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タイトル未定  作者: 周斗紫奏
第一章 全智と一知と無知
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この子は何も知らないのだから

「平和な世界の裏の側」



 嘗ての日本、荒野に佇む一人の男。



「招かれざる者以外、決して覗いてはいけません」



 手を叩く。



「少なくとも」



 どこか遠くを見つめて、言った。



「自身が今、少しでも幸せを感じているのなら」





 ◇◇◇◆◆




―西暦3333年―







「あー、だめだ。暇死する」


 テレビの前で寝っ転がりながら独りごちた。僕は天城空。平々凡々な19歳にして就活中である。

 高校を卒業していざ大学へ!

 ……とはならず、働くことにした矢先。(これいい感じにこのままニートのまま数年過ごせないか……!?)と思い立って現在進行形で堕落した生活を送っている。

 ふと、昨日からずっとつけっぱなしのテレビが目に入った。


『この世界で唯一の能力者のシエルさんが紛争を終結致しました! これからインタビューを――』


 "現能力"

 この世にたった1人、この今テレビに出ているシエルという者のみが持つ、いわゆる非科学的な現象を引き起こす能力である。そんな"特別な力”を持ったシエルさんは出自不明、年齢不明、挙句の果てには性別すらも不明だ。

 一歩間違えれば不審者とも思われるほど謎が多いシエルさんが最初に表舞台に出てきたのは、日本で石油を掘り当てた時だ。それから自らを現能力者と名乗り、世界でおこっている戦争や自然問題などを次々に解決していった。その活躍と同時に森林が超スピードで成長し、オゾン層まで回復する始末なのだから神だと揶揄する者までいる。正直気持ちはわからなくもない。信仰心なんてものが今まで1度として芽生えたことの無い僕にでもシエルさんは神かなにかかと思い始めている程だ。


 ふと、ぐぅ〜とおなかがなった。そういえば昨日から食べてなかったか……。食料の備蓄もない。買いに行くかと腰を上げ、着替え、ドアを開けた。

 そろそろ就職しないと本格的にダメ人間になるが働きたくもない。まあ、もう少し自堕落に生活していれば反動で働きたい衝動が出るかもしれない。それまで気楽に過ごそう。そう思いながら家の門に手をかけ、開けた。矢先――






 落下状態になった。……どういうことだってばよ。門を開けた瞬間に謎の浮遊感を覚え、次の瞬間に何処かもわからない場所で落下。うん、ごめん理解不能。

 ちなみに、先程お隣に飛行機が見えたのでおそらくここは上空1000mあたり。落ちたらまず死ぬ。近日でなにかイレギュラーな行動をした覚えなし。つまりこれは他者のせいである可能性が高い。但しこんないきなり人を中から落とすなんて真似できる人がいるのか?

 ……いや、こんな冷静に分析してる場合じゃな……ほんとに冷静に分析している場合じゃないな!?


「ありえないとこからありえないスピードで落ちてるんだけどっ!? すでに風圧で死にそう!」


 ふと地面を見る。周りに人はおらず木などの勢いを殺せそうな障害物皆無。川や池の類もなし。全く見覚えのない殺風景な光景。脳内に"死”の文字がうかんだ。……これは、割と本気でまずいやつだ。


「あーーッッ! 死ぬ、死ぬって!! 待って何!? 家出たら急に知らないとこに瞬間移動して分けもわからず死亡とか!? せめてこんなことしたやつを殴らせ……いや蹴らせろやぁぁぁああああああ」


 地面まで数十メートル。あ、終わったな、と思いつつも喉が枯れそうなくらいに叫んでいた。


「あああぁっぁぁぁあぁぁあああ、あ、あ、あああ……あぁ……?」


 ぐちゃぁっといく様を想像したが、衝突の寸前、体がくるりと方向転換し、直立。地面から少し離れた状態――いわゆる浮遊状態――となった。

 ……え、ういてる、なにこれ、え?

 困惑していると、急に空中浮遊が解け足が地面についた。だが立っていることはできずその場に正座で座り込む。まて、本当に何事なんだ、これ、僕さっきまで、浮い……。


「なんで……一体何でなの……? 俺今日非番のはずなのにッ……!」

「わー。殺風景ー! あっ、そうだ! ここに結界でも張って歴史史上最大最凶最悪の蠱毒づくりでも――」

「やめろください。行動ではなくその思考を」


 さく、さく、と、草を踏み鳴らして歩く音と、少し離れた正面方向から聞こえる声。

そう声。声だけが、聞こえた。周りを見渡しても人どころか動物もいない。聞き間違いにしてははっきりとしすぎた声。何だ、何なんだ一体。そしてそんな困惑状態にある中、それはほぼ唐突に起こった。

 僕の真正面に、人が現れたのだ。自然と、まるで"今までずっとあなたに向かって歩いてきましたよ”と言わんばかりの自然さで。僕はずっと真正面を見ていた。靴の音だって聞こえていた。周りに人はいなかった。もし僕の方に向かって歩いてきていたのなら、気づかないわけがない。――透明人間?

 あり得るわけがない、と、頭を振って思考停止する。なんだ、なんなんだ今日は。さっきの落下といい、この人たちのことといい。

 不意に、僕の前にいる二人の人間のうちの一人、白髪の男が急に虚を突かれたような顔でで黙って僕を見下ろした。数秒僕をじっと見つめたあと、探しものを見つけたときのような笑顔で言った。


「……ああ! この子か!」

「そうそうこの子です! 間違いない! てかシオンさん、透明化するとき足音消せてませんでしたよ」

「えっ、うっそん」

「それよりこの子どうするんです?」


 白髪の長い髪を下の方で一本に結んでいるシオンさんと呼ばれた人の隣、橙の髪をし羽が生えている男が僕を指さしてそういった。そう羽が……。……………もう、理解しようとするのはやめよう。


「どうするもこうするも……どうする?」

「ルールに乗っ取るなら記憶消去が妥当ですかね。状況説明してもいいですけど、その場合のちのち面倒くさくなる可能性があります。主に俺が」


 僕を置き去りに会話し始める二人に、思うことはあった、色々あった。羽やら透明やら記憶やら。だがそんなことを彼らに聞く前に言葉が脳を介さず出た。


「何なんだお前らーー!!」

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