2025/11/18に見た夢
静かな午後、私はふと足を向けた街外れの博物館にいた。展示室の空調の音だけが響く、乾いた空気の中を歩いていると、視界の端に見慣れた後ろ姿が映った。
まさか。
そこにいたのは、ステージの上ではまぶしいほどの光をまとっているはずの「まいな」だった。
しかし、今日の彼女は薄いエプロンを身につけ、資料の載ったワゴンを押しながら職員らしい男性の話を真剣に聞いている。
「ここ、説明が抜けてる。もう一回やり直して。」
淡々とした叱責。
まいなは小さくうなずき、少し困ったように笑ってメモを取り直していた。
その姿は、アイドルとして完璧に輝く彼女とは違い、どこにでもいる見習いの若い子のように見えた。
その「普通さ」に、私はなぜか胸の奥がざわついた。
けれど同時に、慣れない仕事に向き合うまいなの横顔から、いつものように一生懸命な気持ちが滲んで見えて、胸が熱くなる。
気づけば、展示室の静けさを破るように、私は声をかけていた。
「……まいな、さん?」
彼女は驚いたように目を丸くしたが、すぐにふわりと笑った。
「えっ、あ……来てくれたんだ。まだ全然ダメなんだけど、今勉強中なの」
その言葉も、表情も、ステージでの彼女と変わらない “まいならしさ” があって、ただの偶然の訪問なのに、特別な瞬間に触れたような気がした。
展示室の静けさは変わらない。
ただ、その中にほんの少し、彼女の息づかいと、私の高鳴りだけが混ざり合っていた。
まいなは「次の作業があるから」と軽く会釈して、職員用の扉の向こうへ姿を消した。
その背中を見送ったあと、私は静かな展示フロアをゆっくりと歩き始めた。
古い陶器、風化した石碑、学術的な説明文。
どれも淡々と並んでいるのに、さっき見た彼女の姿が頭から離れず、展示の風景に薄く色を足していた。
ひととおり見終えて外に出たとき、ちょうど博物館の入口で、まいなが仕出し弁当を受け取っているところに出くわした。
白い紙袋を抱え、スタッフらしい人に頭を下げる仕草は、やっぱりどこにでもいる働き手のそれだった。
「お昼ご飯、どうするの?」
気づけば自然に声をかけていた。
まいなは少し驚いたように振り返り、「あ、私はコンビニで買うよ」と笑った。
流れのままに、一緒に近くのコンビニへ向かうことになった。
午後の日差しは弱く、歩く音だけが重なっていた。
店内に入ると、彼女はおにぎりの棚の前で小さく唸りながら迷っている。
その横で私は、何か一つくらい差し入れしてあげたいと思い、棚に並ぶお菓子をぼんやりと見つめていた。
ふと、店の奥でまいなが誰かと話している声が聞こえた。
ギターケースを背負った、少し古風な雰囲気の男性。
ミュージシャンのようで、落ち着いた調子で彼女に話しかけている。
会話は短く、ほどなくして別れたが、まいなの表情は少しだけぎこちなかった。
結局、私は小さなチョコレートを手に取った。
会計を済ませて外に出ると、まいなが待っていたので、さりげなく差し出す。
「これ、よかったら。元気出るやつ。」
まいなは一瞬きょとんとして、「えっ、ありがとう…!でも悪いよ、そんな…」と遠慮がちに言いながら、結局受け取ってくれた。
その様子が嬉しくて、でも胸の奥にさっきの男性の姿が引っかかってしまい、つい口が滑った。
「あの人、彼氏さん?」
まいなは軽く手を振って否定した。
「違う違う。ただの知り合い。音楽やってる人で…よくここらへんで会うんだ。」
そう言って、紙袋を抱えたまま「戻らなきゃ」と小さく笑い、また博物館へと戻っていった。
その背中を追って視線を上げたところで、さっきのギターの男性が私に声をかけてきた。
「君、まいなの彼氏?」
不意を突かれたその質問に、私は小さく首を振った。
「違います。応援してるだけで…ファンです。」
彼は「やっぱりか」と少し穏やかに笑い、ギターケースを指で叩いた。
「まいな、頑張ってるでしょ?」
私は迷わずうなずいた。
