お熱いですわね
昨夜、深夜の労働をしたおかげで、寝坊した。
おかみさんが起こしに来てくれて、やっと起きられました。
ルースもまだ起きてないみたい。疲れてるんだろうな。
身支度を整えて、ルースの部屋へ。
トントン、と優しくノック。
「ルース。朝だよ。起きて」
反応はない。
もう一度、ノック。
やっぱり反応なし。
ドンドンドンと強めに叩く。
全然、起きてこない。
「ルース、入るよ」
言ってドアを開ける。
ルースはベッドで寝ていた。
「ルース、起きて」
早く起きないと綺麗な寝顔を見ちゃうぞ。
あられもない寝姿を見ちゃうぞ。
ドキドキ、ワクワクしながら近づく。
すぐに異常を悟った。
ルースの呼吸が荒い。汗をすごいかいてる。
そっと前髪が貼りついた額に触れる。
熱い。すごく熱いよ。
風邪?
いや、病気かも。
そういえば、人食いネズミは齧られると病気にかかることもあるって、聞いたことがある。
ど、どうしよう。
村では、病気になった人は、うちのおばあちゃんが治してた。
おばあちゃん治癒師だったから。
スキル本のお店で、見せられた五冊の中には、病気を治すようなのはなかったし、私の【レベル】ではまだ覚えられないってことかな。
とにかく、おかみさんに相談してみよう。
「すぐにロベリアンネ神殿へ連れていきなさい」
怪我、病気、その手のものはみんなロベリアンネ神殿で治してもらうらしい。寄進という名の治療費と引き換えに。
ロベリアンネ神殿かあ。
百歩譲って私はいいかもしれないけど、ルースはどうなんだ?
ものすごく目の敵にされてなかったっけ?
でも、ほかにどうしようもないし。
ギルドにいる他の治癒師に治してもらおうにも、そっちにもめちゃくちゃ嫌われてるみたいだし。
どうする? どうしたらいい?
私は、苦し気な寝息をたてるルースを見た。
悩んでる場合じゃない。
行くしかないじゃないか。
でも、その前に、冒険者ギルドだ。
人食いネズミ討伐の報酬を貰っておかないと。
お金で解決できることかもしれないし。
◇◇◇
人食いネズミの尻尾は、全部で8000本。
一体につき3000エネルだから、2400万エネルになった。
一気にお金持ち。
ジャックさんも、受付嬢メリッサもビビってたよ。
でも、そんなことはどうでもいい。
このお金でルースを治してくれるなら、全部、寄進してもいい。
私は、ルースを背負うと、ブレン・ブルーの中心にあるロベリアンネ神殿へ向かった。
街の中心区域は、いわゆる上流階級の人たちが暮らしている。道行く馬車は美々しく飾り立てられ、歩く人たちは着飾っている。
建物も大きくて立派なものばかり。
街灯だって立っている。
ときどき、私みたいに場にそぐわない感じの人も見かけた。たぶん、ロベリアンネ神殿から帰る人たち。
進むにつれて、そういう人たちとすれ違うことが多くなった。
やがて、大きな白い建物が見えてきた。
綺麗なツルツルした白い石で作られた台形の建物。幅広の階段が三十段くらいあって、その上にその台形の神殿が建っている。
人の列が階段の下まで続いている。並んでいる人に聞いてみたら、治療を待っている列だそう。
確かに、怪我人や具合の悪そうな人たちばかりだ。
列の最後尾に並ぶ。
早く、早く。心が焦れる。
耳元でルースの苦し気な呼吸が聞こえてるんだ。
だんだん、酷くなってる気がする。
ときどき、青い神官衣を着た人が神殿へ入ったり、出たりしている。治癒師になったら、神殿に行け、みたいなこと書いてあったもんね。
貴様、なぜ、神殿に来なかった、とか言われるのかな。
私、組織に縛られるの嫌なんで、とか答えたら怒られるかな。
そんなのはどうでもいいけど、ルースをきちっと治して欲しい。
そもそも、なんでルースを目の敵にしてたんだろう。
いや、ルースがたまたま条件に合致しただけなんだろうけど。
一時間くらい並んでいたら、神殿内に入れた。
外から見たところも立派だったけど、内側も、まあすごいことです。
彫刻が刻まれた柱。滑らかな床のタイル。
高い位置にある窓にはステンドグラス。
