第4話 災害の魔法使いと勇者
ユウとヒカリは食堂で昼ごはんを食べながら話していた。
「なあ、ウィッチさんって人の言うこと信じるか」ユウはヒカリにあらためて聞いた。
「それは目の前で無詠唱魔法見せられたら信じるしかないでしょ。ユウと違って実際にやって見せたし」ヒカリは実際ウィッチを見て無詠唱魔法を信じていた。
「あの人どこにいるのかな?」ユウは興味があった。
「さあ、授業終わりに周りの学生に聞いたけど知らないって。最近来た人は知らないのかも」
「それならフィオナさんの所に行って聞いてみるしかないな」ユウは行く気満々だ。
「わかったから早く食べて。午後も授業あるんだから」
午後の授業が終わると2人はフィオナの所に向かった。
フィオナは部屋に迎え入れてくれた。
副学長ということもあり、内装も凝っている。なんというか魔法使いの部屋って感じがする。
「なんですか。2人揃って、授業に問題がありましたか」フィオナはお茶を出してくれた。
「あの・・・。ウィッチさんってどういう人なんですか?」ユウはすぐさま聞いた。
「そうですか。ウィッチ。あの子・・・。学園に戻っていたんですか?」フィオナは少し困った表情を見せた。
「何か戻って来ると問題でも・・・」ヒカリは聞きにくそうに質問した。
「あの子は『災害の』ウィッチ。ここ2年ぐらい学園から姿を消していました。学園長の孫で、魔法と魔術の天才。この学園だけでAランクまで登り詰めた唯一の存在。普通はCランクあたりから冒険者になってAランクまで行くのが普通なのです。それをあの子は自分の知識だけでAランクになった本物の天才なのです」
フィオナは知っていることを話してくれた。『災害』とはウィッチの二つ名でAランクになると通り名として本来なら誇れるものだ。しかし、ウィッチの場合は別だった。
「あの子は魔力が強すぎて周囲を破壊してしまうのです」フィオナは困った顔をしている。
そういえば、無詠唱魔法を見せてくれた時も像を破壊していた。
「ですけど、それだけで講義棟を出禁になるとは思えないのですが?」ヒカリが切り込んだ。
「ええ、そうです。『災害』にはもう1つの意味が込められているのです。魔術都市とは知識が物をいう世界です。知識こそが力。そんな中、あの子は圧倒的な知識を有しています。悪意のない興味。人と話すと相手が潰れてしまう。中には自分に自信があって、その分野を極めたと思った学生もいました。そんな学生があの子と話すと一瞬で理解し、その上を行ってしまうのです。屈辱でしょう。頑張って覚えたことが一瞬で相手が理解し、その上を行く。そういう学生が後を絶たず、いつからか『災害』と言われています」フィオナはなんといえばいいか分からない表情をしていた。
俺はその時察した。わかるその気持ち。出来たと思ったらすぐ隣で簡単にこなせてしまう存在を知っている。これ以上俺は踏み入ってはいけない。
「フィオナさんの言うことはわかりました。ですが、居場所を教えてもらえませんか。私はここで学びに来ているのです」ヒカリはフィオナの言うことを聞いた上でウィッチの居場所を尋ねた。
「わかりました。忠告はしました。図書館に行くといいでしょう。彼女は図書館の出入りは許可されていますから」
フィオナの言葉に、ヒカリはまっすぐに「ありがとうございます」と頭を下げた。
(待て。なんでヒカリは強くなれるんだ)
ユウは震えた。フィオナが言った『災害』の意味は、俺にとって痛いほどよくわかった。努力しても、才能を持つ者には一瞬で追い越される。あの絶望は、日本の受験勉強で散々味わってきたものだ。ヒカリはまだ、その真の絶望を知らないからこそ、突き進めるのだ。
