第十四話 紅い悪魔:2
日本陸軍特設輸送艦の奮闘です。
同時刻、特設輸送艦『魔王』を狙っていたのは、太平洋艦隊所属の潜水艦『カシャロット』であった。
53.3㎝魚雷発射管6門を搭載しているこの潜水艦は、フォード島海軍基地から出港して、この艦隊を見付けたのだ。
カシャロット艦橋
艦長
「魚雷発射管に全弾装填、全門雷撃を敢行する!」
「ジャップ、いい気になるな・・・」
憎しみを露にして呟いたのは、この潜水艦の艦魂『カシャロット』だった。
通常の輸送艦に6本もの魚雷を狙うのはほぼ無い。それ程、乗組員の怒りは凄まじい物だった。
だが―――
監視員
「て、敵艦発砲!」
艦長
「何!?敵は間抜けか?」
本来考えればそれも当たり前である。潜航している潜水艦に砲弾など当たる筈無い。
本来ならば、である。
ザバン、と3回着水音がすると艦内には安堵の声が広がる。が、次の瞬間―――
ドゴーンッと3回炸裂音の後に艦が大きく揺れる。砲弾が海中で炸裂する筈が無い。ならばこれは・・・
艦長
「ば、爆雷攻撃か!!」
砲撃で油断させておき、上空から偵察機で爆雷を投下しているに違いない、そう考えた艦長だが事実は大きく異なった。
魔王から発射されたのは、『十五糎砲用零式爆雷』である。
その名の通り、15㎝砲から発射出来る爆雷で、通常爆雷よりも威力は弱いが、速射性があり多数搭載出来る利点があった。
次々舞い降りて来る爆雷に為す術なくカシャロットは次々に損傷箇所が発生した。
通信員
「機関室浸水!速度65%減少、まだ止まりません!魚雷発射管室も浸水!魚雷発射はほぼ不可能です!」
艦長
「・・・命令通り、魚雷発射だ。」
通信員
「りょ、了解しました!」
既に艦橋にも海水が流れ込みこの艦は長くない事を克明に見せ付けていた。
その場に、カシャロットは居なかった。
カシャロット
魚雷発射管室
カシャロット
「ハァ、ハァ・・・グハッ!」
血を吐きながら、カシャロットは魚雷発射管室に来ていた。
自分はもうすぐ沈んでしまうだろう。しかし、何も出来ないのは余りにも悔しい。憎き敵、日本艦艇に対して一撃を見舞わねば、死ぬに死ねない。
カシャロット
「貴様も、道連れ、だ・・・ジャップ。」
魚雷が4本だけ発射された後、カシャロットは大爆発を起こし、ハワイ北部の海域に身を沈めた。
魔王 艦橋
見張り員「雷跡接近!数4、回避不能!」
敵潜を攻撃していた魔王に魚雷が迫る。
谷口「全員、何かに掴まれ!」
次の瞬間、2度の揺れが魔王を襲った。
魔王 電探所
魔王「クッ・・・!」
思わず顔が歪む。この『魔王』型輸送艦は通常の輸送艦とは違い、軽巡程度かそれ以上の防御力を持っている。その為、潜水艦用魚雷は愚か、対艦用の魚雷にも耐えられるのだ。
だが、どう足掻いても所詮輸送艦は輸送艦。速度も23ktが限界であり、輸送艦としての本質は変わらない。魚雷2本もかなりきつくなる。
魔王「・・・・・」
自分の横腹から流れる血を右手で触る。そのまま口に運び舐める。
魔王「そなたの血、確かに貰ったぞ・・・」
浮遊物が漂う海域を眺めながら、魔王は呟いた。
日本側の艦艇にも損害が出ました。
次回は第一独立機動艦隊が動き出します。