ヘリコプターの中で
「そういえばこんなへろへろ運転民衆の人に見られたら大騒ぎじゃ……」
緊張と疲れで肩で息をしながら彰亜さんの方へ目を向けると、随分前に衛生カメラに映らなく人目のない状況になってからいわゆる亜空間に転移していたそうだ。同時に、僕が操作画面に夢中になってる間に転送し、亜空間内の風景の変更を行ったらしい。通りで気が付かないはずである。
「落ちても問題はなかった……ということですか」
「まあそれはそうですけど……落下するってことはヘリが壊れるってことですから、修理費を払えて爆風などに耐えられるなら問題ないかと?」
だめでした。結構普通に命かかってた。そしてそんな危険状態が今も続いている、と。
「後どんくらい操縦し続ければいいんですか……? てか亜空間内入ってるなら普通にきたときみたいにワープすればいいのでは……」
「あ、バレました?」
あっさりという彰亜さんに多少のイラつきを覚えたのは許してほしい。まあどっちにしろもう三分もしないうちにつくらしく、そのまま操縦を頼まれた。いや勘弁してください、後三分も死と財産の危険に晒されろと??
僕の心の叫びも虚しく、この状況をまるで映画の平和シーンを見るかのように優雅に笑いながら鑑賞する彰亜さん。そしてどこから取り出したのか、桃と果物ナイフを取り出し、それを器用に剥き始めた。
「彰亜、私にもー」
「はいはいちょっとお待ちを。あ、よければ空君もどうぞ」
フォークを差し出されたが、どちらかというと口ではなく頬に押し付けられるような形であり、食べようと思っても食べれない。そして当の彰亜さんといえばこちらにフォークを押し付けた状態、つまるところ片手が完全に塞がっている状態で残りの桃を剥きあげシエルさんへと渡していた。恐ろしい器用さである。
そんなさまを横目で眺めながらも、微動だにせず彰亜さんの行動を無視しながら無心で操縦していると、やがて切った桃を貫通してフォークが頬に刺さってきたので一瞬横を向いてフォークごといただいた。
「……フォークも食べる気ですか?」
「ふぁめまへんは??」
食べませんが、と言うつもりで発した言葉は桃とフォークのせいによりうまく発せなかった。まあ言いたかったことは伝わっただろうのでよしとする。
桃を飲み込んだ後一瞬片手を操縦桿から離してフォークを持った。そしてそのまま操縦桿を両手で握り直した。
「誰のせいだと……?」
「……この世ならざるもの?」
「えっ?」
「彰亜さんですよなんで急にバカになるんですか何なんですか」
後ろからシエルさんも反応し、無意識的に貶しながら突っ込んだ。わざとやっているのかそうでないのか、きっと彼の性格から見て前者なのだろう。
「はあ……」
「ため息を付くと逃げますよ、女性が」
「急に妙に納得できること言うのやめていただいても?」
そんなこんな会話をしていると3分経っていたみたいで、いつの間にか亜空間を抜けていた。
抜けた先は源委亭の正門――というより正鳥居――の真上であり、それと共に、急にヘリコプターがバババババ、と音を立て始めた。
「急にうるさっ!? 耳! 耳割れますってこれ!!」
「仲間が返ってきたってことを知らせるために音が出るようになっているんです。慣れてください」
「なんて!?」
彰亜さんが説明してくれているのだろうが残念ながらヘリの音でなかなか聞こえない。
そんなときに急に風が吹いてきた。風は後ろから吹いてきており、あろうことかシエルさんが後ろのドアを開けたのであった。よく見ると縄梯子が下へと吊るされており、何となくこの後の流れを察した。
僕が危ないと叫ぼうとした瞬間、シエルさんが飛び降りた。そこから先は残念ながらヘリに乗っていた僕から見ることはできなかった。だが数秒後、確かに聞こえた。
「はーっはっはっは! そうだ! そうだ! 熱狂し褒め称えよ! 私――シエル様のご帰還だ!」
という、自信満々な声が。
なんで、ヘリの中にいて、かつプロペラ音がこんな激しい中聞こえるんだろう……なんでそんな大きい声が出るのだろう……。あ、拡声器使ってる?
そして一つ、この超短期間ではあるがここの環境に触れて分かったことがある。
世界は、常識人が多ければ常識人が、異常者が多ければ異常者がより楽しいものだ――と。




