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真夜中のできごとでした

 はっ、と目が覚めた。

 私は、一度寝たら、朝まで起きないタイプ。珍しいこともあるもんだ、と思いながら闇の中、モゾモゾと動く。


 今、何時くらいだろう。窓の外は真っ暗だけど。

 まあいいや。さっさと眠ろう。


 まぶたを閉じる。

 眠れない。なんか、変に頭が冴えてて、全然、眠くないんだけど。


 はあ、なんだろう。昼間のことで興奮してるとかかな。

 下水道の前で、ルースと、ちょっとしたケンカみたいになっちゃったし。

 リボンを探しに行こうとするルースを、何度も何度も止めて、それで互いに言葉も強くなって。

 すぐに仲直りしたけど。

 うん、おやすみのキッスもしましたよ。


 私は、ガバっと起き上がった。

 チュッとキスした後、ルースの顔が一瞬、険しくなった気がする。ほんの一瞬だけ。


 まさか、そんなことないよね。

 嫌な予感を振り払いつつも、ベッドから降りて、いつものスモッグに着替える。


 壁に耳をつけてみる。隣部屋から寝息とか聞こえないかな。

 うん、聞こえない。ここの壁、そんなに薄くないんだよね。


 まあ、念のための確認。ルースの顔を見て、やっぱりカッコいいって感動するだけ。

 べ、別に不安なわけじゃないんだからね。


 ドンドンとちょっと強めにルースの部屋をノックする。

 反応は、ない。

 何度もノックした。


「ルース、寝てるの?」

 声もかけてみた。


 嫌な予感が、どんどん大きくなる。

 どうする、ドアをぶち破っちゃう?

 いや、おかみさんに開けてもらった方がいいか。

 あっ、聞けばいいんだ。ルースが外に出たかどうか。


 私は受付ロビーに走った。

 おかみさんが眠そうな顔で帳簿をつけていた。

 柱時計を見ると、12時。


「あの、ルース、外に行きませんでした?」


「ルース君? 一時間くらい前に出ていったよ。そういえば、まだ戻ってきてないね」

 おかみさんが、私を安心させるように微笑んだ。

「そんな顔しなくても大丈夫だよ。女と会いに行くって感じじゃなかったから。鎧着てったよ」


 全然、大丈夫じゃない。もう、確定じゃん。


 宿を飛びだし、深夜の街をひた走る。

 途中で、収納袋を忘れたことに気づいたけど、取りに戻っている余裕はなかった。


 ルースの馬鹿。なんで勝手なことするの。

 死んだら、どうするのよ。


 頭の中でルースをののしりながら、昼間使った下水道への降り口へ向かう。

 すぐに到着。こういう時、異常に高い【素早さ】がありがたい。


 あっ、収納袋を忘れたからランプがない。

 それどころかメイスもない。

 やべっ、戻った方が良かったか?


 いや、なんとかなる。私の馬鹿みたいに高いステータスなら、なんとかなるはず。


 下水道へと降りる階段に到着。飛び降りるようにして、降りていく。


 暗い。暗いよ。真っ暗だよ。

 地上は満月近くで明るかったけど、地下に降りたとたん、真っ暗だ。

 頭の中で、昼間見た地形を思い浮かべながら、進む。

 鋼鉄の扉に到着。

 かんぬきは、外れている。


 扉を開けると、圧倒的な悪臭が押し寄せてきた。

 口を抑えて、せり上がってきた吐瀉物を飲み込む。

 吐いてる場合じゃない。


「ルース、いるの? どこ?」

 大声で呼びかける。


 真っ暗闇。水の流れる音。下水にだけは落ちないようにしよう。


 わずかに光が見えた。


 走った。

 ランプだ。ランプが置いてある。

 ルース、ルースは……。


 いた。

 三メートル幅くらいの下水を挟んだ対岸の通路に、うつぶせに倒れている。

 その近くに人食いネズミの死骸が、三体あった。


 ひょいっと大きく跳んで下水を飛び越える。

 高ステータスは伊達じゃない。


「ルース、ルース」


 大丈夫。生きてる。今度は息もしてる。

 気を失ってるだけだ。

 

