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月下の雪華  作者: 神楽樹
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第五死:決意

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」


僕は約束の場所に走る。

息が切れてすごく胸が苦しい。

だけど、心はどきどきと躍るように楽しい。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」


夕暮れに染まるオレンジ色の景色が僕の高揚した顔もオレンジ色に染める。


「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」


もう少しで約束の場所だ。

僕は少し走るのを止めて速度を緩めるように歩き出した。


君の歌が聴こえる。

僕の胸はどんどんと高鳴ってく。


「・・・――」

「〜〜・・・あ、ハルちゃん」


僕は君が大好きで、君は僕が大好きと言ってくれる。


僕は君のためなら何でも出来るだろう。




そう、何でも出来る。









元八郎の隣に座った月夜の手に持った携帯が鳴った。

メロディーはとても綺麗で聴いたことは無いようなオリジナルの曲だ。


『はい』

「ああ、用意が出来た。そのじいさんの心残りを取り除けるかどうかはまだわからんが・・・まぁ、春と桜、用意できたよ」

『分かりました、では、どこで落ち合いましょうか?』

「月島の幽玄通りって分かるか?そこの近くにいる」

『ええ、分かりました。では後ほど』


月夜はたどたどしく電源ボタンを押して会話を終了させた。

元八郎に向き直り、月夜は口を開く。


『用意が出来たそうですよ。貴方の望むものかどうかはまだ分からないそうですが、判断は貴方に任せます』

「・・・ふむ。面白い子達じゃの・・・わかったわかった付き合おう」


元八郎は重い腰を上げて月夜の後をついて歩き出した。


幽玄通りと言えば、月島市に住んでいるもので知らない人間はいない。この月島の絶対の覇者、御堂財閥の屋敷がある通りなのだ。

そして、この周りには御堂との血縁関係などがなければ住むことは許されていない。

言うなればこの幽玄通りは御堂財閥の根城といってもいいだろう。


月夜が幽玄通りに入った頃、遥は屋敷の前に立っていた。

馬鹿でかい正門の前に立つと否応無く自分が凡人であると知らしめさせられる。

溜息を吐きながら遥は呼び鈴を押した。


「はい、御堂ですが。どちら様でしょうか?」


呼び鈴の上に備え付けられたモニターにメイド服を着込んだ女性が映し出される。

うん、もうこの時点で金持ち丸出しだ。


「えーと、御堂さんの・・・響さんのクラスメートです。響さんに呼ばれているんですが」

「ああ、ええ。伺っております。高野 遥様ですね?どうぞ、お通りください」


これまた金持ち丸出しで自動で正門が開いたと思ったら、十数人のメイドが左右に並んでお辞儀をしていた。


(うーん。It`a fantastic!こんな風景どんな悪どいことしたら見れますか・・・教えてくださいマジで!!)


一番前に控えていたメイドが一歩前に出てから遥に会釈して口を開く。


「どうぞこちらへ、高野 遥様。お嬢様がお待ちになっております」

「あ、はい・・・ども・・・あー、えっと連れが来るんでちょっと待ってもらえます?」

「はい、分かりました。では椅子を用意致します」

「い、いや。大丈夫だから」

「そうですか・・・ではお待ちします」


そう言ってメイドは一歩下がって元の位置に戻った。

遥は律儀な人だなと思いながら腕を組んで正門の前で突っ立っていた。

ほどなくしてメイド達にはおじいさんがキョロキョロとしながらこちらに向ってくる様子が目に止まった。

遥はメイド達には見えない月夜に向って手招きをしながら呼んだ。


「おーい、こっちだこっち」

『こちらに用意してあるのですか?』

「ああ。まぁ問題ないだろ・・・多分」


「ええ、問題などありません」


不意に後ろから声を発せられ遥は不覚にも驚いてしまった。


「・・・御堂か・・・驚かすなよ」

「驚かそうと思ったわけではありませんが?それでは案内します。こちらについて来てください」

「分かった。じゃあじーさんいこうぜ」

「うむ・・・」


響は遥達を先導して立派過ぎるといっても過言ではない庭園へと案内した。

そこには季節にそぐわない花々が咲き乱れてはいるが肝心の春と桜はなかった。


「ふむ・・・確かに春らしいが・・・わしが見たいのは春の桜じゃ・・」

「えっと、御堂・・・これが用意したもの?」


響はふっと口元を歪めていった。


「これは御堂家の庭園ですよ。案内はまだ終っていません」


響はそう言うと地面を指さした。

地響きにも似た音が響き、地面がスライドしていく。

現れたのはどうやら地下への階段らしい。


「うわ!秘密結社みたいだなっ!悪の組織っぽいな!」

『・・・そーですね』

「高野 遥。私の屋敷は悪の組織ぽいですか?」

「・・・いや、冗談・・・ですよ?ですよ・・・?」


響は無言で地下へと降りていく。

着いて来いということだろう。

遥達は響の後を追った。


地下には広大な広さがあり、シャンデリアやランプなどが随所に設置してあり、薄暗いという言葉は存在しない。

その奥に装飾に富んだ赤い扉がある。

響はそこに向って一直線に進む。

どうやらそこが響の用意したもののある場所なのだろう。


赤い扉が重々しい音を立てて開かれる。

そこから眩しい光や柔らかな陽光に爽やかな風が現れる。


まるで魔法だ。

地下のはずなのに太陽に青空、それから柔らかな地面に咲き誇る青々しい草花。

そして中央に誇らしげに咲き誇り白桃色の花びらを舞い散らす巨大な桜。


元八郎は驚愕し、桜へと頼りない足取りで向う。


「ああ、ああ。待っていたんだろう?初恵はつえ・・・長いことまたせたなぁ・・・悪かったなぁ・・・」


桜にたどり着いた元八郎は糸が切れた人形のようになんの脈絡も無く崩れ折れる。

だが、それは響にしかそう見えない。

月夜と遥には薄く淡い姿で老人と老婆が抱き合う姿が眼に映っている。

光に包まれるその様子は神秘的でとても美しい。


それが魂なのだろう。


遥はそう確信した。

月夜は静かに老人達のほうへと歩を進める。

やがて老人達の傍にまで来た月夜は薄く微笑む。


手にはいつからか持っていた黒く光る凶器があった。

死神の鎌。そう。死神が持っているのだから死神の鎌なのだろう。


「――っ」

『では、安らかに』


遥が走り出す前に月夜は死神の鎌を抱き合う老人に振り下ろす。


「やめろおおおおっ」


ザシュ。

薄く淡い姿が霧のように月夜の持つ鎌に吸い込まれていく。


(どうして俺はやめろと叫ぶ?)


遥は前に出した手をゆっくりと下ろす。


(幸せそうだったから?)


何が起こっているかも分からないのに飄々とした表情で桜を見つめる響を振り返る。


(もう、俺は・・・戻らない。そう決めたじゃないか)


無表情にも似た響に遥は薄く口元を歪める。


「死神は貴方にしか見えないのですね?」

「いや、俺と死期の近いやつに見える」


響の質問に正確に答える。

隠し事をする意味は無い。

遥はこれからも響の協力が必要だった。

魔法のような財力それは絶対的な力に相違ない。

だからこそ遥はこう言う。


「これからもよろしく頼む」


そう言った遥に子供のような笑みを浮かべ響は頷いた。


「ええ。よろしく頼まれましょう」



すいません。随分と間があいてしまいました・・・。
忙しさに最近執筆できませんががんばります。
どうか温かい目で見てくれます・・・?
がんばりますのでお願いします・・・TT

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