俺がウィッチのところに行って、もし「魅了」の能力を笑われ、無詠唱のコツを一瞬で看破されたら?俺に残る希望は何もなくなってしまう。
「ヒカリは俺とは違う。まだ知らないからこそ行けるんだ。俺はもう行けない」
ヒカリは1人で図書館へ向かって行った。これでまた差が開くのか。そんなの嫌だ。
「あのフィオナさん。俺……」
ユウは言葉を詰まらせた。「俺は、練習場で魔法の練習をしたいです」と、ウィッチに会うことから逃げるように頼み込んだ。
~ヒカリ視点~
私は図書館に入っていた。ものすごい巨大な図書館だ。天井が見えないその分本がものすごい高さにある。空中に飛んで本を取る生徒がいる。現実世界の図書館なんて全部合わせても1つのコーナーにならないことを知る。
ウィッチを歩いて探すと長机に大量の本を置いて、読んでいる人がいた。あれは昼間に見たウィッチだ。
「あの~。ウィッチさんですよね」ヒカリは恐る恐る尋ねた。
ウィッチは読んでいる本を机に置くとヒカリの顔をじっくり見た。
「あー。勇者のヒカリなのだ。どうしたのだ。無詠唱魔法なら今は唱えられないのだ。さっきまでものすごく怒られたのだ。杖を出すこと自体禁止されたのだ」ウィッチはしょんぼりしていた。
「いや、私はウィッチさんと話がしたくて・・・」
ウィッチは嬉しそうな顔をした。普段話せる人がいないせいか嬉しそうだ。何でもウィッチは『ディスカラー』という酒場で店員として働いているらしい。今回は図書館に新刊が入る時期ということで店を休んで、本を読みに帰って来たそうだ。
「酒場で働いているんですか。冒険者とかではないですね」ヒカリは興味深々に聞いた。
「前まで冒険者ギルドだったのだ。だけどマスターが勝手に無くしてしまったのだ。まあ、やることは変わらないからいいのだ」ウィッチは重要そうな話を普通に流していた。
冒険者ギルドだったのにそれを無くした。どういうことだ。結構大事な話だと思うけど。みんなウィッチみたいに楽観的な人ばかりなのだろうか。
「そんなことよりヒカリ。錬金術が見たいのだ」ウィッチはキラキラした目をして頼んで来た。
「え~と。それが部屋がなくて錬金術出来ないんですよね。」ヒカリは困った表情で答えた。
「錬金術の部屋ならあるのだ。案内するのだ」ウィッチが当たり前のように答えた。
ウィッチは本からヒカリに興味が移り、手を引っ張って行った。
連れていかれると宿泊している寮の上の階にあった。
「こんな所に錬金術の部屋が・・・」
ウィッチは勝手に子杖を出すと鍵に解錠の魔法をかける。
扉を開くと時間が止まった部屋がそこにはあった。
「ホコリとかないですね」ヒカリは部屋のきれいさに驚いた。
「建築魔術で勝手にきれいになるのだ。昼間に壊した像も今頃直っているのだ。魔力を吸い込んで修復するのだ。」
ヒカリはこの世界の当たり前に驚いていた。これだけ大きな学園なのに掃除をしている人を見ないのはそのせいだったのか。
「これを見るのだ」ウィッチは釜に向かって指を差した。
「これは?釜ですか?」ヒカリは釜とはわかるが、何なのかわからなかった。
「これが錬金窯なのだ。これで錬金術をするのだ。本棚にあるのは錬金術に関して書かれた本なのだ。うちは読んだが、理解できなかったのだ」ウィッチは苦い顔をしていた。
天才といわれるウィッチでも理解できない錬金術。そんなもの私が本当に出来るのだろうか。
「錬金術の基礎が書かれた本はないんですか?」ヒカリはウィッチに尋ねた。
「これなのだ。基礎が書かれているのはそれだけなのだ。あとは錬金術のレシピなのだ」ウィッチは本の場所をすぐさま理解して取り出した。