診療を求める人たちの列は、玄関ホールの隅に続いている。そこにいくつか部屋があって、患者さんたちは別れて入っていく。
神官たちは奥へ行ったり、奥から来たり。
玄関ホールの途中には、また幅広の階段があって、そこから先は下からは見えない
まあ、私はそっちに用はないんだけど。
ルースを治してもらったら、さっさとお暇しますよ、こんなところ。
ちなみに、私はいつものスモッグじゃない。旅用に使ってた擦り切れたズボンとシャツ。
治癒師だってバレないなら、その方がいいもんね。
ようやく部屋の前まできた。
ルースの容体は相変わらず悪いけど、急激に悪化する感じもなさそうだ。今のところ落ち着いている。
五つのドアが並んでいて、患者が出てきた部屋に、入ればいい。
早く、早く空いて。
一番右端のドアが開いた。子供とその母親がぺこぺこと部屋に向かって頭を下げてから、出てきた。
私は入れ違いにその部屋へと入った。
部屋にはベッドと椅子。奥に紙が積まれた机。椅子の前と机に、それぞれ神官が一人ずつついている。
神官衣が少し違って、机についている年のいった神官の着ている服は、金の刺繡がいろんなところに入っている。
立っている若い方の神官の服は、さっぱりしてる。ただの青いスモッグって感じ。明らかに治癒師にジョブチェンジしたときに、着ていた服の方が高級感があるくらい。
「どうされました?」
若い方の神官が言った。
「あの、この子が病気になっちゃって。人食いネズミに噛まれたんです」
私は背中のルースを見せて言った。
「人食いネズミ? それはひどい目にあいましたね。さあ、こちらへ寝かせて」
言われた通り、ルースをベッドへ寝かせる。
「人食いネズミの病毒なら、5万エネルだな」
机についていた神官が立ち上がった。
袋を持ってベッドへ寄ってくる。
「先払いだよ。さらなる治療が必要な場合は追加で寄進が必要だが」
言われるままに、袋の中に、エネル金貨5枚を入れる。
それから中年神官はルースの治療にかかった。とはいっても、ルースの額に手を当てて、「病気治療」と唱えただけだけど。
回復スキル系の白い光が神官の手と、ルインの体を覆った。
すぐに白い光は収まった。
ルースの呼吸が安らかになった。顔色も良くなったよ。
良かった。治ったみたい。
良かったね、ルース。
「これで大丈夫ですよ。お大事に」
若い神官が言った。
中年の神官は、とっくに机に戻って、紙に何かを書いている。
はあ、なんかあっさりしてるけど、とにかく助かったよ。
今まで毛嫌いしてたけど、ロベリアンネ神殿も悪いところじゃないかも。
絶対、神官にはなりませんけど。
ルースを背負って診療部屋を出る。
体温もすっかり平熱に戻ってるみたい。
病気治療かあ。覚えておきたいスキルだなあ。
「あっ、あんた」
大声。
見ると、神殿の奥から来た神官女が私を指さしている。
なによ、失礼な奴だな。
ん、なんか見覚えがあるような。
「こいつ、フラワ・パンダヒルよ」
大声で人の名前を呼ばないでよ。
みんな、すごい見てるじゃん。
神官女と並んで歩いていた男たちが、険しい顔で、ヒソヒソ話をする。
周囲にいる神官もなんか怖い顔で見てる。
なんか嫌な雰囲気。
ルースも治ったし、さっさと帰ろう。
「フラワ・パンダヒルとルーシフォス・バックネットを私の元へ連れてきなさい」
頭上から大音声が響きわたった。
まずい、なんかしんないけど、ルースの名前が呼ばれた。
逃げないと。
「あいつよ。みんな捕まえて」
私を指さしたままの女神官が金切り声で叫ぶ。
あっ、こいつ、あれだ。
ルースに絡んだ三人組冒険者の治癒師だ。
やっと思いだしたよ。
なんて、スッキリしている場合じゃなかった。
神官たちが殺到してくる。
やべっ、逃げよ。
ルースを背負ったままでも、こちとら【素早さ】2000だ。
本気を出せば、神官たちが止まって見える。
へへへ、バーイ。
ルースは治してもらったし、二度と来ないよ。
神殿から外へと飛びだす。
飛びだした、はずだった。
バコンと、なにかにぶつかって吹っ飛ばされた。
えっ、なに? なに?
