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大切な時間  作者: 桜 叶
6/6

もう1つの時間

このお話は番外編みたいな感じです

彼sideです



「5番のお迎えくん、いよいよ今日で終わりだね」

「はい…やっとです」

「はい、100人目のお迎え人」

「ありがとうございます……」


俺の名前は《5番のお迎え君》

()()での名前。

命を終えた者が向かう場所は、人間界でいう天国、地獄だけではなかった。

地獄に行かせるほどではないが、天国にすぐというわけにもいかない者もいる。そういう者が送られるのが、このお迎えという仕事場所── 亡くなる人を迎えに行く。

100人迎えに行き、送れば生まれ変わることができる。すぐ生まれ変わりたくなければ、天に召され魂となり時を待つ。記憶は無くなる。

100人迎えれば済むのかと、簡単に思っていると大間違いだ。

亡くなる者は、自分の状況を信じられない人、抗う人が沢山いる。素直に受け入れられる人の方が少ない。

だから迎えに行っても、すんなりとはいかない。何日もかかる場合もある。なぜならちゃんと説得して、納得した上で、連れて来なければならないから。

かなり苦労したけれど、60人過ぎたあたりからようやく人の気持ちの複雑さが分かるようになり、言葉巧みにということはやめ、気持ちに寄り添うようになったことで、そんなにかからずとも迎えることができていた。

それも今回で終わりだ。

しばらく休みたいから、天に召されるつもりだ。

人間界に心残りはない。


城本紗和──53歳。


(病死か?)


もらったカードを見てみる。


自然死(本人希望)


……本人希望というのは、生きることをもういいと思っているということ。

体力的に弱っている。気から命が終わる人もいる。


(なら、すぐ送れそうだ)


最後の人で嫌な気持ちになりたくなかったから良かった。

人間界へそんな気持ちで降りた。

だけど、そうではなかった。


《城本紗和》という人は、とても純粋だった。

子供や他人に対しても、自分に対しても。

だから、人一倍傷つきやすかったんだと思えた。

初めに言葉を交わした時にわかった。

迎えの仕事をしていたら、自然と人を見られるようになる。心が純粋だったり、綺麗な人は、僕の写す姿見に一番幸せだった頃の姿が映り、向こうへ行く時もその姿でいける。心の腐った人間はもちろん、そのままだ。酷い時は、もっと醜い顔になったりもする。

思った通り、彼女は一番幸せな時の顔になった。

可愛らしい人だと思った。


彼女の歩んできた人生を聞いていて、小さなことにも喜びを見いだせる人だと思った。

可愛らしく、どんどん惹かれた。まさかこの俺が―― 人だった時は、女性なんかいくらでもいると思ってた。慣れすぎて、そうそう本気になることはなかった。

なのに、たった数時間話したこの人を、欲しいと思ってしまった。

彼女自身のことを知りたいと告げた時、びっくりしていて、もしかして何かを売りつけるとかのために、近づいてきたと思われたかもしれないと思い、慌てて否定したら笑ってくれた。

以前別のお迎え人に話しかけた時、誤解されてめちゃくちゃ連れていくのが大変だったことがあったからだ。

けれど、彼女は笑った。その笑顔がとても柔らかく、嫌味のない綺麗な笑顔だった。

彼女の体のこと、家族のこと、夫の事も聞いた。いや、元夫だ。


辛い、辛いだけじゃなく、だからこそ知れたことや、会えた人達、改めて感じた自分の気持ち……

どの話をしている彼女も切なかった。

話しながらも、俺に対して気を遣って面白くない話で申し訳ない、自分の話なんて…と。


今まで迎えに行った人に対して、初めの頃は【自分に酔ってるのか知らないよ、あんたらより辛い人間をもっといる】とか思ってた。もちろん同情する事もあったけど、所詮は他人事。

でも、途中から人にはそれぞれ痛みがあり、どんなに軽いと思えることでも、本人にはとても大きなことだと感じられるようになった。

それでも感情移入することはなかった。

それこそ共感や寄り添いを表すと、みんな喜んでくれた。

……だけど、彼女にはそうできず、なんでもっと聞いてやれなかったんだとか、俺なら上手く言えなくても、抱きしめたり手を握ったり、彼女がその時だけでもほっとできる空間を作ってやりたいと、思わずにはいられなかった。