 怪我は、ももがえぐられてる。腕にひっかき傷。ももの傷が酷いよ。


接触治癒タッチヒール


 治癒ヒールの光で、周囲が一気に明るくなった。

 ルースがうめく。薄っすらと目を開けた。


「……フラワ、……見つけたよ」


 ゆっくりと左手を上げる。

 黒いリボンを握っていた。


「馬鹿、馬鹿、馬鹿」


 ポカポカと叩く。自分の頭じゃないぞ。


「勝手なことして。死んじゃったらどうするのよ」


「どうしても、諦められなくて……」


「40万エネルくらい、また稼ぐもん」


「でも、君が買ってくれたものだから」


 ルースの胸にギュっと顔を押し付けた。

 そのまま、声をあげて泣いた。

 ルースの手が頭を撫でる。


「ごめんね」


 しばらく泣いていたら、ルースの手の動きが止まった。

 あっ、泣いてる場合じゃない。

 顔を上げる。ルースのももの傷は治ってた。

 ルースはまた気を失ってた。疲労で眠ったのかもしれない。


 続いて手の傷を治す。

 こっちはすぐに治った。


 よし、さっさと退散しよう。黒いリボンをきっちり、ルースの手に巻き付けて。


 その時だった。

 また、あの音だ。

 ガリガリ、ギャアギャア。

 通路に反響する。


 私はルースを背負うと、扉の外に出た。ルースを下ろして、もう一度下水道に戻る。

 扉をきっちり閉めて。


 人食いネズミの群れは、もう間近にせまっていた。

 通路一杯の茶色い毛。

 憎しみを込めて、睨みつける。

 

 ネズミ風情が、私の彼氏を、かじってんじゃないわよ。   


 突っ込んでくる毛の群れ。

 だけど、戦闘モードになった私は、【敏捷性】3500の女。

 人食いネズミの動きが、ゆっくりになる。

 

 走ってきたネズミをつかんで、壁にぶん投げる。次々とつかんで力いっぱい投げる。

 猛スピードで壁に激突したネズミがグチャっと潰れる。


 飛びかかってきたネズミを空中でキャッチして、やっぱり投げる。つかんでは投げる。


 足でも蹴る。踏んづける。

 

 つかんで投げたり、引っぱたいて吹っ飛ばしたり、蹴ったり、踏んだり。

 片っ端から人食いネズミを倒していく。


 私の彼氏をかじった報いを受けろ。

 この、この。


 さすがに数が多いから、足をカプっと嚙まれたりした。

 でも、大丈夫。

 私の【防御力】は5000あるんですよ。

 そんなぬるい牙じゃ、【防御力】5000の乙女の皮膚は貫けないぜ。


 オラオラオラ。

 パンダヒルの女、なめんなよ。

 こちとら、ネズミなんて見飽きてるんだよ。

 山の中のボロ屋だからなあ。


 頭の中でファンファーレが鳴った。

 あっ、レベルアップした。

 やっぱり、スライムより手に入る【EXP】が高いからね。


 ちょっと休憩。

「ステータス・オープン」


 はい、ステータスウィンドウが開きましたよ。

 ちなみに、私が休憩中でも、人食いネズミはガツガツ襲い掛かってくる。瞬く間に体が人食いネズミでおおわれてしまった。

 歯も爪も、全然痛くないけどね。


【強さ】2500、【素早さ】2000、【かしこさ】3、【運】3000。

 何か知らないけど、【運】がめちゃくちゃ上がってる。


【攻撃力】7200、【防御力】6000、【敏捷性】4000、【魅力】1000。

 相変わらず、ガッツリ上がるね。

 そして、【HP】は5万、【SP】3万です。


 ちなみに、受付嬢メリッサから貰った資料によると、Cランクのトップがホブ・ゴブリンで、参考討伐適正【レベル】20。

 ステータスは、基本能力値が、【強さ】100、【素早さ】60、【かしこさ】40、【運】50。

 現状能力値は【攻撃力】300、【防御力】200、【敏捷性】150、【魅力】100。

【HP】800、【SP】150。

 

