表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

哀遇異傘

作者: 星雷はやと

 

「毎日毎日、雨ばっかりでウンザリだ……」


 傘を差しながら、通学路を歩く。俺の気持ちを鬱々とさせるのは、連日続いているこの雨の所為である。梅雨だから仕方がないが、こう毎日雨だと気が滅入るのだ。靴や鞄は乾かない上に、部活動は全て体育館で行われている。限られた練習場は他の運動部との兼ね合いもあり、今日は早く帰宅しているのだ。早くあの青空の下、思い切り野球がしたい。


「はぁぁ……あれ? 善太か?」


 溜息を吐いていると、不意に先を歩く人物に気が付いた。幼馴染みの善太だ。彼は誰かと一緒に相合い傘をしながら歩いている。傘を相手の方に傾けている為、顔は見えない。しかし白く細い手足に制服のスカートが見えることから、女子生徒だということが分かる。


「そういえば、最近彼女が出来たとか五月蠅かったな……」


 幼馴染みの最近の行動を思い出す。突然彼女が出来たと自慢げに語り、部活を休んで帰ることが増えた。高校生になり彼女が出来るのは自然なことだ。何もそれを咎める気はない。 只、最近この辺りでは交通事故が増えている。善太は少し抜けているところがあり、幼馴染みでありチームメイトの俺は少し心配なのだ。


「……っ!? おい、善太!?」


 善太は幸せそうに、彼女に微笑みながら突き当りの車道へと歩く。この道路は交通量も多く、大型車がよく通る危険な車道である。それはアイツも分かっている筈だ。

 俺の呼びかけにも反応を返さない幼馴染みに、俺は傘と鞄を地面に放り出すと全速力で駆け出した。


「このっ!!」


 車道に足を踏み入れようとした瞬間、追いついた俺は善太の腰のベルトを思い切り引き倒した。勢い余があまり、善太と後方の歩道へと倒れ込んだ。靴の先を大型トラックが過ぎ去った。


「おい! 何をしている!? 車道に入るとか危ないだろうが!?」


 俺は怒りと心配が最高潮に達し、尻餅をついている幼馴染みを怒鳴りつけた。野球で鍛えているが、人の命が掛かっていたのだ。心臓の音が五月蠅くて仕方がない。


「……え? あれ? うわっ!? 何? 知らないよ! 野球第一なのにそんなことしない!」

「はぁ? 彼女にだらしない顔を見せながら、歩いていただろうが?」


 はっとしたように俺を見上げ、弁解をする善太に首を傾げる。真面目であり、噓をつく男ではない。それは幼馴染みの、俺がよく知っている。


「彼女? え? 何のこと? 僕がモテないのは、君が一番知っているだろう?」

「……はぁ? 何を言って……」


 お互い立ち上がり、善太は俺の発言に心底不思議そうな顔をした。何かが可笑しい。そうえば、善太の隣を歩いていた彼女は何処に行った?


「……ん?」


 ふと、善太の後ろに落ちた傘が揺れた。その傘の影から、セーラー服を纏った白い四肢が這い出てくる。先程見た白い四肢だが、首から上がない。明らかに異質な存在だ。それは未練がましくも、幼馴染みへと手を伸ばす。


「お前か……」


 俺は傘ごと靴で、ソレを踏み潰した。耳障りな断末魔が響いた気がしたが、直ぐに行き交う車の音に搔き消された。


 それからは、周辺で起きていた交通事故がぱたりと止んだ。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