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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

メポロの日記

作者: サーナベル

20XX年7月4日


私が日記を付けようと思ったのは、簡単な理由からではない。どんな学者も否定するような現象に遭遇するようになったのだ。それは毎日続く。しかも、終わりが見えない。

私はあの怪物に殺されるのだろうか。

今は大人しい。ほぼ、寝ている時間が起きている時間より長い。

ヤツを学会に発表するべきだと友人達は言っていた。そうすれば、私の命は保証されると。しかし、私はこうも思うのだ。実験動物に仕立てあげたらヤツは私を殺しに舞い戻って来るのではないだろうか。

妻も出て行ってから長いし、私も歳が歳だ。あまり危険事に付き合う訳にはいかない。

汗ばんできた。

エアコンは一番温度を下げているが、冷や汗がどこからともなく滴る。

背後にヤツがいる。拘束され、眠っている。

私はヤツにティガロンと名付けた。学名で〝凶暴な背〟という意味だ。

ティガロンは私の夢から現れた。

信じられないのも無理はないだろう。私自身、未だに何が起こったのか理解できずにいる。

ティガロンが食べる物は生肉だ。排泄物はとてつもなく汚臭を放つ。最初、何も与えなかったら、大暴れし、涎で床中汚していた。

ヤツのギザギザの牙で直ぐに何を与えれば良いか察した。ティガロンは言わば、甲羅種の肉食恐竜なのだ。

ああ、何て言うことなのだろう。

こんなことが現実にあってたまるか。

幸運だったのは家がティガロン1匹飼うのに何不自由ないことだった。


20XX年8月15日


最悪だ。どうか夢であってくれ。

ティガロンの足枷を付けに来た職人がティガロンに捕食された。

私が早く学会に発表しなかったため死者が出たのだ。

私のティガロンへの愛着が憎悪に変わった。

何故か恐怖の概念はない。ヤツは私がいないとまた人々の深層無意識の中に閉じ込められると分かっているのかもしれない。それは私も自覚がある。

夢から産み出された化け物は夢の中に帰るのが合理的である。

ティガロンが私を食べるかテストしてみた。

結果、ヤツは私を見つめるだけで手出しはしなかった。私が主人であることをよく理解している。

食べられた職人は面倒臭くなって、ティガロンに全部やった。残った血痕と布切れだけ、後片付けする。

私は立派な犯罪者だ。

罪を犯した者と書いて犯罪者と呼ぶ。

私の手はとっくに汚れているというものを。


20XX年12月24日


世間はクリスマス一色だ。娘にもプレゼントを渡してやりたかった。

妻は娘も連れて出て行った。

暖炉の近くのソファに座りながら家族写真を眺める。あの時の笑顔をどこに捨てて来てしまったのだろう。

賛歌や聖なる夜の歌が聴こえる。近くの協会で天使のような子供達が歌っている。

自然と涙が溢れていた。

ティガロンは私の心の闇だ。私の傍で私をじっと見つめていた。

胸糞悪くなって家族写真は暖炉の中に放り込んだ。炎が揺らめき、パチパチと爆ぜる。その後、痛烈に後悔する。

家族など私のような人間が持つべきではなかったのだ。

血と汗と狂気の臭いに頭がクラクラする。

ティガロンが嬉しそうに鳴いた。痩せた子犬のようだった。


20XX年1月15日


とうとう、警察が家に来た。

どうやらティガロンが食べた職人はアーケインというらしい。

私は忙しいフリをして何とか警察を追い払った。

もし、家の中に入られたら、ティガロンに警察も食べられるだろう。私もまたただでは済まない。化け物を飼っていたとして重罪に処される。


今はまだ人間でありたかった。


本当は分かっていた。

夢の中の怪物・ティガロンは私の心の闇なのだ。

私が妻子を殺した。

ティガロンの排泄物の臭いは妻と娘の腐肉の臭いだったのだ。

ティガロンと出会ったあの夜、私は妻と大喧嘩していた。妻はこの私に向かって包丁を突き付けて来て、「離婚する」と騒いでいた。喧嘩の原因は私が学者として何の成果も上げないのに、仕事を拒んだためという如何にも夫婦にありがちな原因だった。しかし、そんなことで人を殺める程、私は自尊心の塊のようなものだったのだ。

私は妻から包丁を取り上げると素早く首の頸動脈を狙って、力を込めた。血飛沫は赤い噴水のようだった。

妻は痙攣して、目を見開いたまま、息絶えた。

それを偶然、目撃した娘が逃げていくのが見え、私はゆっくり跡を追った。子供の足だ。私達、夫婦は晩婚だったため、娘はまだ幼かった。

広い屋敷の中、娘に追い付く。私は包丁で娘を何度も滅多刺しにした。

娘の口から血が溢れ、娘は自分の血で窒息死したようだった。


ティガロンの足枷を付けに来た職人とは友人のことだ。

お節介にも勝手に人の陣地に入って来、私が最近、学者の会議に参加しない理由を尋ねに来た。

最初は殺す気はなかった。

だが、警察に通報しようとしていたため、仕方なく処分した。


クリスマスイブに泣いたのは痩せた子犬のような私だった。

ティガロンは私で、私はティガロンだった。

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