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百合色革命  作者: 水月さなぎ
百合色革命 第一部
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女の園は拷問空間!? 02

 結局、邑璃と一緒に店を回ることになった。塔宮学園のショッピングモールは学園寮から徒歩十分ほどの場所に集中していた。案内標識に『商業区』と書いてある。


「で、棗生さんは何が欲しいの?」


「とりあえずは、パソコンかな。インターネット環境は整ってるって聞いたから」


「うん。ネットゲームとかするの?」


「……えっと、まあ、色々……あると便利かなって……」


 俺は曖昧に答える。男物の下着やその他諸々を注文するにはインターネット通販しか無いだろう。とか、言えるわけないし!


 請求はもちろん塔宮家に回す!


 しかしインターネット環境と聞いてまず最初にネトゲの話題が出て来るのは女の子としてどうなのだろう。


「じゃあまずは電気屋さんだね。ヴァイゼはこっちだよ!」


「ヴァイゼ?」


「塔宮グループ家電部門直営店! ちなみに店の名前はドイツ語で『賢者』って意味だよ!」


 邑璃は俺の手を取って小走りになる。早く案内したいらしい。せっかちな性格のようだ。


 しかし『ヴァイゼ』か。そう言えば有名どころではないけどたまに見かけるな。そういう名前の電気店。


 そして数分後、ヴァイゼに辿り着いた。一階建ての電気店。大型家電店並の敷地面積がある。


「入って入って~。ここもカード使い放題だから♪」


「………………」


 邑璃はさりげに怖いことを言う。と言うかなるべく我慢しようとしているのに決意が鈍るようなことを言わないで欲しい。


「いらっしゃいませーっ! っと、これは邑璃お嬢様。本日は何をお求めですか?」


 さすが塔宮家直営店。店員は邑璃の顔を覚えているらしい。


「ううん。わたしはただの案内だよ。棗生さんがパソコンが欲しいんだって。ウチの最新モデルって今在庫あるかな?」


「ありますとも。こちらになります」


 店員はにこやかにパソコンのある場所まで案内してくれた。


「………………」


 してくれたのはいいのだが、値段にびっくりだ。値札には五十七万円と書いてある。しかも本体価格だけで。ディスプレイは別個で十二万円。


「どう? 棗生さん」


「どうって……言われても……」


 スペックを見る限り確かに値段は釣り合っているのだろうが、明らかに個人が所有するレベルを超えている。少なくともインターネット通販が出来ればいいと考えているだけの俺には敷居が高すぎる。


「もうちょっと安いのでいいんだけど……」


「駄目だよ! パソコンなんてどんどん新型が出ちゃうんだよ? 買う時は最新型! これ基本!」


「言ってることは分かるんだけど……」


 限度あるだろ……。


「いいじゃない。どうせカードが使えるんだし♪」


「………………」


 そうだった。どんなに高い買い物をしても俺の財布は痛まないんだった。いや、だからこそ浪費癖を付けるのは将来的によろしくないというか。でもこんな事させられてるんだからそれなりに使わないと割に合わないという考えもある。


「それと周辺機器も揃えた方がいいよね? プリンターは、折角だからコピー機仕様とかにしてみたらどうかな? おっきいけど速いし綺麗だし! もちろんスキャナ機能付きで!」


「………………」


「ディスプレイはもちろん光沢パネルが基本だよね! 大型だとテレビとか見る時便利だけど、パソコンとして使う分にはあまり大きくない方がいいのかな」


「………………」


「それとスピーカーはやっぱり外付けの方が音は綺麗だと思うよ」


「………………」


「あ、デジカメはこっちこっち!」


「………………」


「せっかくだからゲーム機も買っていこうよ! 一緒に対戦とかしたいな!」


「………………」


 ……と、まあこんな感じで、俺の買い物なのに何故か邑璃が主体になってしまった。あって困るものじゃないからいいけど、それにしたって一つ一つが最新型の物を選んだために総額がえらいことになってしまっている。とてもじゃないがカードがないと話にならない。俺が二年くらい年中無休でアルバイトしてやっと到達できる総額ではないだろうか。


 会計レジにて俺は恐る恐るブラックカードを店員に差し出した。すると店員の方が急に畏まりだしてしまった。


「塔宮家の方でしたか。棗生お嬢様ですね。これからもよろしくお願いします」


 カードを通して俺の名前まで知られてしまったらしい。それにしても何て気持ちの悪い響きだろう。『棗生お嬢様』って……。おえっ。


 購入した物は全て部屋まで届けてくれるらしい。まさに至れり尽くせりだ。ヴァイゼを出てから俺たちは近くのベンチに座り込んだ。と言うより慣れない高額浪費に精神の方が参ってしまったのだ。眼鏡が若干曇ってしまっている。


「大丈夫? 棗生さん」


「だ、大丈夫……。ちょっと、びっくりしただけだから……」


「じゃあジュース買ってきてあげる。何がいい?」


「別に気を使わなくても……」


「わたしがそうしたいの!」


「じゃあ、カルピス……」


「わかった! ちょっと待っててね!」


 邑璃は小走りに近くの自販機へと向かっていく。やはりその後ろ姿は子犬のようだった。


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