日常という名の。
福田が部屋に戻ると、いつものように整然とした空間とはかけ離れていた。床に散らばる衣服、未開封の配達物、食べた後に放置されたままのUber eats、空のコーヒーカップがそのまま放置されている。配信機材も埃をかぶり、PCの電源は落ちたまま。リビングのソファに目を向けると、そこにはテレビがつけっぱなしで、音も画面もぼんやりとしたままだ。テレビの前には、福田が長い間放置していたかのような静けさが漂っていた。五十嵐はその部屋を見回して、耐えきれないとばかりに配信部屋を覗きに行った。
「なんだ、これ…」
以前、福田が配信をしていた頃の部屋とは、まるで別物だ。福田が熱心に配信していた防音部屋が、今や無人のように静まり返っている。五十嵐はその変わり果てた様子に、胸がざわつくのを感じた。
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福田は無言で部屋に入り、黙ってソファに座った。テレビの音が消えたままで、画面には静かな白いノイズが映し出されている。その無言の空間は、福田が何を考えているのかを一層分かりにくくしていた。五十嵐は彼の横顔を見て、心の中で言葉を探すが、何も思いつかない。ただ、目の前の福田が、以前のように笑って話している姿とはまるで違うことに、重苦しい気持ちを抱えていた。
福田はそのままテレビを無視して、無表情で天井を見つめるばかり。五十嵐はその姿を見ながら、何かを感じ取ろうとするが、どうしても彼の気持ちは分からなかった。
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五十嵐は福田に近づきたくても、どうしていいかわからない。彼の沈黙に何か意味があるのか、それともただ気分が悪いだけなのか、それすらもわからない。ただ、目の前にいる福田が、以前のように配信していたり、笑ったりする姿を思い出すと、今の彼があまりにも違って見えることに戸惑いを感じていた。
「何かあったのか?」
五十嵐は小さな声でつぶやいたが、もちろん福田は反応しなかった。彼はただ、無表情で天井を見つめるばかり。五十嵐はその姿を見ながら、無力感を感じると同時に、以前の福田が戻ってくることを心の中で強く願っていた。
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福田はそのまましばらく動かず、ただ静かな空気が部屋を支配していた。五十嵐はその静けさが、まるで圧し掛かるように感じていた。自分はもう、福田に何もできないのだろうか。彼がこんなにも変わってしまった理由を知りたくても、何も聞けない自分に、心の中で苛立ちが募る。
「本当に、どうしたんだ?」
五十嵐は無意識に声を漏らしたが、それは福田に届くことはなかった。福田はそのまま無言でテレビの画面を見つめ、眉をひそめている。その表情に、五十嵐は言葉を失った。自分にはもう、何もできないのだろうか。心の中でそう感じながらも、福田の気持ちに触れることはできなかった。
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福田が立ち上がると、五十嵐は反射的にその動きに目を留めた。福田は棚から何かを取り出し、それを静かに開いた。五十嵐はその瞬間、驚いた。それは、あの手帳だった。自分があげたものだ。福田はその手帳をじっと見つめ、ページをめくりながら何かを思い出しているようだった。
「手帳、まだ読んでるのか」
五十嵐は小さく呟いたが、もちろん福田には届かない。福田はそのまま無言で手帳をめくり続け、眉をひそめている。その表情に、五十嵐は言葉を失った。自分にはもう、何もできないのだろうか。心の中でそう感じながらも、福田の気持ちに触れることはできなかった。
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その夜、福田は寝室で横になり、目を閉じた。リビングのテレビに映る深夜帯のわちゃわちゃとしたバラエティーが、反射して彼を映していた。
それ以外、部屋の中にはほとんど光が差し込んでいない。五十嵐は彼の横に立ち、寝顔を見守ることしかできなかった。静かな呼吸だけが部屋に響き、その一瞬が永遠のように感じられた。五十嵐はその無言の時間に、何も言わず、ただ立ち尽くす。
「おいお前、大丈夫か?」
五十嵐は声を出してみたが、やはり福田には届かない。それでも、心の中ではずっと問いかけていた。福田は一体、何を思い、何を感じているのだろうか。五十嵐はその答えを探し続けるが、答えは出ないまま、静かな夜が過ぎていった。