子供達にもっと愛が伝わるように、いつか振り返った時に、愛されていたと思ってもらえるように、接したいと思うようになったと話した。それは彼女自身が欲しかった思いなんだとわかった。


一緒にいながら、俺は決心した。


彼女を迎えない


ちゃんと説得できなかった場合、その人を迎えられない。その時はペナルティーとして、また100人迎えなければならない。……気の遠くなる話だ。それでも――


俺がすぐ天に召されなかったのは、女性に対していい加減だったから。

仕事はすごいできて好きだった反面、女性には適当になってた。今思えば好きと思っても、付き合ってるって言ってるだけで、大切にしてるわけじゃなかった。


ある女性と深い関係になった時、向こうは結婚を考えてたけど、俺は好きな時に会って楽しむ関係で充分だった。

他の女性から声がかかれば、二人で飲みに行ったり、普通にしてた。ただ、面倒だから二股とかはなかった。俺なりにけじめをつけてたつもりだった。

彼女はそれを知っても、何も言わなかったけれど、許されていた訳ではなかった……

ある日違う女性と飲んでる時、彼女がふらりと来て何も言わず、うつろな目で俺を刺した――


天に召されないが、地獄でもない。

そういう人間は、修行のようなお迎えを全うすれば、天に行ける《迎え人》になる。──俺はそれになった。




紗和さん

彼女には幸せな時間を味わって、思いを残すとことなく俺と一緒に生まれ変わってほしいと願った。

彼女の体調不良をある程度取り除き、カフェが出来るぐらいの収入があるように操作した。


もちろんやってはいけないことだ。


だけど、人間の時に培った話術で、天使と仲良くなり、事情を正直に話して協力してもらった。

天使は少し考えた様子だったけど、協力してくれた。

天使の性別はない。だから、魂と魂が合うか合わない合わないかだった。


彼女にとっては、元気になればどこかのカフェで、働くということでもよかったのだろうけど、誰かと出会うことになられても嫌だったから、オーナーとして郊外でお店を持ってもらった。

それでも数人虫がいた。


やっと100人を導き終えた。18年だ。

100人といっても、次々というわけではない。

迎え人は俺だけではない。他にもたくさんいる。

人は、毎日どこかで亡くなるけれど、まあまあ争奪戦だ。それにすぐ送れるわけでもない。前にも言ったように、無くなったことを納得してすぐに来てくれる訳ではない。特に地獄に行くような人間は……

でもそれが良かったのかもしれない。

彼女が人生や紅茶のお店で満足できるにはいい時間だったと思う。

再会した彼女はあの時と変わらず、とても純粋な笑顔を見せてくれた。

そして、俺を見てくれている瞳は、恋情を映してくれていた。だから、初めは一緒に来てくれるか不安で緊張したけれど、彼女の表情で勇気が出た。

『一緒に()()ましょう』


彼女の淹れてくれた紅茶とスイーツは、今までの中で一番美味しい飲み物とお菓子だと思えた。彼女の作ったもの、淹れてくれたもの、二人だけの時だからかもしれない。

それでも、それだから…


「これからは、僕だけのために──」


本当は1日、2日ここで最後に一緒に過ごして連れて行くのも悪くはないと思ったけど、一気に独占欲が出た。もう早く自分だけの側にと。


初めは驚いて、どういうことかわからない、どうすべきか迷っていたけれど、説明も説得もいらなかった。

彼女は全てを自分の中で納得して、僕の手を取ってくれた。

大丈夫、これからの二人のためだから……

生まれ変われる選択をした。

ちょうど、すごくありがたいことに、彼女も喜ぶ人達のところに魂が求められていた。彼女の記憶は無くなる。

でも僕が覚えているから。

今度は僕が年上だ。

あなたを、ちゃんと守るから、誰にも触れさせない、渡さない、心ごと抱きしめる。

次の人生は、彼女と一緒に彼女のように大切に生きよう。


ありがとう、紗和さん……僕と出会ってくれて。

お読みいただきありがとうございました!

もしよろしければ、評価いただけるとありがたいです


感染系がかなり流行っているみたいですので、くれぐれも皆様ご自愛ください

今年、私の拙い物語を見つけて読んで頂いてありがとうございました

思った以上に読んで頂いて、ありがたいです

来年も、もしお時間あれば読んでやってください

来年が皆様にとって、素晴らしい年となりますように

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