 私、【レベル】17だけど、桁が違うぞ。

 なんか、ホブ・ゴブリンもデコピンで倒せそうなんだけど。


 あれ、スキルの欄に新しいのが二つ増えてる。

 先制攻撃とか、対人格闘とかみたいに、経験で覚えたのかな。 


 流星群拳メテオシャワーパンチ

 なに、この少年心をくすぐりそうなスキル。

 治癒師ヒーラーのスキルじゃないけど。


 もう一つは、心手マインドハンド(100)。

 流星群拳メテオシャワーパンチは、たぶん、範囲攻撃のスキルなんだろうけど、こっちはさっぱりわからない。

 なんだ、心手マインドハンドって。100が、いいのか、悪いのかもわかんない。


 まあいいや、使ってみるか。

 とりあえず、流星群拳メテオシャワーパンチから。


 ステータス・ウィンドウを閉じて目を開けると、そこは暗闇でした。

 うん、人食いネズミにめっちゃくちゃくっつかれてるんだよ。

 たぶん、ほかから見たら、毛の塊になってると思う。


流星群拳メテオシャワーパンチ


 おおっ、体が勝手にパンチを連打。

 人食いネズミが空中で次々と、潰れていく。

 潰れたネズミの死骸が、べっちゃべっちゃとそこらかしこに飛び散る。

 しかも、どう見てもパンチが当たってないはずなのに、離れたネズミたちまで潰れていく。


 あっ、終わった。

 確認のため、ステータス・ウィンドウをもう一度開いてみると、【SP】が30減ってた。

 つまり、あと2970回できるのね、このスキル。


 結構、便利じゃない。

 治癒師ヒーラーっぽくないけど。


 よし、次は心手マインドハンド(100)だ。


心手マインドハンド


 おわっ、ニョキニョキニョキッと空中にスケスケの手がいっぱい現れたよ。

 これが心手マインドハンド。大きさも形も自分の手とそっくり。右側の宙には右手。左の宙には左手。

 つまり、このスケスケの手が同時に100本使えるってことかな。


 とりあえず、動かしてみようか。

 ほれ、ほれ、動け、動け。

 

 私のイメージ通りに、スケスケの手が、またくっつき始めた人食いネズミをひょいっとつまんで、ぶん投げる。

 ひょいっとつまんでぶん投げる。


 ほれほれ、ほれほれ。

 細かい動きは自動でやってくれる。

 うん、すごい便利。

 これは人間をダメにしそうなスキルだね。


 特に、ひっこむわけでもなかったので、そのまま心手マインドハンド(100)で人食いネズミをつかんでは投げ、つかんでは投げ。


 あっ、そうだ。

 心手マインドハンド(100)を出してる状態で、流星群拳メテオシャワーパンチを使ったらどうなるんだろう。

 使えるかな。

 

流星群拳メテオシャワーパンチ


 シュバババッとパンチを連打しまくる。

 スケスケの手はパンチしてくれなかった。

 うん、まあ、そうか。


 流星群拳メテオシャワーパンチが終わったところで、またファンファーレ。

 人食いネズミ、すごい勢いで倒してるもんね。


 よし、この調子でこいつらを根絶やしにしてやる。

 私のルースをかじったんだから、当然よね。



 永延に続くかと思えた人食いネズミの突撃も、ようやく終わり、まだ眠り続けているルースを背負って、宿に戻った。


 ルースを寝かせて、彼と自分の収納袋を持って下水道に戻る。

 人食いネズミの死骸で必要なのは尻尾だけ。住んでるところが住んでるところだから、食用には向かないし、他の用途もない。

 尻尾は魔法道具の素材に使えるらしい。


 心手マインドハンドを使って、ネズミの尻尾を、ブチブチ引っこ抜いては収納袋へ入れていく。

 イメージしたことを自動でやってくれるので、私は、ぼへぇ~、としてるだけで大丈夫だ。


 本当、これは便利ですよ。

 治癒師ヒーラーのスキルじゃなさそうだけど。


 ちなみに、心手マインドハンドは、消そうと思わないと、消えないものらしい。

 一分間に100ずつくらい【SP】が減ってく。

 一本が一分間で【SP】1ってことなのかな。

 使うときに、本数もイメージすれば、一本だけとかできるみたいだ。

 便利だから、いつも一、二本出しといてもいいかも。


 人食いネズミの尻尾を回収し終えて、宿に戻る。


 ああ、働いた、働いた。

 真夜中なのに凄い働いたよ。


 でも、相当な数の人食いネズミを駆除したから、お金も稼げたはず。

 スキル本買えるかも。

【レベル】も19にまでなったしね。

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