第二十二話 作戦会議
1941年12月8日、隼と大和は艦橋の上部にある対空指揮場に登っていた。大和の艦橋は海上から50mも離れており、真珠湾を一望する事が出来た。
大和「うぅ〜、頭が痛いです・・・」
隼「昨日の宴会が効いたのかもしれませんね(お酒一杯で二日酔いと言うのも不思議な話だ)。」
一応フォロー(?)を入れる隼、しかし大和は隼を睨んでいた。
大和「隼さん!」
隼「は、はい!」
思わず大声で返事をしてしまう。
大和「なんで私に対して敬語を使うんですか?普通に喋って下さい!」
隼「い、いや。大和は大将ですし・・・」
大和「・・・そうですか。それなら!」
大和はキリッと顔を変える。
大和「望月隼大佐、本日より私に対して敬語を使う事を禁止します。」
隼「それは、いくらなんでも・・・」
大和「これは命令です。大将直々の、です。」
隼は諦めた。
隼「・・・拝命致します。」
大和「よろしい!・・・あぁ、頭痛い!」
隼「・・・・・」
結局、頭は痛いらしい。
その時、真珠湾にサイレンが響き渡った。
『緊急事態発生!緊急事態発生!小沢司令長官並びに各艦艦長、戦略参謀長は海軍基地会議室へお集まり下さい!』
スピーカーからは、ノイズに混じって召集命令が下っていた。
隼「お呼びみたいだね。」
大和「行ってらっしゃい・・・痛っ!」
大丈夫かな・・・?
大日本帝國新海軍本部は、旧アメリカ海軍基地に設置されており、会議室には呼ばれた面々が集まっていた。
小沢「全員来た所で、緊急報告だ。ウェーク諸島の警戒を行っている『波―12』から、アメリカ太平洋艦隊がウェーク諸島に接近しているとの情報が入った。」
隼「ウェーク諸島に?何故です?」
小沢「恐らく給油の為だ。アメリカ太平洋艦隊は、20ktの速度を維持している。旗艦のペンシルバニアや、その他の艦艇の最大速度を出している。途中で燃料補給が必要となる。」
野田「すると、5日以内に接触する可能性が有りますね・・・」
大和艦長の野田中将が発言した。
確かにそうだ。中央太平洋には、ハワイと逆方向に海流が流れている。20ktなら、本来2・3日で帰還出来るが、海流の関係で5日程は掛かる。
その事を踏まえて言ったのだが、1人異論を唱えた。
「全く、そんな消極的な考えしか出来ないとは。これだから女は・・・」
いきなりの差別発言をした奴に、隼は思わず顔を歪ませた。
隼(また彼か・・・)
隼は、呉海軍育成学校の第三十四期生の首席で卒業したが、その下即ち副首席に居たのが、今発言した横森定雄だ。育成学校時代、隼と定雄は暫し対立する事が多かった。
理由は勿論、『大艦巨砲主義』と『航空機主兵装』の議論だった。
隼が卒業した1939年、既に大艦巨砲主義は過去の遺物と化していた。航空機こそ敵艦隊を殲滅できる有力な兵装となっていた。
しかし、これには反対派も勿論いた。航空機ごときに、戦艦を沈める事など不可能だと主張した。
だが、結局大艦巨砲主義は切り捨てられた。『マル6艦艇計画』も、空母に重きを置いた物になり、戦艦は対地支援砲撃にシフトチェンジした。
それでも、目の前の定雄の様に航空派の出鼻を挫こうと躍起になっている少数派も残っている。
定雄「敵艦隊など、我らが大和にかかれば10分で全艦海の底です。艦隊決戦で決着を付けましょう!」
赤坂「しかし、敵の空母はどうなされるんですか?」
第一独立機動艦隊の作戦参謀長の赤坂大佐が訊いた。
定雄「そんな物、肉薄して砲撃すれば沈みます。あ、因みに航空機の援護不要!無敵の連合艦隊に蛇足は要りません!」
小沢「と、彼は言っているが、どうかね?望月君。」
小沢長官は、『こいつを黙らしてくれ』と言わんばかりに訊いてくる。
隼「1つ・・・作戦の提案が有ります。」
定雄「おい隼、聞いていなかったのか?艦隊決戦で・・・」
隼「そんな時代遅れの作戦を起用する程、此方は暇では無いんですよ。横森大佐。」
定雄「何!?時代遅れだと!貴様!」
そんな定雄を無視して話を進める。
隼「今回の作戦は、1つの敵に対して集中的に攻撃をかけます。」
小沢「1つの敵に?具体的には。」
隼「艦爆隊は空母を、艦攻隊はある戦艦を狙います。」
赤坂「ある戦艦ですか。大体想像はつきますね。」
小沢「ペンシルバニアとアリゾナの2隻だな。」
隼「その通りです。半身不随になった所を金剛型4隻と大和型4隻で砲撃します。」
野田「8隻だけですか?」
隼「長門型には後方支援に回って貰いましょう。宜しいですか?竹中中将。」
小沢長官の横に座っている長門艦長の竹中嘉一中将に訊いた。
竹中「あぁ、自分はいいぞ。」
隼「有り難うございます。」
小沢「因みにこの8隻を選んだ理由は?」
隼「金剛型は41kt出せる韋駄天艦です。大和は46㎝の主砲を持っていますから・・・」
定雄「はん!やはり貴様は能無しだな。」
踏ん反り返って定雄が言った。
定雄「相手に手の内を見せる馬鹿が何処にいる。秘密兵器は隠してこそ威力を発揮する。アメリカに対して塩を送ってやるような事をするのか?」
隼「・・・その通り。」
定雄「な・・・!」
あっさり答えた隼に驚愕した定雄。
隼「相手に圧倒的力を見せ付けてこそ秘密兵器、使わなければ宝の持ち腐れになります。上手くいけば、敵に大打撃を与える事も不可能ではありません。」
定雄「しかし―――」
未だに反論しようとする定雄だったが、そこまでだった。
小沢「分かった。望月大佐、至急作戦立案を頼む。」
隼「了解しました。」
こうして、作戦会議は終了した。日米の初対決の時間は、刻一刻と近付いていた。
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