その言葉だけで胸がじんと熱くなるほどには、さっきの姿が強く残っている。
「うん。すごく、頑張ってました。」
男性は満足げに目を細めて、静かに言った。
「これからも応援してあげてね。」
そして軽く手を振り、そのまま歩いて去っていった。
人混みのない昼下がりの道に、彼の背中が徐々に小さくなる。
残された私は、小さな紙袋の温度の残りを指先に感じながら、ふと息をついた。
まいなは特別な存在だと思っていた。
ステージで光を浴びる、遠い存在だと。
けれど今日見たのは、叱られて落ち込む顔、まいなは「次の作業があるから」と軽く会釈して、職員用の扉の向こうへ姿を消した。
その背中を見送ったあと、私は静かな展示フロアをゆっくりと歩き始めた。
古い陶器、風化した石碑、学術的な説明文。
どれも淡々と並んでいるのに、さっき見た彼女の姿が頭から離れず、展示の風景に薄く色を足していた。
ひととおり見終えて外に出たとき、ちょうど博物館の入口で、まいなが仕出し弁当を受け取っているところに出くわした。
白い紙袋を抱え、スタッフらしい人に頭を下げる仕草は、やっぱりどこにでもいる働き手のそれだった。
「お昼ご飯、どうするの?」
気づけば自然に声をかけていた。
まいなは少し驚いたように振り返り、「あ、私はコンビニで買うよ」と笑った。
流れのままに、一緒に近くのコンビニへ向かうことになった。
午後の日差しは弱く、歩く音だけが重なっていた。
店内に入ると、彼女はおにぎりの棚の前で小さく唸りながら迷っている。
その横で私は、何か一つくらい差し入れしてあげたいと思い、棚に並ぶお菓子をぼんやりと見つめていた。
ふと、店の奥でまいなが誰かと話している声が聞こえた。
ギターケースを背負った、少し古風な雰囲気の男性。
ミュージシャンのようで、落ち着いた調子で彼女に話しかけている。
会話は短く、ほどなくして別れたが、まいなの表情は少しだけぎこちなかった。
結局、私は小さなチョコレートを手に取った。
会計を済ませて外に出ると、まいなが待っていたので、さりげなく差し出す。
「これ、よかったら。元気出るやつ。」
まいなは一瞬きょとんとして、「えっ、ありがとう…!でも悪いよ、そんな…」と遠慮がちに言いながら、結局受け取ってくれた。
その様子が嬉しくて、でも胸の奥にさっきの男性の姿が引っかかってしまい、つい口が滑った。
「あの人、彼氏さん?」
まいなは軽く手を振って否定した。
「違う違う。ただの知り合い。音楽やってる人で…よくここらへんで会うんだ。」
そう言って、紙袋を抱えたまま「戻らなきゃ」と小さく笑い、また博物館へと戻っていった。
その背中を追って視線を上げたところで、さっきのギターの男性が私に声をかけてきた。
「君、まいなの彼氏?」
不意を突かれたその質問に、私は小さく首を振った。
「違います。応援してるだけで…ファンです。」
彼は「やっぱりか」と少し穏やかに笑い、ギターケースを指で叩いた。
「まいな、頑張ってるでしょ?」
私は迷わずうなずいた。
その言葉だけで胸がじんと熱くなるほどには、さっきの姿が強く残っている。
「うん。すごく、頑張ってました。」
男性は満足げに目を細めて、静かに言った。
「これからも応援してあげてね。」
そして軽く手を振り、そのまま歩いて去っていった。
人混みのない昼下がりの道に、彼の背中が徐々に小さくなる。
残された私は、小さな紙袋の温度の残りを指先に感じながら、ふと息をついた。
まいなは特別な存在だと思っていた。
ステージで光を浴びる、遠い存在だと。
けれど今日見たのは、叱られて落ち込む顔、弁当を受け取る姿、そしてチョコをためらいながら受け取る手。
どれも普通で、どれも必死で、まいならしかった。
その全部が、今まで知らなかった彼女の魅力として胸の奥であたたかく広がっていった。
――もっと応援しよう。
そう思えたのは、静かな午後の、ほんの短い寄り道のおかげだった。




