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月下の雪華  作者: 神楽樹
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第一死:死神

夕刻が迫るオレンジ色の空から静かに舞い降りる白い粉雪。

今年の冬も雪が降っていた。

俺は雪が嫌いだった。

冷たいしめんどくさいし、何より昔のことを思い出してしまうから・・・。


「はぁ・・・寒いなぁ・・・」


溜息まで白く煙る。

俺は仕方なく部屋に備え付けられたコタツの中に非難することにした。

このコタツという領域はコタツ布団に守られたエリアを極寒の悪魔から守ってくれるハイパーなバリアーなのだ!しかも各家庭に普及している優れもので比較的良心的な価格で誰しもが手に入れることが出来る冬の頼れる相棒だ!

などと意味のわからないキャッチコピーを自分で呟きながらゴロゴロしているこの青年は・・・。


高野こうの はるか

因みに俺と言ってるから女ではないと思った人は偏見だが、この話にいたっては正解です。男です。何の捻りも無くてごめんなさいね?年の頃17歳。現在最寄の高校に通う高校2年生だ。

髪は耳に掛かるほどの長さで女の子のような顔をしている。そのせいか、異性に対しての緊張などが欠落しており、昔から異性の髪を平気で触ったり、女の子同士の話でさえ入っていける。それを嫌がられない端正な顔立ちと雰囲気が女の子からも人気であり、2月や誕生日はプレゼントがどっさりともらえる羨ましい男だ。

告白もちょくちょく受けるのだが、なぜかこの男は断り続けているという男から見ると殺してやりたくなるような奴なのだが、サバサバした性格が同姓からも好かれるという完璧な世渡り上手な人間であった。


「ぅぅん。コタツは俺のパラライズ!ってパラライズは麻痺魔法だっけなー・・・パラダイスか?うむ、しっくりきますな!」


ブツブツと意味の無いことを呟きながらコタツから出ようとしない遥の耳に静かなノック音が聴こえた。


「うぃーす。なんすかまどかさん?」

「遥くん、もうすぐご飯だけど、お腹すいてたらクッキーでも食べるかしら?」


控えめに部屋のドアを開けたのは・・・。

紫藤しどう まどか

遥の兄、高野こうの かなめの婚約者で遥の姉になる人である。

歳は兄、要と同い年の25歳。髪はロングヘアで少し癖っけのあるウェーブがかった栗色。優しそうな顔というのがぴったりと当てはまるような童顔がとても親しみをもてる女の人だ。


遥の家族構成は両親とは数年前に死に別れており、今は遥と遥の兄、要と二人暮しなのだ。

因みに両親の両親はともに離れた土地に暮らしており、遥を引き取るとのことだったのだが、ありがたい事にそのころすでに働いていた兄が一緒に暮らすことを提案してくれたのだった。

