第1話 召喚される2人の勇者
「あ~あ。違う世界に生まれ変わったりしねえかな」
俺、蒼井 悠人ことユウは、通学路の片隅で唐突にそう呟いた。
隣で黒髪ショートをなびかせていた幼馴染の陽向 輝、皆がヒカリと呼ぶ少女は、いつものように呆れた顔で俺を見上げる。
「何よ急に?補習のせいで頭おかしくなった?」
「そりゃあ、なるだろ。毎日補習だぞ。良いよな、成績優秀者は」
俺は高校二年生。勉強もダメ、運動もできない、見た目もイマイチ。目標も夢もない、本当にどうしようもない人間だ。
一方、ヒカリは成績優秀、空手で全国制覇、将来はデザイナー志望で人生を謳歌している。
昔は俺の後ろを付いてきていたのに、今ではすっかり逆だ。俺が彼女の後ろを追っている。この差は一体どこでついたのか。
「いやなら勉強すればいいのに。いつもしないからそうなるの」
ヒカリはお母さんのような口調で説教してくる。俺にとって、ヒカリは家族のような存在であり、こんな俺と接してくれる唯一の存在でもある。
「じゃあヒカリまた明日」
「うんじゃあ勉強がんばってユウ」
いつものように別れようとした、その瞬間――足元の地面が、蛍光灯が爆発したかのように光輝いた。
目を瞑ると、今まで嗅いだことのないお香のような匂いが鼻腔をくすぐる。
重い瞼を開くと、そこは知らない石造りの部屋だった。視界にはキラキラと光るホコリのようなものが舞っている。
そして、周囲には、俺たちが立っている魔法陣の周囲に、怪しげなローブを着た老人が四人――倒れ伏していた。
「え?ここどこ?」
先に目を覚ましたヒカリが、すぐに異常を察して動揺する。俺も何が起きたか分からず、困惑のあまりヒカリを見つめることしかできない。
その時、重厚な扉が勢いよく開いた。魔女のような風貌の老婆が、急いで部屋に入ってくる。
「このバカものが。なんてことをしたんだ」
老婆は倒れている人たちの顔を一人ずつ確認し、怒りを露わにした。
「あれだけ禁止だと言ったのに勝手しおって。死んでどうするんじゃ」
「あのーここはどこなんですか?」ヒカリが尋ねた。
「ここはキャンバスの魔術都市ラギアス。お前たち召喚されてきたのか?その恰好異世界の物か」
老婆はユウとヒカリの足元に目をやった。地面には複雑な紋様が描かれている。
「困ったもんじゃ。勇者は祝福と災いをもたらすというのに。召喚陣には二人分の反応が出た。二人とも勇者ということになるが…」
老婆は深い皺の刻まれた顔をさらに歪め、倒れている者たちを指差した。
「あれは、勇者を召喚するための『贄』じゃ。お前たちがいるその魔法陣は、彼らの生命力と魔力を根こそぎ吸い上げて完成したものじゃよ」
「な……贄!?」
顔から血の気が引いた。俺が望んだ「違う世界」への転生は、他人の命を代償にした、あまりにも残酷な結果だった。
「わしは、この都市の副学長、フィオナ。貴様らが何者であれ、勇者として召喚されたという事実は変わらん」
フィオナはユウをじろじろ見て鼻を鳴らした。
「お前、ユウといったか。体格は貧弱、覇気もない。どう見ても勇者らしい『祝福』は見えん。何をもって勇者なのか」
異世界に来ても、結局自分は「ダメな人間」扱いか。ユウは深く傷ついた。
次に、フィオナはヒカリを見た。
「対して、この娘…。魔力の波長が異常じゃ。まるで太陽のように、淀みなく力強い。召喚術が乱れていたにもかかわらず、その身に高レベルの『能力』を宿しておるな」
「能力?何ですかそれ?」 ヒカリは戸惑う。
「わからん。魔力が強大すぎて、わしの目では把握できん!しかし、おかしい…ユウ、お前のスキルも、存在しないわけではない。何か引き付けられるものがある…」
フィオナはユウとヒカリを交互に見る。
「…分からん。だが、お主がもう一人の勇者であることは確か。きっと、お主たち二人の『不釣り合いな対比』こそが、この世界が必要とした『勇者』なんじゃろう」
フィオナは急いで世界情勢を伝えた。
「今、キャンバス大陸は魔獣の脅威に晒されておる。勇者とは、その元凶となる魔王を討伐し、世界を救うために召喚される存在じゃ」
「魔王討伐…」ユウは震えた。ゲームや漫画の話だ。運動も勉強もできない自分が、そんな大それたことをできるはずがない。
「俺は…帰りたい。こんな世界で、誰かのために戦うなんて無理だ。俺は、ヒカリみたいに強くない」ユウはうつむいたまま、本音を漏らした。
ヒカリはユウの隣に立ち、ユウの手を強く握った。
「ユウ。私がいるでしょ。私は空手が強いだけじゃない。もし本当にデザイナーになるなら、この世界を、この世界の美しいものを守りたい。ユウは、私に頼って。私が前を歩くから、これからも、私の後ろを付いてきてよ」
ヒカリの真っ直ぐな瞳を見て、ユウは息を呑んだ。そうだ、ヒカリは自分のせいで巻き込まれたんだ。彼女にまでこの危険を押し付けて、自分だけ逃げるなんてできない。
「…分かった。俺はダメな人間だけど、お前の描く『キャンバス(世界)』を守るためなら、頑張れるかもしれない」
「そうじゃ。勇者は祝福と災いをもたらす。お前たちの存在は、魔王側に感知されたはず。魔術都市ラギアスにいるのは危険じゃ。二人とも、今すぐここを出るんじゃ!」
フィオナの合図と共に、二人は、異世界キャンバスでの冒険と、魔王討伐という過酷な運命に立ち向かうために、動き出すのだった。
読んで頂きありがとうございます。
新作勇者の章書いて見ました。
本編の英雄の逆鱗後の空白の1年を描いていきます。
毎週金曜日5時に更新していく予定です。
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