「ウィッチさんがわからない内容になると・・・。錬金術とは触媒を混ぜ合わせて、1つの物を作る術である。参考に・・・塗り薬のレシピ・・・。まずは回復に効く薬草を釜に入れる。そのあと粘度によって触媒を変えるサラサラがいいかドロドロがいいかあとは自由に入れる。最後に瓶を入れておくと瓶の中に薬が入っている。完成したら感覚で分かる。完成しても混ぜ続けると爆発の危険があるので注意と」ヒカリは1読して理解した。
試しにやってみた。レシピ通りにそうすると釜から塗り薬が出てきた。
「本当に出来た」ヒカリは塗り薬を手に入れた。
「すごいのだ。ヒカリ。こんな難しいことを出来るとは。天才なのだ」ウィッチは興奮して抱き着いてきた。
これが難しいのか。ただ必要な触媒を入れて混ぜただけだ。才能なんていらないと思うが。
「ウィッチさんも触媒を理解すればできますよね」ヒカリは確認した。
「触媒何のことなのだ?」ウィッチはきょとんとした。
「これを混ぜるといいみたいなの。わかりませんか?」
「ん~。うちはそういうの。苦手なのだ。魔法と魔術以外は覚えられないのだ」
そういうことか。ウィッチは興味がないことは覚えられないタイプの人間。基本はアホなのか。
「ぷっははは。ウィッチさん面白い。なんだ普通の女の人なんですね」ヒカリは安心して笑ってしまった。
「あははは。うちは普通ではないのだ。天才魔法使いウィッチ様なのだ」ウィッチも負けじと笑っていた。
みんなが知らないだけで、ウィッチは怖い人でもない。普通の女の人なんだ。
笑い終えると、「あのウィッチさん。この部屋使ってもいいんですか?」真面目な話をした。
「その薬貰ってもいいか。じいじに聞いてこの部屋の許可貰っておくのだ」ウィッチは薬を貰った。
「じいじっていうのは?もしかして学園長ですか?」
「そうなのだ。明日夕方図書館に来るといいのだ。その時までに使えるように頼んでおくのだ」
ウィッチは薬を持ったまま、どこかへ行ってしまった。
この部屋を使えれば色んなものが作れる。楽しみだ。
あ?でも待って。この部屋鍵どうやって閉めよう・・・。
~ユウ視点~
俺はフィオナに頼みこんで魔法の練習できる場所を聞いた。
放課後は書類さえ書けば、練習場を使えるとのこと。
周りを見ると、何人か練習していた。難しい魔法を唱えようとする学生や基礎練習する学生。
だが、俺は違う。無詠唱魔法というチートを手に入れるために練習するのだ。
その辺の練習している学生とは意識が違うのだよ。
練習場を借りてすぐ、ユウは練習を始めた。何度も、何度も、頭の中で詠唱をイメージし、魔力を集中させる。しかし、風の塊は出ない。一瞬出来たのは、ただの偶然だったのか。自分の期待したチート能力が幻だったのではないかという不安が、ユウを焦らせた。
日が沈み、周りの学生がほとんどいなくなるまで、ユウは黙々と杖を振り続けた。
そして、ついにその時が来た。疲労で意識が朦朧とし、思考がクリアになった瞬間、魔力とイメージが結びつく回路がはっきりと見えた。
杖に魔力を先に溜め、その後をイメージする。そうすれば、魔法が飛んで行く。
出来たぞ。俺だけのチート能力。
翌日、俺は自信に満ち溢れていた。魔法の授業などもはやただの通過点。
ヒカリに声をかけて氷の無詠唱魔法を見せた。
「へぇ~本当に出来たんだ」ヒカリはあっさりした反応を見せた。
「驚かないのかよ」ユウは焦っていた。もっとあるだろ。
「だって昨日ウィッチさんに見せてもらったじゃん。こういうことでしょ」
ヒカリが杖を振ると氷が出て来て、魔法が飛んで行って、的を射抜く。
ユウとヒカリが騒いでいると周りの学生が無詠唱魔法に興味を持ち、ヒカリは喜んでみんなに教えていた。
結果として魔法学園では無詠唱魔法が流行っていった。
俺のチート技がこんなにあっさり終わるなんて・・・。




