてまたボロが出始めたぞ!


「あ、なるほど。感心だね! うんうん。やっぱり若い内から化粧品に頼りすぎたら駄目だよね! 分かった! じゃあ棗生さんに勧めるのはスキンケア用品だけにするねっ!」


「………………」


 ああああああ。乳液って何だ? 化粧水って何だ? 美肌……は何となく分かるけど。俺はこれからそんな物を毎日顔面に塗りたくる生活を送らなければならないのか!? 


 拷問時間はまだまだ続くようだ。これがあと二年近く残っているかと思うと初日から気が重くなってきた。


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