鉄曼荼羅
全8話+エピローグ完結済みです。毎日19時頃に更新予定です。
あらすじや各話のタイトルや文章の精査にAIの力を借りています。
昭和十七年 夏 ミッドウェー海域。
かつて世界に冠たる連合艦隊が壊滅したその海は、今、勝者である米英連合艦隊の凱歌に満ちていた。
水平線を埋め尽くすのは、米軍の正規空母『ヨークタウン』『エンタープライズ』を中心とした十数隻の機動部隊。
その上空を、英国の魔導装甲兵器『アロンダイト』の精鋭部隊が、白銀の翼を広げて傲然と哨戒していた。
その鉄の城壁の下、海面下数百メートル。
静寂に包まれた超大型潜水艦『伊四〇三』の艦内には、異様な熱気が渦巻いていた。
「全機、始動準備! マニ車まわせ!」
源さん班長の怒声が、格納庫に響く。
艦内に増設された巨大な大マニ車が、蓄電池の総力を挙げて超高速回転を始めていた。
重低音が、乗員たちの五臓六腑を揺らす。
真壁は、一号機のコクピットで妙蓮の手によって書き直されたばかりの梵字を見つめていた。
「真壁さん。あなたの手のひらの文字、まだ消えてはいませんか?」
出撃直前、妙蓮が真壁の独鈷杵を握る手に、自らの手を重ねた。
「…ああ。妙蓮さん。あんたの祈り、一文字たりとも無駄にはしねえ」
「…不動明王の憤怒を、どうか、守護の力に変えて。生きて、戻ってください」
妙蓮の瞳には、涙はなかった。ただ、燃え盛るような決意だけがあった。
彼女は数珠を機体の脚部にかけ、最敬礼で真壁を見送った。
「急速浮上! メーンタンクブロー!艦首上げ舵一杯!」
艦長の号令と共に、伊四〇三の巨体が海面を割って飛び出した。
甲板が露わになった瞬間、格納庫のハッチが開き、三機の迦楼羅が姿を現す。
「真壁! 階堂! 佐藤! 行けッ!」
源さんの叫び。
三号機(量産型)を駆る佐藤が、先陣を切って飛び出した。
「佐藤! 出過ぎるな、俺の薄紅の光から離れるなよ!」
続けて、階堂の二号機が薄紅色の光を引いて蒼空へ跳ねる。
そして最後
真壁の一号機が甲板を踏み締め、独鈷杵を天に翳した。
「霊式発動機、理、接続完了……迦楼羅、起動ッ!」
真壁の咆哮に呼応し、一号機の全身を走る配管が、これまでになく「鮮烈な純金色」に爆ぜた。
海面を蹴り、黄金の光を撒き散らしながら、一号機が米英連合艦隊へと突撃する。
「――なんだ、あの人型は!? ジャップがブッダスタチューを動かしてきたのか!」
米軍空母ヨークタウンの艦橋が蜂の巣をつついたような騒ぎになる。
「面舵一杯! 対空砲火、全門開け!」
米軍の圧倒的な物量が、火を噴いた。五インチ砲、四十ミリ機関砲、二十ミリ機銃。空を埋め尽くすほどの弾幕が、三機の迦楼羅へ襲い掛かる。
「――っ!?」
佐藤の三号機が、弾幕に呑まれかける。
「焦るな佐藤! 理の流れを読め!」
真壁の一号機が佐藤の前に割り込み、独鈷杵を海面に叩きつけた。
霊力によって固定された海水の盾が、米軍の砲弾を次々と弾き返す。一年の修験で培った「環境への干渉」。
「助かった、先輩!」
「油断するな、英国の騎士が来るぞ!」
上空から、十数機のアロンダイトが急降下してきた。
「邪教の猿どもめ気が触れたか。その醜い邪神の像ごと、深い海へ沈めて浄化してやろう」
敵のエースがバイザー越しに冷徹な声で告げ、ランスから漆黒の雷撃を放った。
「フン、邪教だと? 貴様らの魔導こそ、我が帝国の神仏の前には、ただのまやかしに過ぎん!」
階堂の二号機が、薄紅色の光を引いてアロンダイトの群れへ突っ込んだ。
「今義経」の八艘飛び
階堂は、敵の雷撃を紙一重のマニューバで回避し、空中で複雑な軌跡を描きながら、独鈷杵の石突でアロンダイトの防御障壁を次々と粉砕していく。
「真壁! 雑魚は俺が引き受けた! お前は、あのジョンブル共の『理』を、その糞力で断ち切れッ!」
「了解ッ! 妙蓮さん、見ててくれ……。理よ、紡げッ!」
真壁の迦楼羅が、アロンダイトの先導機へ肉薄した。
相手は、かつて自分を撃墜した「鐘の音」を響かせる機体。だが、今の真壁に恐怖はない。あるのは、赤城や加賀の無念、そして妙蓮との約束を守り抜くという、静かな、しかし苛烈な不動明王の憤怒だけだ。
「――ぬおぉぉぉッ!」
真壁の一号機が、全霊力を大独鈷杵に集中させ、黄金に輝く光の太刀を形成する
一刀両断
黄金の刃が、アロンダイトの胸部に刻まれたラテン語の呪文を文字通り「粉砕」した。
理を失った騎士は、金属の叫びを上げて爆散し、蒸気となって霧散した。
「ッ馬鹿な!? 我が魔導障壁を、邪教従が…」
敵のエースが驚愕の声を上げる。
「真壁先輩、やりましたね! ……ああっ、しまった!」
佐藤の一瞬の叫び、三号機が、米軍機の弾幕を避けきれず、脚部を損傷して海面へ落下した。
「佐藤ッ!」
真壁は、勝利の余韻に浸る間もなく、三号機の元へ急降下した。
「……真壁先輩、自分、ここまでです。機体のマニ車が、もう回りません…霊素蓄電池の残量も…」
「馬鹿野郎! 妙蓮さんが毎日、魂を込めて書いてくれる文字だ! 勝手に終わらせるんじゃねえ!」
真壁は、落下していく三号機の腕を掴み、己の霊力を流し込んだ。
「立て佐藤! 妙蓮さんの祈りを、無駄にするな!」
真壁の掌に刻まれた梵字が脈動し、その光が独鈷杵を通じて三号機へと流れ込んだ。
枯れ果てていた三号機が、まるで乾いた大地に水が染み渡るように、再び生命の脈動を取り戻して黄金の霊素が連鎖するように駆け巡る。
損傷していた三号機の梵字が、再び黄金色に輝き、海面を蹴って立ち上がった。
「ッ…あれ?先輩?自分まだ生きてます?」
「よし! 階堂さん、佐藤を頼みます! 俺は、敵の母艦を墜とす!」
真壁の一号機が、黄金の光を撒き散らしながら、米軍空母ヨークタウンへ向かって超高速で突撃する。
空を埋め尽くすほどの弾幕。だが、今の真壁には、その弾道が「理の流れ」として見えていた。
「赤城、加賀、蒼龍、飛龍…みんな、見ててくれ!」
真壁の一号機が、ヨークタウンの艦橋へ向かって、大独鈷杵を振り下ろした。
凄まじい爆発。ヨークタウンの艦橋が崩れ落ち、艦体は大きく傾き始めた。
ミッドウェーの海に、黄金の曼荼羅の波紋が広がる。
それは、新たな戦争の形態が始まった瞬間であり、地獄の始まりであった。




