転生
「なんだこのプログラムは!!無駄だらけで非効率じゃないか。」
俺の名前は倉沢湊。ある会社でコンピュータエンジニアとして働いていて、自社システムの効率化を任されている。
今はこの会社のプログラムのあまりの汚さに体がムズムズし、もう2週間も徹夜で働いている。
「よし、あとはここの条件分岐の処理を無くしてっと……やった、完成したぞ!! これで前よりも2倍は処理が早くなるはずだ! ついにやりきったぞぉぉ……」
達成感と共に、俺はそこで力尽き、意識が飛んだ。
「ん……ここは」
目が覚めたら、俺は会社ではなく知らない場所にいた。
地面は都会のコンクリートでもなければ土でもない。錆びついた鉄の板、巨大な配管、ケーブルの塊が隙間なく地面を埋め尽くしている。
周りにはバラック小屋と言うべきだろうか、機械の部品のような廃材で作られた家がポツポツと建っている。
「なんだこの暑さは……」
暑さが半端じゃない。日本でも夏の暑さが年々厳しくなっているが、そんなもの比にならない。
足元の鉄板からゴーッと、下から熱風が吹き上げてきている。まるで巨大なパソコンの排熱ファンの上にいるみたいだ。
このままでは干からびて死んでしまうので、俺は近くの家を訪ねることにした。
「すみまーせん。水を貰えないでしょうか」
ドンドンドン、と鉄のドアを叩く。
するとドアが開き、中から20代くらいの背の高い女の子が出てきた。燃えるような赤毛で、バンダナで後ろに束ねている。額には作業用ゴーグルをつけていて、技術屋って感じの子だ。
「はあ? なんであんた、そんな恰好でホットスポットにいるの!? 死にたいわけ?」
なんだこの子は。いきなり訪ねた俺も悪いとは思うが、いきなり怒鳴ることはないだろう。
それにそんな格好ってどういうことだ? 俺はいつものスーツ……あれ? なんか服がブカブカなんだぞ。
「……あの、とにかく水……」
「ったく、親はどうしたのさ! とにかく上がって、そのままじゃ焦げて死んじゃうよ」
女の子は俺の首根っこを掴むと、ひょいっと猫みたいに持ち上げて部屋の中に引きずり込んだ。
部屋の中は工具や機械部品がたくさんぶら下がっていて、少し油臭い。でも冷房が効いているのか涼しい。生き返る……。
「ほら、これ飲みな」
「ありがとうございます」
俺は出されたコップに飛びつき、一気に飲み干した。少し油臭い味がしたが、今はどうでもいい。
少し頭に余裕が出てきた。
「で、どうして一人で外にいたの? ここは機械神の排熱が一番キツイ場所だよ。子供が出歩く場所じゃない」
さっきからこの子は、俺を小さい子供みたいに扱ってくるな。俺は大の大人だぞ?
俺は自分の体を見る。
……白いボロボロの布切れを着ていて、手足が棒みたいに細い。視界の端には、汚れてはいるがサラサラした長い銀髪が見える。
今まで「この女の子、やけにデカいな」と思っていたが、もしかして俺が低いのか? 確かに部屋の机もかなり高い位置にある。
「あ、あ、あのーすみません。鏡を持ってきてもらってもいいですかね?」
「は? 鏡? ……まぁいいけど」
持ってきてくれた鏡を覗き込む。
そこには、機械油と煤ですっかり薄汚れた、8歳くらいの幼女が映っていた。
髪は灰色っぽくくすんだ銀髪。目は右が赤で左が青のオッドアイだが、徹夜明けの社畜みたいに目が死んでいる。
……マジかよ。
俺、幼女になってる。しかも顔が良い。
確かに股間のあたりがスースーするなとは思ってたが、まさかこんなことになってるとは。
これなら、この女の子があんな反応をするのも納得がいく。
「あのー、俺って幼女ですよね?」
「頭大丈夫? 熱でやられた? 間違いなくチビで汚い女の子だよ」
女の子は呆れたように言った。
どうする? 正直俺もよくわかってないんだよな。ここがどこかとか全然知らないし、気がついたらいたんだし。
まあ、嘘ついてもバレるだけだし、正直に言うしかないか。
「こんなこと言っても信じてもらえないと思うんですけど……気がついたらここにいたので、正直俺もよくわかんないんです。倒れる前までは日本でエンジニアっていう仕事をしてて、プログラムを書く仕事をしてたはずなんですけど……何故か今、こんな幼女になってるしで。本当に意味わからないですよね」
「ふーん……」
女の子は少し驚いた顔をして、じろじろと俺を見た。
こいつ頭おかしいやつだ、って追い出されるかと思ったが、彼女の反応は違った。
「あんた、その歳でエンジニアとかプログラムなんて言葉知ってるんだ。古代語でしょ、それ何で知ってるの?後目覚めたら幼女になっていたって言うけど大丈夫?暑さで頭やられた?」
まあ信じてくれないよな……
「ま、どっかから聞いたのか。なんにしろこのまま返すわけにもいかないわよね…家で面倒見てあげる」
「ほんとですか!?ありがとうございます」
助かった。こんなわけのわからない世界で一人で生きていくなんてできないし誰かの世話になるしかない。
「そう言えば名前を聞いてなかったわね。私の名前はリズ。廃材を使って機械を直す仕事をしてる。あんたは?」
「俺の名前は……湊です。よろしくおねがいします」
俺とリズは握手を交わした。
リズの手はゴツゴツしていて、油の匂いがした。
「湊ね。よろしく。家にいていいけど、タダ飯は食わせないからね。私もそこまで余裕もないし。その細い指、狭いところの配管掃除に丁度よさそうだし」
「えっ、働くんですか?」
「当たり前でしょ。ここは働かざる者食うべからずだよ。……ま、まずはお風呂に入りな。油臭い助手なんてお断りだからね。さら一緒に入ろ」
「一緒にですか!?」
こうして、俺の訳のわからない異世界生活が始まった。