今は円が仕事終わりでこの家に出向き、遥と要の夕飯の用意をしてくれるので遥はインスタントなジャンクフードに頼らなくても生きていける。


円は近くにある保育園の保母さんで、仕事は遅くなることもあるが大体5,6時には終るので今時分辺りにはこの家に到着するのである。

そして、要はというとベンチャー企業の上役で仕事は遅くなることが多い。


「ういー。いただきますですハイ!クッキープリーズ」

「ふふ。じゃあコーヒー淹れてから一緒にもってくるね」


円さんには何故か甘えちまうんだよなぁ・・・。

遥はいけないと思いつつもいつも円の笑顔には甘えてしまっていた。

遥の円に対する印象は太陽だった。暖かくていつも眩しい微笑みを絶やさない人だからだろう。


ガシャン・・・

部屋で円の来るのを待っていた遥は何らかの破砕音で部屋を出た。


「円さーん?どうかした?」

「・・・あ・・・ご・・めんなさい」


キッチンを覗いた遥は真っ青な円を見つける。

コーヒーと一緒にバラバラになっているマグカップを素手で拾おうとしている円を制して遥はちりとりと箒を持ってくる。


遥は片付けの最中に円に体調を聞くことにした。


「ねぇ、円さん?どうかした?体の調子でも悪いのかな?」

「う、ううん・・・だ、大丈夫・・・あのね、遥くん・・・」


その時、円の言葉を遮るように電話のベルが鳴り響く。


「あ、ごめん。電話だ」

「あ、うん」


遥は受話器を取る。そこから聴こえたのは小さなサイレンと慌ただしい声だった。


「?もしもし?」

「あ!遥くんかい!?要の同僚の佐々木だけど、いいかい?よく聞いて」

「どうしたの?佐々木さん」

「要が、今事故にあって病院に運ばれたんだ」


遥は円の不調の原因に突き当たった。遥は頭の回転がいいほうでよく周りの雰囲気や感情を察しやすい。

きっと携帯で最初に円さんは兄さんの事故を知ったんだろう・・・。

そう思いながら佐々木の話に耳を傾けた。


「それで・・・兄さんは大丈夫なの?」

「それが・・・分からない・・・」

「分からない?分からないってなんだよ!!!」


遥は訳の分からない感情が込み上げていた。

多分、身内の事故に冷静さを失ったのだろう。佐々木に当たっても仕方の無い話なのだが、そう、事故を伝えた人間が今は何より憎らしい対象だった。


「遥くん。落ち着いて、医者の話だと助かる見込みはあるみたいだから。きっと大丈夫大丈夫だからね?」

「・・・」


そうだ。落ち着け、落ち着くんだ俺。ここで俺が取り乱しても何の意味もないじゃないか。

遥は深呼吸をして受話器を持ち直す。


「ごめん、佐々木さん・・・それで、どこの病院?」

「月丘総合病院。場所わかるかい?俺が迎えに行こうか?円さんもいるんだろ?」

「あ。うん・・・お願いします」

「分かった。十分程度でそっちに着くと思うから用意しておいてくれるかい?」

「はい、分かりました」


遥は受話器を置きながら少し滑稽な笑顔で円に振り向いた。

円もぎこちなく遥を見ている。


「あ、兄貴さ・・・事故ったって。どじだよね?はは。まぁ大丈夫だろうから二人で行って笑ってあげようよ」

「う、うん。そうだね」

「円さん、先連絡きたんでしょ?」

「・・・うん。遥くんにどう伝えようかって・・・うろたえちゃった」

「はは。円さんらしいな」


それから暫らくして玄関のチャイムが鳴る。

準備を終えていた遥と円は玄関へと急いだ。


「ああ、ごめん。渋滞で少し遅くなった」

「いえ。すみません迎えにきてもらってしまって」

「佐々木さんさっきはごめんね」

「いや、いいんだ遥くん。冷静さを失うのは仕方ないさ。さ、行こう」


佐々木は古めいた年代もののジープを愛車にしている。

ジープ特有のドアの高さにロングスカートの円の手を引いて後部座席に遥は乗せた。


「ありがと、遥くん」

「いえいえ。俺の円さんは家のお姫様ですから丁重に扱わないと」

「ふふ。遥くんったら」

「じゃあすぐ病院に着くと思うから、ちょっと我慢してください」

「ああ、タバコね?大丈夫吸ってください」

「悪いね。どうしても吸わないとイライラしちゃうからね」


佐々木は知る人ぞ知るヘビースモーカーだ。吸ってないと事故でも起こさんばかりなので佐々木の車に乗る人はタバコの煙は容認しなければならない。

少し窓を開けた空間から紫煙がゴウゴウと吹き飛んでいく。

後部座席には少しタバコ特有の変な匂いが少しするだけで我慢できないことはない。

暫らく車を走らせると病院の看板が目立ちだした。


「そろそろ着くよ」

「はい」


佐々木の言葉に頷きながら答えた。

