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エピローグ 蓮華吹風

全8話+エピローグ完結済みです。毎日19時頃に更新予定です。

あらすじや各話のタイトルや文章の精査にAIの力を借りています。

ミッドウェーの激闘から三年。

第二次世界大戦と呼ばれた史上最大の戦争は枢軸国の敗北という形で終結した。


 大日本帝国は米英ソを主軸とする連合軍に対し、大陸で、南方で、善戦を続けた結果、戦争開始当初の目標に近い、有利な条件を引き出しての、緩やかな敗北であった。


 蓮華島の入り江は、今や鉄の匂いではなく、潮風と、そして泥の中から凛と咲き誇る蓮の花の香りに包まれている。


 車椅子の真壁は、ドックの入り口に作られた小さな池のほとりで、その白い大輪を見つめていた。


「……咲いたな。妙蓮さん」


「ええ、順一さん。あなたが約束してくださった通りに」


 傍らには、尼僧の衣を脱ぎ、質素な着物をまとった妙蓮が寄り添っている。彼女の手は、かつて梵字を書いていた時よりも、少しだけ土の匂いがしたが、その温もりは変わらない。


 真壁の両足は、あの日以来、動くことはなかった。だが、その瞳に宿る光は、黒金色の穢れに呑まれた時のような禍々しさは微塵もない。


 ふと、上空から「教会の鐘の音」とは違う、微かで清澄な、まるで「りんの音」のような残響が響いた。


 見上げれば、夕陽を浴びて、二十機もの銀色の機体が、一糸乱れぬ編隊飛行を行っている。


最新型の『迦楼羅・量産型』


 それは、真壁が乗った一号機のような、配管が剥き出しの荒々しい姿ではなかった。装甲は洗練された曲線を描き、霊素伝達管は装甲の内側に完全に格納されている。


 そして何より、機体の胸部で回転するマニ車は、かつてのような真鍮の無骨なものではなく

「人工結晶」で造られた、透き通るような美しい造形だった。


「……随分と、綺麗になったな。迦楼羅も」

真壁が呟く。


 量産型は、真壁の暴走という尊い犠牲から学んだ「穢れ(けがれ)」の自動浄化システムを搭載していた。


 妙蓮のような熟練の霊素調整官がつきっきりで祈祷を捧げなくとも、結晶マニ車が常に霊素を清浄に保ち、安定した出力を約束する。それは、誰もが安全に、かつ強大に「理」を扱える、真の完成された仏像だった。


 編隊の先頭を行くのは、薄紅色の光を引く階堂、そしてその脇を佐藤がしっかりと固めている。


「――よう、真壁! 隠居生活はどうだ?」


階堂の声が、通信機からではなく、霊力を介して直接、真壁の脳裏に響いた。洗練された精神同調だ


「階堂さん……。相変わらず、鼻につくほど完璧な編隊ですね」


 真壁が苦笑いしながら手を振り返す。


佐藤も

「先輩! この新型、最高ですよ! マニ車が全然ブレません!」と興奮している。


二十機の迦楼羅が、夕陽に向かって一斉に加速する。


 結晶マニ車が奏でる清らかな鈴の音が、南国の空に広がり、それはまるで、去りゆく時代への鎮魂歌であり、新しい時代への讃歌のようでもあった。


「……もう、俺たちが命を削らなくても、誰もが空を見上げられるんだな」


 真壁の言葉に、妙蓮は静かに頷いた


「あなたが、あの荒々しい不動明王の化身のような一号機で、誰よりも深く理を纺いでくださったからこそ、あの子たちは、こうして優しく飛べるのです」


 妙蓮が真壁の手を握りしめる。


 手のひらに残った微かな火傷の跡は、彼がかつて不動明王として戦った証。だが、今はその上を、蓮華の香りを孕んだ優しい風が吹き抜けていった。



 水平線の彼方、穏やかで真っ赤な夕陽が、海を染めていく。


 二十機の迦楼羅の影は長く伸び、やがて夕焼けの中に溶け込んでいった。

(完)

本当にお終いです。

この設定を活かした、スピンオフで陸軍側の霊式兵器や迦楼羅開発秘録などを執筆予定です。

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