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業火鎮魂

全8話+エピローグ完結済みです。毎日19時頃に更新予定です。

あらすじや各話のタイトルや文章の精査にAIの力を借りています。

 ミッドウェーの海は、地獄の業火に包まれていた。

米軍空母『ヨークタウン』は断末魔の叫びを上げて爆沈し、海面には数千の将兵と、黒煙を上げる鉄の残骸が漂っている。


「――が、あああああああッ!」


 一号機のコクピット内で、真壁の叫びが響く。

全身の配管を流れる霊素は、もはや純金ではなく、禍々しい「黒金色」に変色していた。1年の修験、そしてこの激戦で蓄積された『穢れ』が、ついに霊式発動機の臨界点を突破したのだ。


「真壁! 落ち着け、もう敵は壊滅した! 戻るんだ!」


 階堂の二号機が制止に入るが、暴走した一号機はその独鈷杵を振るい、味方であるはずの階堂をも弾き飛ばした。


「……邪魔だ……。墜とす……全部、墜としてやる……!」


 真壁の視界は赤く染まり、敵も味方も、海も空も、すべてが「理の敵」として映っていた。


 一号機の背中からは、霊力で形成された巨大な、しかし歪な「四本の腕」が伸長し、周囲の米軍駆逐艦を紙細工のように引き裂いていく。


「真壁先輩! やめてください!」


 佐藤の三号機が取り縋るが、一号機はそれを振り払い、さらなる破壊を求めて狂い鳴く。


 機体のマニ車は、悲鳴のような高音を発しながら逆回転を始め、真壁の精神たましいを確実に「鉄」へと造り変えていった。



 その時、伊四〇三の甲板に、一人の影が立った。

激しい爆風と荒波の中、墨色の袈裟をなびかせた妙蓮だった。


「……真壁さん。もう、いいのです」


 彼女は、拡声器を持つ源さんの手を借りず、ただ静かに、心の中で理を紡いだ。


 一号機と直結した彼女の霊素が、暴走する真壁の脳裏に、直接「祈り」を送り込む。


(真壁さん。思い出してください。蓮華島の、あの般若湯の夜を)


 真壁の荒い呼吸が、一瞬止まった。


 脳裏をよぎるのは、血の匂いではなく、妙蓮が差し出した羊羹の甘み。源さんの笑い声。そして、自分が歌った『ラバウル小唄』の、切ない旋律。


(あなたは……空を飛びたかっただけのはずです。誰かを殺すためではなく、美しい南洋の夕陽を見るために)






「……みょう、れん……さん……?」


 一号機の黒金色の光が、激しく明滅する。

真壁の背中から生えた異形の腕が、砂のように崩れ落ちた。


 だが、暴走の代償は残酷だった。過負荷に耐えかねた霊式発動機が、内部から崩壊を始めたのだ。


「総員、退避ィッ!」

源さんの叫び。


 一号機の心臓部のマニ車が、光の粒子となって霧散していく。


 真壁は、急速に意識を失っていく中で、機体が海へと沈んでいくのを感じた。


「……ああ、これで……約束、守れねえな……」



 漆黒の海の底へ、静かに沈んでいく黄金の巨躯。

だが、その時。海面から一本の「光の糸」が伸び、沈みゆく一号機の腕を掴んだのは、階堂の二号機と、佐藤の三号機だった。


「勝手に死なせてたまるか、上飛曹! 貴様の下手くそな歌、まだ一回しか聞いてねえんだぞ!」


「先輩! 戻りましょう、蓮華島へ!」


 二機の迦楼羅が、残存する全霊力を振り絞り、一号機を海面へと引き揚げた。


 伊四〇三の甲板に横たわった一号機は、もはや光を失い、ただの鉄の塊に戻っていた。


 ハッチが開き、中から血塗れの真壁が這い出す。

駆け寄る妙蓮。彼女は真壁を抱き抱え、その胸に顔を埋めた。


「……生きて……生きていてくれました……」


「……妙蓮さん。悪い……迦楼羅、壊しちまった……」


「いいのです。機械など、また作ればいい。あなたが、あなたとして戻ってきてくれたなら」


 ミッドウェーの戦いは、日本軍の「奇跡的な勝利」として幕を閉じた。


 だが、この一戦で迦楼羅の脅威を知った連合国は、さらなる科学と魔導の融合を進めるだろう。


数週間後

蓮華島の入り江には、静かな風が吹いていた。

真壁は、両足の感覚を失い、車椅子に座っていた。霊式発動機との過同調による、後遺症

もう二度と、迦楼羅に乗ることはできない。パイロットとしての真壁順一は、あの日、ミッドウェーの海で死んだのだ。


 だが、彼の隣には、尼僧の衣を脱ぎ、質素な着物を纏った妙蓮がいた。


「真壁さん。見てください、芽が出ましたよ」


 彼女が指差したのは、ドックの入り口に植えられた、小さな蓮の花の芽だった。


「……ああ。綺麗だな、妙蓮さん」

真壁は、彼女の手を握った。


 その手のひらからは、あの黄金の梵字は消えていた。代わりにあったのは、一人の女性を支えるための、温かな体温だった。


 空を見上げれば、階堂と佐藤が、新しく配備された四号機の試験飛行を行っている。

薄紅色の光が、南国の青空を自由に舞う。


「…いい空だな」


「ええ。本当に」


戦いは、まだ終わっていない。


 だが、鉄の神仏に魂を売った男は、今、一人の人間として、愛する人と共に静かな夕陽を見つめていた。 

それは、あまりにも小さく、あまりにも尊い、彼らだけの勝利だった。

(完)

最終話まで読んでいただき感謝です。

エピローグもありますので、明日も読んでいただけたら嬉しいです。

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