般若湯宴
全8話+エピローグ完結済みです。毎日19時頃に更新予定です。
あらすじや各話のタイトルや文章の精査にAIの力を借りています。
「野郎ども! 待ちに待った『仏様』のお出ましだぞ!」
源さんの野太い声が、蓮華島の入り江にこだました。
水平線を割って浮上してきたのは、補給物資を満載した大型潜水艦。一ヶ月に一度、この孤島が内地と繋がる唯一の瞬間だ。
「真壁上飛曹! お噂はかねがね! 自分、三号機の操縦士を拝命しました、佐藤一飛曹であります!」
潜水艦のハッチから飛び出してきたのは、丸顔で人懐っこい笑みを浮かべた若者だった。
「…佐藤か。三号機(先行量産型)は、一・二号機に比べて霊素の安定性が増してる。乗りやすいはずだ」
「ははっ! 真壁先輩にそう言っていただけると心強いです! それとこれ……内地の土産です!」
佐藤が差し出したのは、厳重に梱包された木箱。中には羊羹、干し柿、そして内緒で持ち込まれた「牛缶」が詰まっていた。
「おっ、牛缶か! 久しぶりだな」
真壁が手を伸ばそうとした瞬間、背後に冷ややかな、しかし凛とした気配が立った。
「真壁さん。殺生禁断のこの島に、畜生の肉を持ち込むのは感心しませんね」
妙蓮だった。数珠を手に、静かな、しかし有無を言わせぬ圧を放っている。
「い、いや、これはその……佐藤が気を利かせて……」
「ナマグサは、理を濁らせます。没収です」
「そんな殺生な!」
佐藤が泣きつくが、妙蓮はひらりと袖を翻し、牛缶の箱を回収してしまった。
「……ま、諦めろ佐藤。尼さんに睨まれたら、機体のマニ車も回らなくなるからな」
階堂中尉が、どこから調達したのか、高級な漆塗りの器を持って現れた。
「だがな妙蓮さん。こいつは『般若湯』だ。知恵を授かるための薬であって、決して酒ではない。……そうだろう?」
階堂が差し出した器には、なみなみと注がれた清酒。
妙蓮は一瞬、眉をひそめたが、すぐにふっと表情を緩めた。
「……薬ならば、仕方がありませんね。源さん班長にも、一献差し上げてください。皆様、この三ヶ月、本当によく耐えておられますから」
その夜、ドックの片隅で小さな焚き火を囲み、宴が始まった。
パチパチと爆ぜる薪の音。羊羹を肴に般若湯を啜る、ささやかな時間。
「真壁よ、せっかくの補給祝いだ。一曲景気よく頼むぜ、お前の喉を聞かせてくれよ!」
源さんが上機嫌で真壁の肩を叩く。佐藤も「いいですね! 先輩!」とはやし立てた。
真壁は照れくさそうに頭を掻いたが、やがて盃を置き、南方の夜空を見上げて静かに歌い出した。
「さらばラバウルよ また来るまでは……」
少し掠れた、だが通る声
「…その歌、どこで覚えた? 聞いたことのない節だが」
源さんの問いに、真壁は遠い目をして答えた。
「ラバウルの酒場で、内地から来たばかりの飛行艇乗りが口ずさんでいたんです。誰が作ったかも知れない、名もなき兵隊の歌ですよ」
一度はラバウルの海に沈みかけた男が歌う
名もなき小唄
佐藤も「先輩、続きを聞かせてください」と盛り上げるように催促するが、その場の空気は、どこか薄い膜を張ったような哀切に包まれていった。
焚き火の光に照らされた真壁の横顔は、歌い進めるうちに「戦士」から「一人の若者」へと戻っていく。
妙蓮は、その歌声を聞きながら、膝の上で数珠を握りしめていた。
(さらば、ラバウル……)
真壁はあの日、死と引き換えに、かつての自分を捨ててこの島に来た。今、彼の背中には迦楼羅の刺青のような痣があり、その魂は鉄の巨神と溶け合っている。
歌い終えた真壁は、寂しげに笑って般若湯を飲み干した。
「……もう、戻れない空の歌ですよ」
「……馬鹿を言うな」
階堂が、盃を焚き火に翳した。
「俺たちは、新しい空を創るためにここにいる。真壁、お前は歌も不恰好だ。だから次は、蓮華島を祝う歌を妙蓮さんに作ってもらうんだな」
「いいですね! 蓮華島音頭! 振り付けは自分がお教えします!」
佐藤の茶化すような声に、場に再び笑いが戻る。
だが妙蓮だけは、真壁の歌声の中に、消えることのない深い孤独と、帰らぬ戦友たちへの祈りを聞いていた。
「……真壁さん。もし、この戦いが終わったら」
妙蓮が、搾り出すような声で言った。
「その時は、この島に蓮華の花を植えましょう、鉄の匂いではなく、花の香りに包まれて、あなたはただの『真壁順一』に戻るのです」
「……ああ。約束だ」
般若湯の酔いが、二人の距離をあと数センチだけ近づける。
後書きという名の言い訳
今回、新たに登場した新キャラ佐藤君と三号機
ムードメーカーは必須でしょ?
• 三号機: 佐藤機。初の量産型。マニ車にタングステン合金を採用し、試作機にしては高い安定性を確保。
仏核は軍荼利明王 パワーの一号 テクニックの二号 バランスの三号




