第13話 対立の勇者
ヒカリの部屋。重苦しい空気の中、勇者アレスが静かに口を開いた。
「正直に言うよ。君が考えている『ユウ』という人物と、今の彼には大きな乖離を感じる。この一週間、近辺で行方不明者が千人を超えた。すべてが彼の仕業ではないにせよ、彼の能力はあまりに危険だ」
アレスは机の上の地図を見つめたまま言葉を続ける。
「魅了の能力は十人も操れれば一流と言われるが、数千人規模となれば話は別だ。まさに災害。もし彼がBランク以上の冒険者まで操るようになれば、世界のバランスは完全に崩れる。そうなれば……僕も容赦なく、彼を討伐しなければならない」
アレスの鋭い視線がヒカリを射抜く。
「ヒカリ君。それでも君に、助ける算段はあるのかい?」
ヒカリは俯き、震える声で答えた。
「算段なんて……ありません。ただ、好きな人が自分の知らないところで殺されるのが嫌なんです。最後に、本音を聞きたい。それだけなんです」
「……わかった。だが、覚悟だけはしておいてくれ」
アレスの言う「覚悟」が、先ほどクロから突きつけられた「殺す覚悟」であることをヒカリは察していた。どうしても止められない時は、この手でユウを止める。それが彼女の出した答えだった。
「大丈夫なのだ!ユウと話す時間くらい、このお姉さんが作ってあげるのだ。なあ、アレス?」
沈んだ空気を変えるようにウィッチが明るく振る舞う。アレスはボロボロの羊皮紙を取り出し、中央に置いた。ヒカリがユウを想いながら魔力を流すと、それは精巧な地図へと変わり、学園のすぐ近くにある拠点の位置を示した。
「まだ一週間だ。人数は多くても穴はある。正面から一気に突破し、隙を突く。やるなら夜だ」
「それなら、クロも呼ぶのだ!」
ウィッチの提案を、アレスは静かに遮った。
「ダメです。クロには酒場にいる冒険者たちを止めてもらわないといけない」
「どういうことですか?あの人たちは、ユウを倒そうとしていたんじゃ……」
「あの店にいたのは、家族や仲間を連れ去られた者たちなんだ。だから、クロはあえてヒカリ君に強く当たるしかなかった。本当は、あいつが一番助けたいと思っているはずだよ。……あいつ、お節介焼きだからね」
ヒカリは言葉を失った。突き放すような態度の裏に、そんな想いがあったなんて。
三人はそれぞれの準備のため、一度解散した。ヒカリもまた、覚悟を込めて錬金窯の前に立った。
夜。静寂の中、三人は拠点の壁を目の前にしていた。
道中、敵の姿は全くない。
「誘っているように感じる。違和感があるな」
アレスが警戒を強める。中からは不気味な明かりが漏れ出していた。
「ウィッチさんは魔法兵を。僕は武器を持った兵を相手にします。ヒカリ君は僕の後ろに着いてきてくれ。一気にユウの所まで行くぞ」
「わかったのだ!ヒカリ、しっかり自分の気持ちを伝えるのだ!」
「……はい!」
アレスが扉をゆっくりと開けると、そこには魔法を放つ準備を整えた数えきれないほどの兵が待ち構えていた。
「行くぞ!!」
一斉に放たれた魔法をウィッチが応戦し、アレスが光の剣を抜いて走り出す。アレスは一人ずつ確実に気絶させながら、怒涛の勢いで道を切り拓いていく。
その先に――椅子に座り、見下した表情を浮かべるユウがいた。
アレスが周囲の兵を抑えるためヒカリの側を離れる。
ついに二人きりになった。ユウの口からは、恨みの籠った声が漏れる。
「……お前さえいなければ」
「ねえ、聞いてユウ!私、あなたのことが好きなの。こんなこと、もうやめて!」
「くだらん。お前は俺を裏切った。ただそれだけで罪だ。お前さえ殺せればいい」
「私は裏切ったりしてない!」
「お前は来なかっただろ!俺がこの能力で困っている時に!」
「行ったよ!でも、あなたの方が裏切ったじゃない……!」
叫びは届かない。ユウが指を鳴らすと、上空から巨大な隕石が降り注いできた。
(もう、だめなのかな)
ヒカリが全てを諦めかけた、その時。
夜空を一筋の閃光が貫き、隕石に直撃して巨大な爆発を引き起こした。
「なんだと……!?」
ユウは近くの柱に掴まり、爆風に耐えるので精一杯だった。
その頃、魔法学園の屋根の上では、クロが煙を吹く銃を手に空を見ていた。
「……ちっ、一発で壊れるのかよ」
銃身は激しい魔力に耐えきれず、完全に歪んでしまっている。
「小僧!うるさいわ、このバカたれ!さっさと働かんか!」
下の階からロウの怒鳴り声が響く。クロは「わかってるよ」と短く返し、使い物にならなくなった銃を無造作に放ると、屋根から降りて店へと入った。
爆風の煙を割り、ヒカリが歩み寄る。その姿は血まみれだったが、瞳には強い決意が宿っていた。
「ユウ。……今、わかった。あなたは私の手で止める」
「来るな!こっちに来るな!」
弱腰になったユウが震える手でナイフを抜く。ヒカリは地面に特製の閃光弾を叩きつけた。
「――ッ!」
真っ白な光が周囲を包み込んだ一瞬の隙。ヒカリはユウに飛びかかり、魔力のこもった一撃を打ち込む。
「魔撃!!」
この世界で覚えた武術。もし違う世界線だったら、うまくやれたのか。
そんな想いをすべて拳に込め、ユウの腹部へと叩きつけた。
ユウはそのまま、ヒカリに抱き着くように倒れ込んだ。
「……ごめんね、ユウ」
ヒカリの涙が止まらなかった。
主を失った魅了が解け、次々と倒れていく兵たち。
静寂だけが残された戦場に、ヒカリの泣き声が響き渡っていた。
読んで頂きありがとうございます。
次回最終回になります。
出来る限り早めに投稿できればと思います。
最後ヒカリとユウはどうなるのか楽しみにして頂ければと思います。




