第6話 ダンジョンに挑む勇者
~ヒカリ視点~
ヒカリは酒場「ディスカラー」からの帰り道、ダンジョンのことを考えていた。
元黄の国へのダンジョンへはどうやって行けばいいのか。どれくらいお金と時間がかかるのか。
私は本当に何も知らない。冒険者でもないし、こういう時はウィッチさんに相談してみるのが一番だ。まだ、図書館にいるかもしれない。走れば間に合うかもしれない。
ヒカリはすぐさま走り出した。
図書館に着くと、ウィッチはいつものように本を読んでいた。
すぐにヒカリに気が付くと、手を振ってこちらを呼んでくれた。
「今日は来ないと思ったのだ」ウィッチは嬉しそうだ。
「実はウィッチさんのお店、行って来たんですけど……」
ヒカリはロウと会って武術の特訓をしたこと、忙しいお店を手伝ったこと、そしてダンジョンが黄の国の在った場所にあるという情報を得たことを話した。
「そうなのか。ロウとマスターがいたのか。元気そうで良かったのだ」
「そうなんです。あのマスターさんは、なんでマスターをやっているんですか?ロウさんの方がマスターって感じがしましたけど」ヒカリは率直に感じたことを聞いた。
「ん~。マスターはマスターだから。ロウはマスターじゃないのだ」
私は何を言っているのか理解できなかった。マスターさんは、ただマスターだということなのだろうか?
「あの、ディスカラーの裏にあった洞窟のダンジョンって、採取とかできませんか?」ヒカリは話を変えた。
「ヒカリのレベルなら即死なのだ」
え?あっさりと言われた。さっきまでいた場所なのに、そんなに危ない場所だったとは。恐怖のせいか鳥肌が止まらなくなった。
「でも、あそこに魔獣なんていませんでしたよ」
「あの階層だけでないのだ。その上と下には、たくさん魔獣がいるのだ」
「私ってそんなに弱いですか?ウィッチさんと戦ったらどうなりますか?」
「弱いのだ。1秒もいらないのだ。魔法も使わないで勝てるのだ。楽勝なのだ」
ウィッチさんは嘘を言わない素直な人だ。この人が言うのだから本当なのだろう。
「元黄の国の場所なら問題ないですか?」
「多分安心なのだ。今の所、魔獣の報告は出てないのだ」
本来ダンジョンは魔獣が魔力によって出現する。そして、ダンジョンには魔力が溜まり、魔力石という結晶ができやすい。私はその魔力石が、元の世界に戻るための錬金術にどうしてもほしい。
「ウィッチさん、黄の国までどうやって行くのがいいのでしょう?」
「そんなの飛行魔法か転移魔術で行くのがいいのだ」
「私、どちらも使えないんですけど……。移動するお金もないですし……」
「それなら転移魔術で飛ばしてあげるのだ」
「ウィッチさんがついて来てくれるのですか?」
「そうなのだ。初心者冒険者は最初が危ないのだ。安全に教えるのも先輩の役割なのだ」
こうして話は進んでいった。明日、朝に錬金術の部屋に転移魔術の刻印を書いて、目的の場所まで飛んで行くと決まった。あとは荷物持ちがいるといいと言われたので、私はユウの部屋の前にいた。
~ユウ視点~
俺はというと貴重な休日を睡眠と終わりのない自慰行為に費やしていた。今日の俺は、その過度な消耗のせいで指一本動かすのも億劫なほど、極度の疲労困憊に陥っていた。
ノックが突然鳴った。なんだヒカリの声か。動くのがだるいな。
扉を開けるとヒカリが立っていた。
「なんだヒカリ?」
「ねえ、部屋掃除してる?なんか変な臭いするよ」
「うるせえな。用がないなら帰れよ」ユウは扉を閉めようとした。
「明日ダンジョンに行こう。ユウが必要なの」
「そういうことなら最初から言えよ。俺の力が必要なんだな。いいぜ。」
ヒカリがそこまで俺が必要なら手伝わないとな。
翌朝
ヒカリに教えてもらった部屋に着くと、ウィッチさんとヒカリがいた。
「ユウ。おはよう。遅刻しなかったね。偉い偉い。」
「さて揃ったなら行くのだ。刻印の上に乗るのだ。」
3人は刻印の上に乗ると光を放ち、知らない場所へと移動した。
「ここがダンジョンのある場所なんですね」ヒカリは目を輝かせていた。
ウィッチさんの案内でダンジョンの受付をしているテントに行く。
なんでも、同じダンジョンで一緒になるのを防ぐために、時間ごとで貸し出しているそうだ。
テントにいる人は防衛隊の人らしい。冒険者から国のために働いている人達だ。