ぶつかるもの、なんにもないよ。
外の大通りが見えるだけだよ。
両開きの大扉が開け放たれた玄関口。
今度はゆっくりと潜り抜けようとする。
バコって当たった。見えない壁に。
なんだ、これ。入った時はなかったぞ。
見えない壁を手でドンドン叩く。
ちょっと、通れないじゃないさ。
「フラワ・パンダヒルに、ルーシフォス・バックネットだな。大神官様がおよびだ。一緒に来てもらおう」
声に振り返ると、なんか位の高そうな凝った神官衣の男が立っていた。
彼の周りには、メイスを持った神官がずらりと並んでいる。
その間からさっきの、あの神官女が、ものすごい、ザマアミロって顔をのぞかせてる。
「私になにか用ですかあ? 私、しがない駆け出しの冒険者ですよお」
「とぼけても無駄だ、パンダヒル。君にはすでに召喚状を出しているはずだ」
「でも、別に、私が従う義務ってなくないですか? 私、ロベリアンネ神殿に所属してませんもの。それともなんですか、ロベリアンネ神殿は、一冒険者を呼びつけられる権力があるんですかあ?」
偉そうな神官男が眉をひそめる。
それよりも、取り巻きの神官たちが怒り顔だ。
我らが敬愛するこのお方に、なんという口の利き方を、とかそんな感じかな。
「いずれにしても、大神官様がお呼びだ。来てもらう」
「だから、なんで私がそれに従わないといけないんですか? 私、大神官様に別に義理ないですよ」
「君に否はないんだよ。力づくで連れていかれるか。自分の意志で歩いてくるか。その違いだ」
取り巻きの神官たちがメイスを構える。
メイスっていっても、棘とげがついてたり、杖頭が二股に割れてたり、どれも、すごい凶悪。
それ、か弱い女の子に向けるような武器じゃないだろ、おい。
「そこの見えない壁って、あなたが張ったんですか?」
「私ではない」
チェっ、この人倒したら出られるってわけじゃないのか。
「衝撃波」
偉そうな神官が、唱えながら両手を前に突き出した。
両手の平が薄紫色に光る。
次の瞬間、でっかい、見えないなにかが勢いよくぶつかってきた。
まっ、別に痛くないんだけどね。私の【防御力】8000だし。
小ゆるぎもしませんよ。
「なっ、なに……」
偉そうな神官が目を見開く。
「先に手を出したのはそっちですからね。私、平和主義者なんで、争いごとって苦手なんですよ。でも、そっちが、無抵抗の私にスキルで攻撃してきたんですからね」
ニッコリ笑ってから、偉そうな神官に向かって突進。
【敏捷性】7000のスピードで、踏み込んでからの、キック。
偉そうな神官が吹っ飛んだ。
たぶん、死んでないと思うよ。たぶん。
ついでにごっついメイスを構えてる取り巻き神官たちもキックで蹴散らす。
ルースを背負ってたって、馬鹿みたいに高いステータスは伊達じゃないんだ。
偉そうな神官と、取り巻きの戦闘態勢に入ってた神官を、秒殺しました。
ほかの十重二十重に囲んでいた神官たちが、ざわめく。
えっ、やる? やるってなんら、何人だろうが、やったるよ。
