私の大切な時間 ~邂逅 1
このお話は多分若い人には向いていないと思いますので、お気をつけ下さいね
今回も作者ワールドになっております
よろしくお願いします
「ふー……疲れた。でも気持ちいい……」
かなり疲れた。少し休まないと……
浄瑠璃寺から岩泉寺のハイキングコース。
山道だけど、ほぼ平坦で歩きやすい。三キロくらいだから、普通に運動している、体力のある人ならきっと何でもない。運動不足だとしても、翌日か翌々日に筋肉痛になるくらいだろう。
でも私は更年期になって色々不調が出てきてしまい、体がしんどくて、ほぼ何もできない日もある。
しんどいだけならまだいいけれど、なんとも言えない、気分の悪さや血の気の引くような感じ、辛くて泣いてしまうこともあるくらい。そんな状態だから来ていなかった。
でも理解してもらうのは難しくて…
まだ周りから自分を律しなさいとか、だらけてるからしんどく感じるんだとか、言われないだけで十分恵まれている。中には、そういう人もいるらしいから
昔はこの場所によく来ていた。主人や子供達と。
山道に小川やたくさんの木が茂って、道の途中2、3ヶ所に無人の野菜売り場があり、棚の横につけてある筒に、お金を入れて野菜を買う。
歩きながら、周りの山や木々、虫、木の実、何より、都会とは違い、周りにビルや高い建物はない。あっても、昔ながらの家がぽつぽつとあるぐらい。
澄んだ空気、広大な景色、たくさんの緑と青の、グラデーションに魅せられた、この風景に感嘆せずにいられない。
そんな素晴らしい場所なのに、体調崩してからは来られず、ここに来るまでちゃんと来れるか、途中で気分が悪くなったら…動けなくなったらと思うと怖かった。
本当はそんな状態の時こそ、こんな自然に抱かれていれば、癒されて命の洗濯となって、心にも良かったかもしれないのに……
分かっていたけれど。
「やっぱりいいなぁ、ここは。癒される……」
自然と涙が出てくる自分を抱きしめる。
「よく頑張った。わかってる。辛くてもしんどくても頑張って生きてきたもんね。子供達が自分は愛されてるってちゃんと伝わるように……でも苦しかったし、悲しかったなぁ…」
自分を抱きしめるように腕を交差させ、腕を摩る。
本当はこの言葉を誰かに言って欲しかった。
言ってもらいたかった。
気持ちを知って欲しかった。
大声で泣きたかった。泣かせて欲しかった。
誰かの胸に顔をうずめて……
「うう……っく」
ずずっ
鼻をすする。
子供達、息子と娘。
それなりに反抗もしてくれたけど、まっすぐに育ってくれた。
下の娘とは女性同士、カフェに行ったり、買い物に行ったり、推し活に付き添ったり。
でも、ディズニーには連れて行ってあげられなかった。近くに行くので、精一杯で…
あの子は
『別に行きたいところではないし、本当に行きたければ、友達と行くし』と言ってくれていたけど、やっぱり心残りだった。
上の男の子はなかなかの頑固者。
でも、自分の好きなことには一直線。その話なら、いつまでもしてくれる。付き合うのは大変だったけど。楽しそうに嬉しそうに話してくれるから…
私の体調が思わしくない時は、ウォーキングついでにと言って、スーパーによく買い出しに行ってくれた。
ちゃんと周りを見ている子。
優しい子だ。二人とも。
もう立派に、大学を出た後それぞれやりたいことを仕事にしてやり甲斐を持って日々忙しく動き回ってる。
──もう生きていける。
私がいなくても──
かつての日々を思い起こしながら、懐かしみながら、道の途中にある大きな石に腰かけて、そこから見える、すぐ向こうの山の景色を見て、澄んだ空気を味わっていた。
「大丈夫ですか?」
自然の存在に心を傾けていたら、誰かの声が聞こえた。
その聞こえる方に視線をやると、一人の男性が私をずっと見ていた。
…すごくイケメン。
切れ長目で、右目の下のほくろが柔らかさを出していてる。すっと通った鼻は少し高めで、口角の上がった口元は綺麗。今時の若者に多い小顔。髪は短くスッキリしていて、前を左分けに流している。テレビとかで見られるような雰囲気を持つ人。30歳前後だろうか…
(眼福)
なんてことを思いながら、じっと見つめてしまっていた。
「あの……」
返事がなく自分をじっと見てくるおばさんに、かなり戸惑った様子で、もう一度声を出してきた。
その瞬間、はっと我に返った。
「あっ!ごめんなさい。誰かに声かけられるなんて思わなかったし、男の子だったから余計に…」
スゴい意識してるような言い訳をしてしまったかな。
「あっ、そうですよね、すいません。急に見ず知らずの男に話しかけられたら、怖いしびっくりしますよね」
その人は、慌てて謝ってくれた。
でも謝る必要なんてない。イケメンに話しかけてもらって、ありがとうと言いたいくらい。
「いえ、怖いなんてことは全く…ただ、びっくりしただけで…ごめんなさい。大丈夫なので。久しぶりに山道を歩いて疲れてしまって、座ってただけなんです。自然を味わえて、とても心地よくて、ボーッとしてしまって」
「…そうなんですね。それなら良かった。泣かれてるから、体に何かあったのかと」
「え…?」
更に驚いてしまった。
泣かれていたと言われて。
自分が?泣いてる?
