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タイトル未定  作者: 周斗紫奏
第一章 全智と一知と無知
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持たざる者には見えぬ世界

 あれから少し、食事を終え少しゆっくりしたあと、本部とやらに行くことになった。瞬間移動のようなものをされると思っていたら”歩いていく”といわれ今はなだらかな山道を歩いている。

 店を出てからずっと無言。シオンさんでさえ、今は真顔で先頭を歩いている。沈黙は嫌だが、だからといってなにか言葉を発するのも嫌だ。ずっとそんな思いを脳内に巡らせながらここまでついてきたわけだが、そろそろこの沈黙に耐えるのも無理を感じてきた。そう思い先ほど質問しそびれたものを聞こうと思って口を開いた。


「あの……シオンさん?」

「……なにかな?」


 少し置いて返事が帰ってきた。笑顔だが、どこか疲れてるような笑みで。僕の斜め前にいた橙逢さんがそれを見たのか"こりゃガタきてるな”とつぶやいていた。言葉の真意はよくわからなかったが、とりあえず質問をした。


「あの、なぜ僕が組織に入ることが強制されていたのですか……? 一般人は選ぶ権利があると橙逢さんが言っていたので……」

「……ああ、それは君が現能力者だからだよ」

「え、……え?」


 隣では橙逢さんが固まった。僕の脳内では「いやそういうことはもっと早く言ってくれよこの野郎」と「こればっかりは信じられない」という二つの気持ちが浮かんだ。

 僕は今まで周りで不可解な現象を見たことが全くない。もし何かしら持っているのなら、そういうこと起こるものじゃないのだろうか。こう心の中で疑問に思うと心を読んだかのように返してきてくれたシオンさんだったが、今に至っては返事がなかった。さっきまでのハイテンションはいずこへ……。

 そして今の今まで隣でぴしりと固まりながら歩いていた橙逢さんが、僕がおろおろしてるのを見かねたのか、あー、と呟きこちらを少しだけ振り返って口を開いた。


「詳しい説明は明日以降するよ。この人はちょっと徹夜続きで疲れが出始めてるだけだから気にしないであげて……」

「あ、はい……」

「ついた」


 橙逢さんに言われ返事をしたすぐ後、シオンさんがそういった。眼の前には鳥居があった。あるといっても、なにかがある、とわかって初めて認識できるようなものだった。うまく言葉では言い表せないが、それが異質な物体であるにも関わらず、ここに気味が悪いほどに溶け込んでいた。しばらくして違和感に気づく。


「透明……?」


 その鳥居は透明だった。神徳稲荷神社のようなうっすらとした色も全く無い、無色透明。素材はガラスか?


「いくつかある、本部への入口の一つ。別に鳥居じゃなくてもいいんだけど、うん、私の好みかな。和風」


 ふと、シオンさんが静かに言った。そして彼が鳥居の向こう側に足を踏み入れた瞬間、吸い込まれていくように姿が消えた。


「じゃ、俺達も行こうか」


 橙逢さんに言われ鳥居をくぐる。足を踏み入れた瞬間、目を開けていられないほどのつよう光りに包まれ目を閉じた。

 目を開ける。

 そこに見えたのは、和風と洋風が混じったような、そしてどこか神秘的な”旅館”だった。全体的に朱で塗られ、下からその旅館のバルコニーのようなところでお茶を飲んでいる人が見える。建物の端が見えない。恐らく公立の学校の10倍はある。

 それにしてもカオス的な空間だ。僕が今いるところでは光の微粒子が舞っているが、右側の奥の方には桜の葉、その反対側の奥にかすかに見えるは緑の葉。季節も気温も植物も建物も酸素濃度に他諸々。恐らくこの光景は科学的には再現不可能だ。

 人もなかなかに多い。外国人らしき人、目隠しをした人、羽が生えてる人、洋・和装飾の人などと、とにかく多種多様な人がいる。


「ここは……」

「ここは現能力者たちの溜まり場にして本拠地だ」


 シオンさんが前へと歩き出す。その最中、彼のきていた服が洋装から和装へと変わった。長義に羽織、そして腰には刀が一本、そして銃と思われる筒状の武器。


「鳥居をくぐった先にこの光景が見えた……これは君は現能力者であることの証明だ」


 ふと後ろを向く。先ほどくぐってきたはずの透明な鳥居が消え失せ、朱の色をした巨大な鳥居がそびえ立っていた。

 肌への違和感。前に向き直ると、降ってくる微粒子が量を増していることに気づいた。シオンさんが一歩進んでいくに連れ、増していく。

 現地にいた人がこちらに気づいた。視線が集まる。

 そして、シオンさんが振り返って、僕をまっすぐ見て言った。


「ようこそ――現能者たちの独立国へ」

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