神官たちを睨む。
「はいはい、そこまで」
なんか気の抜けたような声がした。
人垣を割って男が出てくる。
ニコニコした笑顔。でも、うさんくさい感じ。
神官衣もさっきの偉そうな神官と同じくらい凝ったつくりだ。
「君の負けだよ、パンダヒル君。僕はいくつか広範囲攻撃スキルを持ってるんだ。その中には、【HP】500くらいの相手なら即死させる威力のものもある。君は平気でも、背負ってる彼は耐えられないんじゃないかな」
「え~、それならあ~」
小首をかしげる。
直後に全力ダッシュでニコニコ神官に突進。
スキルを使われる前に倒す。
ガンっとまたしても見えない壁にぶつかった。
ニコニコ神官のすぐ目の前に、見えない壁ができてる。
「ほらね、やっぱり君の負けだ。炎檻」
炎が壁のように四方から立ち昇った。
まずい、囲われた。
私はたぶん大丈夫だけど、ルースは絶対、無事じゃ済まない。
「このままだと、ルーシフォス・バックネットは焼け死ぬよ。いいのかい?」
ニコニコ顔で、えぐい奴だな。
炎の檻はどんどん狭くなっている。
選択の余地も時間もない。
「はい、負けです。私の負け。熱いんで、炎消してくださいよ」
「それなら、まず、ルーシフォス・バックネットを下ろしなさい」
「ええ~、戦う力のない可憐な乙女が、負けを認めてるんですよ。男らしく、スパっと炎を消してくださいよ」
「こうしている間にも、ルーシフォス・バックネットの【HP】は、じりじり減っているんじゃないかな」
クソっ、こいつ、交渉慣れしてる。
ここは従うしかないか。
背中でぐったりしているルースを床に下ろす。
床も炎で熱くなってきてるよ。火傷するほどじゃないけど。
「はい、下ろしましたよ。これでいいでしょう。男なら、いえ、ロベリアンネ様に遣える神官様なら、約束は守ってくださいますよね」
「もちろん。でも、私はまだ君と何かを約束した覚えはないけどね」
「ひどい。ルースを下ろしたら、炎を消すって言ったのに。私を騙した。神官の癖に、私を騙した」
「うん、そういう茶番をしているあいだにも、ルーシフォス・バックネットの【HP】は減っていくね」
「だったら、早く、条件を言いなさいよ。こっちは負けを認めてるんだから」
「君、かなり強い上に、ずる賢そうだからねえ。慎重には慎重を期さないとね。ルーシフォス・バックネットを置いて、君だけ炎の檻から出なさい。彼は人質だ」
「私が出たとたんに、ルースを殺さないって保証はあるんですか?」
「そこは信じてもらうしかないね。どっちにしろ、君には選択の余地はないと思うけど。だけど、まあ、ロベリアンネ様に誓うくらいはしようか。君が炎檻から出ても、ただちにルーシフォス・バックネットを殺すことはしない。ロベリアンネ様に誓おう」
「絶対に、ルースを殺さないと誓ってください」
「それじゃあ、人質の意味がないね」
一か八かの賭けに出るなら、ここしかない。ルースと引き離されたら、私にはなにもできなくなる。
どうする?
強行突破してみる?