そう言われ、まさかと思いながら、頬に手をやってみれば、涙が伝っていた。
「あれ…どうして」
びっくりだ。泣いている感覚はなかった。
ただ子供達のことを思い出し、この自然に魅せられていた、ただそれだけのことだったはずなのに…いつの間にか涙を流してたなんて。
「もしかして気づいてなかったんですか?」
「え、ええ…まさかです」
なんだか恥ずかしくなって、指で涙を拭った。
「そんなことってあるんですね。大丈夫なんですね?体とか。…これどうぞ、まだ使ってないので、綺麗なんで」
「あ、いえいえ!大丈夫です。汚してしまうから」
「本当に良かったらどうぞ。何枚もあるんで。はい」
見ず知らずの人から、そんな綺麗なハンカチを借り、汚してしまうなんて申し訳なさすぎて受け取れない。
両手で受け取れないという意図の振りをした。
でもその私の手を持って、手のひらにハンカチを乗せ握らせてくれた。
「あ…」
ひんやりした手で、綺麗な長い指だった。
「手が少し冷たいですね、寒くないですか?」
「大丈夫です、ありがとうございます」
「どういたしまして」
受け取って満足してくれたのか、優しく微笑んだ。
やっぱり顔が綺麗。
「このハンカチ洗って返すのは無理なんですが…」
それはそうだろう。こんな若い素敵な人と二度と会えない。
わざわざ住所を聞くなんてあり得ない。
おばさんが狙ってると思われたくない。
…そう、おばさん。
50歳過ぎていて、娘にならってそれなりに、お肌の手入れしてるけど、重力には抗えない。
思わず、肌が若返る注射でもしとくんだったとか、したこともないのに思ってしまった。
「大丈夫ですから」
…と言われても、どうしたら。
そう戸惑っていることを、わかっているのかいないのか彼は話を変えた。
「休憩が終わったなら、一緒にいきませんか?」
「えっ⁉️」
一緒に?どこに?誰と?なぜ?
この疑問はおそらく、彼のこの言葉を聞いた人達がいたら、全員がそう思うだろう。
「……」
どういう意味?私が受け取った通りの意味じゃないわよね?
一緒にハイキングするってことじゃないわよね。
もしかして、病院に連れて行くつもり?
そんな悪そう?と解釈するしかない。
「えーと、僕の言ったことおかしいですか?」
「いえ……多分私の…頭か…耳が?」
「え?ふはっ、はははっ」
イケメンが笑うと、爽やかイケメンになるんだ。
「面白いですね。」
まだ笑ってる…そんなに面白いかしら?
どうしていいかわからず戸惑う。
これ以上変な風に見られたくないから、別れよう…
何を意識しているのか、恥ずかしい…イケメンの前で。でも少なからず、この人にときめいてしまう。
おばさんなのに……
「すみません、僕も一人なんです。一緒に自然を歩きませんか?あなたは慣れているようなので、連れて行ってもらえませんか?」
今度はストレートにもう誤解とか、悩まなくてもいい言葉で聞いてくれた。でも…
「私と行っても、何も楽しくないでしょう?こんなおばさんとなんて。私は本当に大丈夫だから、気にせずに行ってください、きっと歩くペースも違うだろうし。お気遣いありがとうございます」
彼の背はきっと180センチぐらいだろう。息子が175センチくらいだから、それより少し高い感じだ。
嬉しいお誘いだけど、ヤングケアラー的な役をさせたくない。我が子にもそうならせてはいけないと思ってきた。
「僕があなたと行きたいんです。なんだか話してて楽しいですし。誰かと話したい気分なんです。あ、ご迷惑…ですか?」
行きたいなんて…そんな嬉しい言葉。しかも、ご迷惑ですか?と聞いてきた時の、彼の不安で伺うような表情。
嫌なんて言えないし、嫌なんてあり得ない。そこまで言ってくれるのに、断る理由はない。ご褒美だと思って受け入れることにしたら、とても嬉しそうに『良かったー』と安心した様子に、なんだかまたドキドキ。
「それに、おばさんではないですよ、ほら」
そう言って、スマホのようなものを出して、私の顔を写してくれた。
その画面に映る私は
「えっ、私?こんな…はずないわ」
「あなたですよ。綺麗ですよ。さあ、行きましょう」
その画面の私は20から30歳くらいに見えた。どういうことと聞きたかったが、彼が行こうと前を向いて歩き出し聞けなかった。同時によくある綺麗に写るアプリか何かかと思ったから、続けて聞くことをしなかった。
読んで頂いてありがとうございます!
もう少し見てやってもいいと、思っていただけたら続きにお付き合いください