防衛隊からダンジョンの説明を受ける。
「ダンジョンはこれから渡す砂時計が沈むまでに戻ってきてください。遅くなった場合は延滞金を頂きます。また、魔獣を確認した場合は速やかに逃げ、防衛隊に報告してください。それでは快適な冒険であることを。」
ダンジョンに入るとその場所にはテープで使用済みとされた。なんかアトラクションに乗ったような気分だ。
ウィッチは持っていた道具をユウに渡した。
「これは魔力石用のリュックとこっちが鉱石用のカバンなのだ。魔力石は手袋を使って触るのだ。そうでないと魔力が体内に入り過ぎて、倒れてしまうのだ。」
何か魔力石って漆みたいだな。直接触ってはいけないってところが何か似ている。
俺は荷物係として、リュックとカバンを持ち、
ヒカリは、手袋を装着して、ピッケルを持った。
ウィッチさんは杖で明かりを照らして先頭してくれるみたいだ。
「ウィッチさん、このリュックとピッケルって、どこから持ってきたんですか?」
ヒカリが疑問に思って聞いた。
「研究棟から借りてきたのだ」
「許可取って来てますよね?」
「問題ないのだ。すぐ返すから大丈夫なのだ」
「やっぱり無断で持ってきたんですね。ダメですよ。あとで謝りに行きましょう。」
ヒカリがウィッチさんを説教していた。いつの間にこんなに仲良くなっているんだ。
俺は蚊帳の外だ。
話も終わると、ウィッチさんが先導してダンジョン内を散策する。
魔力石はキノコのように時間と共に生えてくるそうだ。
ヒカリは見つけると拾って、俺のリュックの中に入れていく。
リュックがどんどんと重くなっていく。集まっている証拠だな。
地下三階にもなるとそれなりに冷えてくる。
そろそろ帰りたいが、ヒカリは聞いてくれない。拾える分は拾うそうだ。
何をそんなに作りたいのかわからない。
「そろそろ時間なのだ。戻るのだ」
ウィッチさんからありがたい知らせがあった。やっと終わるそう思った時、嫌な視線を感じた。
俺は振り返ると、黒色のゴブリンが棍棒を振りかぶって来た。
俺は叫ぶしかなかったが、ウィッチさんが間に入って、杖で受け止めてくれた。
「コロス・・・。」ゴブリンが喋った。
「話すゴブリン。魔人なのだ。2人は早く逃げて防衛隊に報告するのだ。私はこいつを倒すのだ。」
魔人ってなんだ。魔獣は出ないはずなのにどうして……。
ウィッチさんがゴブリンと応戦している間、俺とヒカリは一目散に逃げた。
ヒカリは顔色が悪く、上手く動けないようだった。
「ヒカリ。手を」俺はヒカリに手を差し出した。
ヒカリの手を引きながら、地上に一目散に走り出す。この世界に来てから走って、逃げてばかりだ。
なんとか地上に着くと、異変を察した防衛隊が来てくれた。
「どうした?そんなに急いで」
「あ……あの……。」ヒカリは困惑していた。
俺は話に割って入り、事情を説明した。喋る魔獣が出たことを。
「だが、にわかには信じられない。聞き間違えじゃないのか」防衛隊は疑っていた。
そりゃそうか。新人冒険者が緊張して聞き間違えただけの話だろと。そうなるよな。
「待つのだ。聞き間違えじゃないのだ。」
ウィッチさんが転移魔術で戻って来た。代わりに防衛隊に事情を説明していた。
ウィッチさんは自分の冒険者のランクを教えると相手も納得してくれた。さすがはAランクだ。
その後、すぐに防衛隊によってダンジョンは封鎖され、これからAランクパーティーを呼んで調査をすることになった。それまではもう近寄れなくなってしまった。
ヒカリは魔人の存在を本で読んで知っていたので、頭がパニックになったそうだ。少しは怖いものもあるんだな。
3人は転移魔術で元の部屋に戻ると、収穫物を仕分けて、研究棟に謝りに行った。
ウィッチさんだけはコテンパンに怒られていたが、俺とヒカリは被害者としてそのまま返された。
ヒカリを部屋に送る途中、いきなり落ち込んだ声で話しかけてきた。
「今日はごめん。私のせいで」
「いいよ。別に無事だったんだし」
「良くないよ。だってウィッチさんがいなかったら、殺されてた。」
俺は魔人に関して何も知らないから恐怖がない。その差なのだろう。
「気にすんな。お前は弱いんだし俺が守ってやる」
俺の言葉が響いたのか。ヒカリは笑顔で笑いだした。
「うん。ちゃんと守ってね」
ああ、俺はヒカリを守るんだ。そう昔からの約束だからな。