心手を全開にすれば、一瞬だけでも炎を割るくらいはできるはず。
その瞬間に飛びだして、逃げれば……。
炎を見て、床のルースを見る。
唇を噛んだ。
ルースの笑顔が頭に浮かぶ。
彼の優しい声が聞こえる。
やっぱり、ダメだね。
自分の命なら賭けてもいいけど、ルースの命を一か八かに賭けられないよ。
私はゆっくりと炎の壁に向かって歩いた。
うわっ、熱そう。ちょっとは燃えるのかな。やだなあ。
炎の中に一歩踏み込む。
うん、別に熱くなかった。
ちょっとは【HP】減ってるのかもしれないけど、大したダメージじゃなさそうだ。
ゆうゆうと炎の檻を出て、ニコニコ神官の前に立つ。
「はい、これでいいですよね」
「すごいね、君。その炎、タフなオーガーですら、焼死する威力なんだけどな」
「ええ、ただのやせ我慢ですよ。本当は、熱くて熱くて、転げまわりそうなくらいなんですよ」
「人間鑑定」
薄紫色の光の輪がニコニコ神官の指から飛んできた。私の頭上で広がって、頭から足元に落ちて消えた。
ぶっ、とニコニコ神官が声をあげる。
ニコニコした細目がくわっと見開かれてます。
「ば、化け物……」
「ひどい、女の子に向かってなんて言い草」
ニコニコ神官青ざめてる。
ステータス、見られたっぽいね。
まずい、どんどん追い詰められてる。
「このステータス……。大神官様のおっしゃった通り、魔王の……。だが……」
ブツブツ言ってます。
「ところで、ルースを囲ってる炎の檻、もう少し火力を落としてもらえません? ルースにもしものことがあったら、私、ここにいる全員、殺しますからね」
交渉するなら、ニコニコ神官が動揺している今がチャンスだ。
ニコニコ神官が私を見て、炎の檻を見る。
ニコニコ顔に戻ってるけど、さっきまでの隙のない感じじゃない。
「私、サバサバしてるって、よく言われるんですよぉ。だから、他人の命って、割とどうでもよくてぇ。ぶっちゃけ、私とルースが無事なら、何人死んでも別にいいかなって、思ったりして」
ニコニコ神官が人差し指をさっと振った。
炎の檻が三メートルほど広がった。
「私のこの炎檻は遠隔操作もできるんだ。つまり、その気になればいつでも、ルーシフォス・バックネットを焼き殺せる」
「私のステータス見たなら分かってると思うんですけど。私がその気になったら、この神殿、一瞬でぶっ壊せますよ。瓦礫の下敷きになって、何人死ぬでしょうかね」
本当にできるかどうかわからんないけど。
でも、はったりはかけておかないと。
こっちも交渉できるカードを持ってるって。
「可愛い顔をして、恐ろしいことを言う」
えっ、可愛いって言った?
やっぱり、私って可愛い?
まあね、前から、結構、可愛い方なんじゃないかって思ってたけど。
告白されたことあるし。
って、テレテレしてる場合じゃない。
「ナンパならお断りですよ。私、彼氏いるんで」
キリっとして言った。
「誰も口説いちゃいないが……。さて、君が化け物じみていることは十分わかった。私としては、君を大神官様の元へ連れていかなくてはならない。いってみれば、私はつかいっぱしりさ」
「つまり、交渉するなら、大神官様と交渉しろってことですかあ?」
「そういうことだ。【賢さ】3の割には話が早いね」
「そうなんですよ。【賢さ】3しかないんですよ。だから、いきなりキレて、神殿をぶっ壊しちゃうかもしれませんね。【賢さ】3に、理性とか、倫理観とか求めちゃダメですよ」
「どうも色々と腑に落ちないが。まあ、私は役目を果たすだけだよ。こっちはただのアルバイトだからね」
「へえ、なら、場合によっては私の味方についてもいいってことですかね」
ニコニコ神官が、つぶってるような細い目を僅かに開いた。
なかなかイケメンだけど、私、ルースみたいなパッチリした目の方が好きなんだよね。
「お互い、ルールを決めておこう。私がルーシフォス・バックネットを人質にするのは、君を大神官様に引き合わせるまで」
「じゃあ、私は大神官様に会うまでは、誰も攻撃しません。もちろん、神殿も壊しません」
「君を大神官様の元へ連れていく道中に、君が今口にしたルールを守る限り、ルーシフォス・バックネットの命は保証する」
「ルーシフォス・バックネットに手を出さない限り、私はあなたの敵には回りません」
ふふっ、とニコニコ神官が笑った。
私も笑う。
今のやりとりで、お互いの立場を少し明かし合った。
ニコニコ神官は、大神官に盲目的に従っているわけではないことを。場合によっては、私の側につく可能性もあること。
私の方は、大神官とニコニコ神官を明確に区別できること。ルースを守ってくれるなら、手を組めること。