喫茶店にて
「さて、話を戻そうか」
場所が変わって喫茶店。目を五秒閉じてくれと言われその通りにし、五秒後には殺風景な草原からこの喫茶店の前にいた。突っ込むことを放棄したい気持ちに襲われた。
それにしてもこの喫茶店だが、男三人で入るにはかなり勇気のいるところだ。めちゃくちゃオシャレで周りのお客さんも女同士や恋人ばかり。しかもシオンさんも橙逢さんも地味に身長が高いから入店時に少し目立った。百七十後半と百八十台に挟まれてる形で歩いている僕、百七十前半。とても肩身が狭い。
シオンさんが話し始めようとしたところで、橙逢さんが先に注文しましょうと提案して注文することになった。現在時刻おおよそ三時半。少し小腹がすいていたし、奢っていただけるようなので遠慮なくいただく。近くを通った店員さんを呼び止めそれぞれ注文する。
「じゃあ僕コーヒーと……このプレーンパンケーキ行っていいですか?」
「一人一万円以内ならいくらでも食べていいよ」
「ひぇ」
なかなかお高い金額に変な声が出た。
「じゃあ俺もそのパンケーキと……うーん、カフェラテ一杯!」
「シオンさんはどうするんですか?」
「んー、じゃあ僕はこの期間限定の『貴方と一緒にいたいの……何時までもっ! 私以外に目移りしたら許さないんだから!! ていってきそうなメンヘラさんを思って作ったっパンケーキ〜店長の元カノのような胸焼けしそうな量の生クリームを添えて〜』でお願いします」
「ぶっ」
「ぶふぁっ!」
前半部分を心を込めてノリノリでそういったシオンさんに橙逢さんと揃って水を吹き出した。
店員さんはものすごく驚きに満ちた視線をシオンさんに向け、まあまあの声量だったので周りのお客さんからの視線も少し痛い。
ああ。切実に帰りたい……。
◇◇◇◆◆
程なくして料理が運ばれてきた。
シオンさんのプレートに乗った見てるだけで胸焼けしてくる量の生クリームを見ながら話し始める。
「じゃあ説明させて頂くけどね。ああ、その前に一つ言っておくよ。君がうちの組織に入ることもう決定してるから。あ、今のでさっきの君の疑問に答えちゃったか」
「はあ……はあ? ……はい?」
「えっ」
思わず3回聞き返してしまった。隣で橙逢さんも石のように固まっている。彼の反応を見るにシオンさんが勝手に決めたのだろう。苦労人なんだな、この人……。
「シオンさん? あのですね、彼は一般人ですよ? 選ぶ権利あるタイプの人間ですよ??」
「はっは、まあその話は後でしようじゃない。それで少年。今更だけど名前は?」
「え、っと……天城空です。よろしくお願いします……?」
「天城空? へえ天城空。天城空かあ。うんうんよろしく。僕はシオン。苗字は後々ね」
「はあ」
なんで僕今3回も呼ばれたんだ……。
「さんざん呼び合ってるから知ってると思うけど……俺は橙逢。同じく名字は後々」
二人とも名字を伏せて自己紹介をした。なにかあるのだろうか。
「さて、先ほど外でされた質問には今さっき答えたわけだけど……他になんかある?」
「えっと、じゃあ……」
このままないです、などと言おうものなら出会って数十分の人と沈黙状態になるという地獄が発生するため、今までの会話をひねり出し、いくつか質問したいことを見つけた。
「ニュースでシエルさんが自分自身を唯一の現能力者と名乗っていますけどあれはなんですか?」
僕の質問にあ〜、とつぶやいてめんどくさそうな顔をする二人。そっちが他なんかあるかって言ったんでしょうが。
「あれは広報官みたいなものだよ。実際はそんなものじゃないけどね。複数人が出るとめんどくさくなるから一人しかいない風に見せてるの。うちの組織に所属してない、なんなら敵対してる現能力者をおびき出す的でもある」
「的って……大丈夫なんですかそれ?」
「逆に聞くけどあの人が誰かに負ける姿想像できる?」
横から橙逢さんに言われて少し考える。
紛争地域にてドローンカメラを追い越し、引き上げるという言葉を知らずにどんどん突っ込んでいき単独で敵兵を一掃する、返り血を浴びながら高笑いをしているシエルさんが頭に浮かんだ。
うん。
「想像できません」
「でしょ。そういうこと。他にも理由はあるけど、今じゃなくていいかな」
「他にはあるー?」
「あ、はい。いくつか」
シオンさんに声をかけられさっき頭に浮かんだ疑問を引っ張り出す。
「えっと、あなた達は具体的に何をしているのですか?」
「何をしているか、という疑問に組織の一員として答えるなら『人間がなるべく死なない世界を創る』かな」
「おお……」
案外普通の答えが帰ってきたため驚いてしまった。そこで一つ見つけた矛盾点。
「……あれ、シエルさんめっちゃ殺してません?」
「あれでも急所はうまく避けて死なないようにしてるんだよ。後戦場で血まみれになったと時とかあれ返り血だって本人は言ってるけど殺さないために精神使うからかあの子結構攻撃受けまくってるよ」
「えぇ……」
怪我した状態でも突っ込んでいってあんな笑顔を繕えるのか……。なんか、それはそれで化け物だな。いい意味で。
「まああと現能力者の回収……とか」
「? 回収?」
「まあそれは一旦置いておこう。次々答えるよ。間髪入れずに質問しちゃっていいよ」
「あ、では遠慮なく」
一呼吸置いて質問を始める。
「何を相手に戦っていますか?」
「主に人間……人間かな、うん。人間だよ」
「なんですかその怪しげな回答……。まあ、ひとまずいいです。シオンさんはなんの能力を持っていますか?」
「正式に組織に加入したら教えるよ」
「え、っと……橙逢さんのは聞いても平気ですか?」
「俺は背中に羽が生えてるのさっき見たから察しは付いてると思うけど、ようは鷹みたいなことができる」
「なるほど。……少し聞きにくいのですが組織員の死亡率とか……」
「組織設立から数千年経つけど……今のボスの代では0。あくまで死亡率だけど」
「0!?」
「表立った危ない方はシエルさんが片付けてくれるからってのも多いけど、一部の精鋭の能力者のおかげも大きいかな」
「はぁ、なるほど……。えっと、給料や残業手当は……?」
「残業は否が応でもさせない。給料は基本歩合制だけど最低限月10万は出るよ」
……相場がわからない。歩合制で月最低10万て高いのか……?
こんなところで引きこもりの弱さが……。
「家賃代とか出るし食料も基本自給自足してるからほぼその10万趣味に使えるよ」
「……あわわ」
え、好条件すぎない? なにかの宗教勧誘だったりする?
かなり疑わしさも増すが嘘を言ってるようには見えない。いいのか?
こんな引きこもりの社会不適合者がこんな高待遇に職場に……。
「あ、でも裏方回っても戦場出ても肉体労働はあるよ」
笑顔でそういうシオンさんの言葉にピシリと固まる。
ですよね……。
涙が一筋でた。