第二話:シャドウモニター
「本日のニュースはこちらです。今話題のSNSの……」
ドラクリアが休憩室でテレビを見ていた。風来坊だからすぐにどこかに行ってしまうのかと思ったら、どのみち定期検査がそれほど遠くないから今から地球の裏側に飛んでいったってすぐに帰らないとなあ、とずっと考えることになるから検査が終わるまでは保管局にいるらしい。普段なら半年いるところを二か月で戻ってもう一回行っていたら交通費と時間の無駄、だったらたまにはのんびりしようという考えらしい。いてもやることはないけど、「のんびりする」という初めての経験はある種刺激的だという。私は隣に座って、少しだけしゃべりながら一緒にテレビを見ていた。
「次のニュースです。爆発事故により、尊い命が失われました」
……どこかと思ったら、近くだ。すぐに見に行けるといえば見に行ける、そんな場所。本当かよ!!と言って休憩室の人は何人か立ち上がって出て行った。事故現場を見に行くんだろう。私もちょっとだけ気になったから、席を立とうとしたんだけど。
「ハナ。ここに」
……ドラクリアに呼び止められて、私はもう一度座った。引きとめられたのが嬉しくて、何もしゃべらないのにそれで十分だった。
※
「ドラクリア?ルーマニアの?」
違うよ、本物じゃない。そう伝えておいたのに「本当だ!!七頭身ある!!」と見た人は驚く。すらっとした長身だけど、よくいる範囲だから何に驚いているのだろう。二頭身だとでも思っていたのだろうか。他人を何だと思っている、と怒るかと思ったら「よく言われる」と和菓子を食べながら言っていた。そろそろみんな意識しなくなる世代なのに、というメタ的な見地は置いておいて、ドラクリアは食堂のテレビを見てもあまり楽しそうにしない。ピンと来ない話は全部聞き流しているらしく、情報は取捨選択するものだ、がモットーらしい。配信コンテンツに至っては「偏り過ぎるから」という理由で必要最低限しか見ないとか。自分の趣味が全部画面に映っているようで、あまりいい気がしないらしい。楽しいものというのはだいたい知らないものだから、テレビの方が見つかることが多い、とか。だったらなんでそんなに楽しくなさそうなんだろう。いつも、ただテレビを眺めているだけだった。
さすがのドラクリアもいつもテレビを見ているわけではなく、やることがなくても体を動かしたり、なまらないようにしているらしい。今日はたまたま休憩室にいなかった。自室でドラクリアが「タイムテレビ」と呼ぶ配信コンテンツを見ているのだろうか、と考えたけど、自室で見るんだったら普段はここにいない。私は習慣的に、テレビの前に座っていた。そしたら。
「ニュースです。不法侵入した強盗殺人犯に、一家が……」
……え?と目を疑った。実家のすぐ近くだ。あのあたりで殺人事件があったのなら、お父さんとお母さんが……オオイヌの名前はテレビからは聞こえてこなかったけど、いてもたってもいられず走り出したら、誰かが壁に思い切り手をついて私を止めた。ドラクリアだ。
「どこへ行く」
……何も答えられずにしばらく呆けていた。そしたらドラクリアは、アゴでくいと画面を指した。一瞬映ったサブリミナル映像が、偶然目に入った。何が見えたんだろう。ドラクリアは、何かを知っているらしかった。
この研究所では、ゴーレムの開発をしていたことがある。泥を原料にしたり、岩を原料にしたり、ブロンズだったり。その研究の中に、さらに考え方を一つ推し進めた試みがあった。体の全てを電子機器で作られた「サイバーゴーレム」の研究は、ボディがついに完成せずに頓挫、予算が別のことに回されるようになって研究されなくなった。……そう、ボディは。
サイバーゴーレムのボディと並行して作られていたAIの思考ルーティンは、情報空間に逃げ出した。撃退するには、文字列に格納された「EMETH」の文字の頭文字だけを消去する、という離れ業が必要になり、ついに回収には至らなかった。サイバーゴーレムは、今も思考パターンだけが電波の中を飛び回っているらしい。このあたりには、よく現れる。だから、あまり真に受けるな。そう言ってドラクリアはテレビの前に座った。そして。
「ハナ。ここに」
……そういうものだと思って落ち着いて見ていろ、という意味だったらしい。私はとても不服だったけど、ドラクリアの横に座ってテレビを見ていた。