それから間もなく、病院の正面玄関前に車は停止した。

佐々木は遥と円を先に降ろし、駐車場に止めてくるといって車を発車させた。


「・・・円さん?」

「え?どうしたの?遥くん」

「え・・・?いや。じゃあ行こうか」

「うん」


遥は円の手がずっと震えているのを見てしまった。

それは寒さで震えているのではないことは誰にでも分かることだった。


病院に入る前に遥は視線を感じて振り返る。

そこには何故か懐かしさを感じる少女が月明かりに照らされて、黒い喪服のような格好でこちらを見つめながら立っていた。


「どうしたの?」

「え?」


円を振り返った瞬間にその少女は霞のように消え去っていた。

一瞬夢かと思うほどの事だったので遥はあえて少女のことを円に訊くことなく病院へ入った。


それから数時間が経ち、手術中の赤いランプが消えた。

備え付けのベンチに座った三人に医者が深刻そうにこちらへ向ってくる。

結果を言えば、遥の兄、高野 要は死んだ。

病院に運び込まれた時にはもう助からないと思われるほどの怪我だったそうだ。

そう、そして結局助からなかった。


「最善を尽くしましたが・・・」


医者の言葉が耳を通り抜ける。

円の足が力を失い崩れ落ちるのを佐々木が支えた。

遥は助けられなかった医者を殴り飛ばしたかった。もしくは事故を起こした人物を探し出し殺してやりたいとも思った。

だが、遥は円を案じ、震える拳を抑える。

それから冷たくなった兄、要の姿を3人で見つめた。

真っ白なシーツに包まれた真っ白な要の姿を見て、遥は思う。


どうして円さんを置いていっちまうんだよ・・・なぁ兄貴!?

俺はどうでもいいんだ・・・なぁ兄貴・・・兄貴は円さんを幸せにしなきゃならなかったんじゃないのかよ!?なぁ・・・何とか言えよ!!


食いしばった奥歯から血が滲み口内に血の味が広がった。

遥はどこか感情のない声で二人に振り返り、笑顔で言った。


「帰ろう」


要は轢き逃げに合ったということが少し後で分かった。

そして轢き逃げをした人間はまだ捕まっていないということも分かった。

遥はその人間を許すことは出来ないだろう。

もし、警察よりも先に見つけることが出来ようものなら。

そう、自分の手でその人間をコワスだろう。


それから暫らくは葬式などで慌ただしく考え事すらする時間も無いほどだった。


葬式も滞りなく終わり、落ち着いた時間を遥は自室で過ごしていた。

今日は円が泊まっていくと言ったので空き部屋を使ってもらうことにした。

円は遥には涙を見せなかった。

きっと心配させたくなかったのだろうか。

要が死んだ時も、葬式の最中も、二人で話した時も・・・悲しい顔はしても涙だけは見せなかった。

それだけが遥にとっても救いだった。


深夜に遥は目を覚ました。

部屋の電気をつけることなく、喉を潤すためにキッチンに向う。


「ぅ、う・・・あぅ・・・うぅ・・・か、なめ・・・さ、ん・・・うぅ」


心臓が。壊れるかと思った。

遥は要の遺骨を抱いて咽び泣く円の姿を見つけた。


ああ。

と思う。

どうして、円さんが泣かなければならないのだろうか?

暗い感情が心を覆っていく。


どうして兄が死ななければならないのだろうか?

死ななければならないのは・・・轢き逃げをした奴じゃないのか?


そう、円さんから・・・俺から兄を奪った奴は・・・死ねばいい。


『そう。じゃあ、命を奪いにいきますか?』


まるで頭に響くような声に遥は驚いて振り返った。

そこにはあの時病院で見かけた少女が立っていた。

円に気付かれない程度の声で少女に話しかける。


「お前・・・誰だ?不法侵入ですよ?てか、何者だ」

『私?私は・・・』


死神。


少女は自分を死神と名乗った。

突拍子もないことだった。

遥は馬鹿馬鹿しいと思いながらも少女に言った。


「なんだよ。じゃあ俺の魂と引き換えに兄貴を殺した奴を殺してくれるってのか?」

『魂なんて、いらない。貴方は私のパートナーになればいい』


少女は言った。

自分の協力者となって死神家業を手伝えと。

そうするならば、自分の願いである人物を殺してくれると。


遥は一瞬何か考えようともしたが、首を振って口元を歪めた。




「ああ。分かった。俺は今日から死神だ」




どうも〜神楽です。

新たにこんなヘンテコなものを書いています。

楽しんでいただければ幸いです。

更新遅いかもしれませんがどうかどうか温かい目でみてくれると助かります。

では、また次の話であいませう!

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