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ネクラ少年とハツラツ少女の異世界滞在記~キャンバス外伝・勇者の章~  作者: ぶーたん


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第10話 祝福の勇者

ヒカリがこの世界に転生してから、10カ月が経過していた。 魔法具開発班に入って3カ月、ヒカリは世の中を変えるような開発が出来ずにいた。 作ったものといえば、ボードゲーム、テレビ、そして地下に埋める魔力の柱を作っただけだ。


テレビもまだ中央ギルド国家と魔術都市の2つでしか映らない。これから、電柱の代わりの魔力を送る柱を、果てしない距離の地下に埋めていかなければならない。この世界の人にテレビの価値が伝わるかはわからない。けれど、きっと役に立つと信じて、ヒカリは作業を続けていた。


ヒカリは、分厚い資料に囲まれ、コーヒーの冷めたカップを横に、図面を書いていた。 今月の締め切りまで、あとわずか。 焦る気持ちを抑え、図面に集中する。 あいつを見返すために……。


「……くそ、ここが繋がらない」 羽ペンを握る指先には、インクの染みが幾重にも重なっている。書き直した図面の残骸が足元に散らかり、まるでヒカリの停滞を嘲笑っているかのようだった。


期待された「勇者」という肩書きとは裏腹に、現実は地道で孤独な作業の連続だ。魔力伝導率の計算式を頭に叩き込み、羊皮紙が擦り切れるほど消しゴム代わりの魔石を走らせる。 「ボードゲームにテレビ……。傍から見れば、おもちゃ遊びに見えるんだろうな」


ふと、窓の外を眺める。視線の先、地面の下には、私が設計した「魔力の柱」が眠っている。誰の目にも触れず、感謝されることもない、土にまみれたインフラ。 「地質の変化を考慮しなきゃならないし、魔力漏れの遮蔽処理も甘い。こんなスピードじゃ、世界を変えるなんていつの話になるんだよ」


重い瞼をこすり、冷めきって表面に膜の張ったコーヒーを無理やり喉に流し込む。苦味と一緒に、腹の底に溜まった焦燥感を飲み下した。視界がチカチカと点滅し、寝不足の頭は、時折、図面の線が蛇のようにのたうつ幻覚を見せた。それでも、ヒカリはペンを置かない。 自分の知識が、この世界のことわりと衝突し、火花を散らすこの感覚。 誰にも理解されない孤独な戦いの中にこそ、あいつを見返すための鍵があると信じていた。


だが、ついにアイデアの底が尽きた。 今回は鉄道を作ろうとしていたが、どうやって走らせるか考えがまとまらなかったのだ。


線路を引けば簡単だが、魔獣に踏まれるリスクが大きい。線路なしで走らせる必要がある。そして、動力の問題だ。この世界のことをよく知らないせいで、動力がどんなものかを知らずにいた。魔力が全てを司る世界。木炭や石油などの燃料を使う手法は通じない。


行き詰まったヒカリは、久しぶりに図書館へ行ってみた。そこには、いつものようにウィッチがいた。 「ウィッチさん、久しぶりです」


「ヒカリなのだ。最近見ないが、頑張っているようなのだ。魔道具製作資料、読んだのだ」 「ウィッチさんって資料も読むんですね。てっきり本だけかと思いました」 「そうなのだ。本だけだと応用は身に付かないのだ。製作されたものにどんな魔術を使ったか知るのが面白いのだ」


ヒカリはウィッチの勤勉さに心打たれた。彼女もまた、見えないところで積み重ねている。ヒカリは思い切って、今の悩みを相談した。


「動力って何なのだ? 魔力で動かせばいいのだ」 「やっぱりウィッチさん、魔法以外には興味ないですもんね……。魔力を溜め込んで一気に吐き出す仕組みがあればいいですけど、魔術でそんなこと一度にできる方法は、いくら調べてもなかったんですよ」


ヒカリがしょんぼりと下を向くと、ウィッチは少し考え、一枚の紙に魔術の刻印を描き出した。 「見るのだ、ヒカリ。この紙を」 「……知ってますよ。魔力を集める魔術ですよね。それは燃料として使ってみようとして失敗しました」


ウィッチはにやりと笑い、紙を裏返すと別の魔術刻印を描き加えた。 「これでどうなのだ?」 「これは……!」


表の紙が魔力を吸い、裏の紙が魔力を出していく。魔力が淀みなく循環している。 「これなら、刻印を増やせば魔力をいくらでも集められるのだ」 「さすが、ウィッチさん……! これならできるかもしれません。でも、まだ線路の問題が……」 「あー。あの図面の道なら、常に『道を作る魔術』で道を作ればいいのだ」 「なるほど……! 道を作ってはまた消して、それを繰り返す魔術か!」


ヒカリは急いで部屋に戻り、図面を書き直した。


それから2週間後。 ヒカリは完成させた模型を手に、教授たちの前でプレゼンを行った。 「これを各国に配置すれば、魔獣の被害を抑えつつ、物資と人の運搬が劇的に楽になります」


模型が青い光を放ち、レールのない空間を滑るように進む。 ヒカリの渾身の出来に、教授だけでなく、鼻にかけていた周りの生徒たちも、開いた口がふさがらなかった。


静寂の後、講堂はヒカリを褒め称える声に包まれた。 地下に埋めた柱、眠れない夜、冷めたコーヒー。そのすべてが、新しい世界の産声へと繋がった瞬間だった。

明けましておめでとうございます。

久しぶりの投稿になります。

個人的に資格試験の勉強をしていて、

物語を描いている余裕が無くなってしまいました。

物語もいよいよラストに向かっています。

どうぞお付き合いください。

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