第九話 燃ゆるオアフ島
本人視点で進みます。
背中に激痛が奔るのと、爆音が耳に入ったのは同時だった。
崩れる様に倒れ、その合間に見えたのは純白の翼。
顔を上げるとそこにあったのは、3つの穴を開けて炎上している『自分』だった。
意識が朦朧と成るのを必死に押さえ、見回すと対岸のフォード島が燃えていた。
次々と急降下を掛けているのは、自分が見たのと同じ純白の翼、その機体にはアメリカ海軍の星条旗マークでは無くつい先日までアメリカ軍関係者が馬鹿にしていた『日の丸』が付いていた。
ワスプ「・・・フフッ」
痛みでどうにかなってしまいそうにもかかわらず、私は笑った。
ワスプ「フフッ、アハ、アハハハハハ!」
これ以上の茶番が有るだろうか。つい先日まで『ジャップにアメリカを攻撃出来る訳が無い』と、軍と政府、そして国民は思っていた。たかが極東の黄色い猿だと、黄色人種だと考えていた。
それがこの様だ。驕りがそして油断が、日本に味方したのだ。
そしてこの瞬間、全てが分かった。何故、大日本帝國と亜細亜連合軍は宣戦布告の日時を『ハワイ時間』にしたのかを。
米日の中間点に有るとは言え、宣戦布告は米英蘭の3ヶ国である。日本時間の方が都合がいい筈だ。
だが、よく考えればそれは当り前だった。最初から目標がハワイだったのだ。
ワスプ「アッハハハハハ!」
狂った様に笑いだす。こう成ったら笑うしか無い。日本艦隊の艦魂達も笑っているだろう。航空機を運び、敵機を打ち落とす空母が何も出来ずに炎上している。これ以上のジョークはそうそう無いだろう。
傷の痛みを我慢しながら、私は仰向けに寝転がる。
止めを差せ、日本軍。動く事の出来ない空母等、恰好の獲物だ。
そう思っていると、案の定右舷から3機の雷撃機がやって来た。私に引導を渡すのは、あの雷撃機か。
力を振り絞って、立ち上がる。
ワスプ「さぁ殺せ、日本軍!!私は最後までアメリカ海軍の威厳を捨てたりはしない!」
私はもうじき沈む。1度も実戦に出る事も無く、このハワイオアフ島のフォード島軍港に沈む。
・・・姉さん、ごめん。私、もう駄目みたい。
また、皆で遊びたかった・・・
私は迫って来る雷撃機を見ながら姉たちを、そして仲間達を思った。涙は流さない。
威厳ある合衆国海軍の1艦魂、最後は華々しく散る。再び仲間達と会える、そう信じて・・・
そして3機は魚雷を投下した・・・
少し時系列は戻り、奇襲成功の一報を聞いた真・八八艦隊の旗艦『大和』第一艦橋は湧いていた。
通信兵「先発隊より入電!『トラ・トラ・トラ』、奇襲成功!奇襲成功です!」
艦橋が熱気に包まれる。
望月「・・・・・」
複雑な気持ちだ。
始めての戦果、喜ぶべき事の筈なのに、喜べない。
通信では、エセックス級空母1隻を中破させたらしい。3発もの500㎏爆弾を食らえば、どんな空母も中破は確実である。
自分が考えた作戦で、人が死んでいく。もしかしたら、関係の無い人達も死んでしまうかもしれない。
複雑な心境になっていると、横から小沢長官が言った。
小沢「望月、分かったな。これが、戦争という物だ。」
戦争を経験した事が無ければ出せない、声のトーンで言われた。
こうやって、軍人は戦争に慣れていくのだ。自分も受け入れ無ければ、生き残る事は、出来ない。
魚雷を一身に受けるつもりだったにもかかわらず、自分には当たらなかった。
今私は、信じられない光景を目の当たりにしている。
手前には、私を守る為に3本全ての魚雷を受け止めた1隻の軽巡がいた。
ワスプ「ヘ、ヘレナ?」
セントルイス級軽巡洋艦のヘレナだった。
ワスプ「ヘレナ、ヘレナ!」
私は自分の傷等忘れて、ヘレナへ転移した。
軽巡ヘレナ
少しだけ傾斜している艦内で『彼女』を必死に探した。
魚雷3本を食らっても沈まないのは不思議だったが、運が良かっただけかもしれない。とにかく、捜し出さなければならない。
『彼女』は、艦橋の対空観測所に倒れていた。
ワスプ「ヘレナ!しっかりして!」
右腹から血を流しながら呻いている軽巡ヘレナの艦魂、ヘレナは薄く目を開けた。
ヘレナ「あぁ、ワスプさん・・・だ、大丈夫ですか?」
ワスプ「私の事より、貴女の心配をしなさい!なんで、こんな事を・・・!!」
ヘレナ「わ、私、ワスプさんやペンシルバニアさんみたいに、はぁ、敵とまともに戦えません。だから、ワスプさんを助けたくて・・・」
ワスプ「バカ!バカバカバカ、うぅぅぅぅぅ。」
私は泣いた。自らの命を犠牲にしようとした彼女の健気さは、泣かなければ消えてしまいそうだった。
ヘレナは、爆弾命中時に機関を始動させ航行を開始していた。そんな時に攻撃が始まった。
一瞬慌てたヘレナ乗組員達だったが、ワスプに対する雷撃が行われそうになると、全速でワスプの横に出た。
最高速よりも2ktも速く出したのは、艦魂の力であった。
空母1隻、軽巡1隻の中破から始まった攻撃隊の攻撃、本格的攻撃は開始された。
次回はアメリカ軍の反撃です。