お祖母ちゃんはアマロリ系?
デートです。
私は久しぶりに着飾りました。
家から持ち出した、一番可愛い服。
白とピンクのレースたっぷりのフリフリたっぷり。
大きなリボン。
ちなみに、お祖母ちゃんの若い頃の服だ。
私のお祖母ちゃんはオシャレさんだったからね。
ルースはそんな私を見て、目を丸くした。
「す、すごい服だね。お姫様みたい」
それから困った顔になる。
「俺、こんななんだけど。服、これしか持ってなくて」
金属胸当てやらの冒険支度の下に着込んでる服とは別の服。
毛ばだった黒いズボンに、かなりくたびれた襟付きのシャツ。色あせた茶色いベスト。
「大丈夫だよ。ルースは例えパンツ一枚でも素敵よ」
ルースくらいのイケメンになると、なにを着てても、かっこいいの。
実際にルースは、凄く目立つ。庭先に金塊が落ちてたら目立つでしょう。そんな感じですよ。
二人で手をつないで、ブレン・ブルーの目抜き通りを歩く。
考えてみれば、この街に来てから、毎日毎日モンスター退治ばかりだったから、ろくに観光もしていない。
ブレン・ブルーの名所の一つ、大時計塔。
街のどこに居ても目に入る高い塔。
お金を払えば上れるようになっていて、観光客は、まずここへ来て、街を見渡す。
上の展望台から見る景色は格別。
地上を歩いている人たちが、小さい。小さい。
「ルース、見て見て、人がゴミのようだよ」
「フラワ、危ないから、もう少し下がって」
「は~い」
大時計塔の後は、近くの大きな本屋でマンガを探して回った。
どこにもなかった。
「おかしいな。これだけ大きな本屋なら、売ってると思ったんだけどなあ」
そもそも絵入りの本からして少ない、図鑑とか、子供向けの絵本くらいしかない。
店員さんに聞いてみても、マンガ? なにそれ、面白いの? みたいな反応だった。
まだマイナーな文化なのかな。めちゃくちゃ面白いのに。
昼食をオシャレな料理屋で食べる。
若い女性客が多く、彼女たちの視線は一様にルースに引き寄せられていた。
ぐふふ、私の彼、超イケメンでしょう?
「やっぱり、みすぼらしいのかな」
ルースが困った顔で言った。
「えっ、なにが?」
「俺のかっこう。見られてる気がするんだよ。こういう店だと浮いてるよね」
「全然、違うよ。ルースがかっこいいから、みんな見てるんだよ」
「ありがとう、フラワ。服とかあんまり気にしたことないけど、もう少し気を付けるようにするよ。フラワが恥ずかしくないように」
「気にしなくていいのに」
そんなわけで、午後は服屋へ行った。古着が売ってる店ね。
今まで、お金はルースのステータスアップのために使ってきたけど、こういうところにもお金を使わなくては。
というか、考えてみれば、お金、全部私が貰ってて、ルースに分けてないじゃないか。
服屋の前で、今更、そんなことに気づいて、ガーン、となった。
あかん、報酬、独り占めしとった。
「ご、ごめん、ルース」
「えっ、なんだい。いきなり」
「今までの仕事で貰った報酬。全部、私が預かってた。ちゃんと分けなきゃいけなかったのに。もう、馬鹿馬鹿、私の馬鹿」
ポカポカポカと頭を叩く。
ルースがそれに吹き出した。
腹を抱えて大爆笑しています。
笑うところじゃなくて、萌えるところなんだけどな。
「ごめんね。すっかり分けるの忘れてたよ。それは、ルースも新しい服買えないよね。不自由な思いさせて、ごめんね、ごめんね」
「えっ、でも、宿屋の支払いも、ギルドで食べた分も、全部フラワが払ってくれてるじゃないか。フラワがお金を管理してくれてるんじゃないのかい?」
「け、結果的にはそうなんだけど。でも、そういうのちゃんと話し合わなきゃいけなかったのに」
「でも、大半は俺のステータスアップのために使ってくれてるじゃないか。稼いでるのは、ほとんどフラワなのに」
「そうかもしれないけど。とにかく、ごめんね。これからは、ちゃんと山分けしていこう」
「いや、フラワが預かっててよ。俺、まだ弱いから、なにかあったら大変だろ」
「じゃあ、欲しい物があったら、遠慮なく言ってね。食べたいものとか」
ルースが笑った。優しい笑顔。
なに、キュンキュンするよ。
「フラワこそ、もっと自分のために使ってよ。スキルだって覚えたいだろ」
そういえば、私、治癒師なのに、回復系のスキル、接触治癒しかないな。
【SP】8000オーバーなんだけど。
そうか、支援系のスキルを覚えたら、ルースのステータスアップできるかもしれないぞ。
あれ、でもスキルって、どうやって覚えるんだっけか。
喧嘩で、先制攻撃と対人格闘のスキルは勝手に覚えたけど。回復系とか、支援系とかはどうするんだ?
ひょっとして、神殿にいかないといけないのか?
◇◇◇
服屋で、ルースの服を見繕うのは楽しかった。イケメンってさ、何着ても似合うよね。
彼女としては、もっとガンガンオシャレをして欲しいところだけど、ルースはもったいないから、と余計な服は買わなかった。
シャツとズボンを一つずつ。
あと、二人でお揃いのマントも買った。ほら、フードがついてて、帽子がいらないやつね。
冒険者っぽくていいと思うの。
服屋の後は、結局、最後はそこ、と言わんばかりに、いつもの冒険者御用達の魔法道具屋にやってきた。
ふふ、実はね。まとまったお金が入ったら、買おうと思っていたものがあるのですよ。
「これ、下さい」と、私は高い位置に吊り下げてある黒い大きな巾着袋を指さした。
「えっ、フラワ、それ、10万エネルじゃないよ。100万エネルだよ」
ルースが焦った顔で言った。
「大丈夫。ちゃんと分かってるから」
「でも、収納袋なら持ってるじゃないか」
「私はね。ルースは持ってないでしょう」
そう、私が狙っていたのは100万エネルの収納袋。ルース用の収納袋だ。
収納袋は魔法道具の中でもかなり高価な部類。それでも、冒険者ならば持ってた方が絶対に便利だ。
「お、俺の? でも、俺、別に……」
「だって、ルースの荷物、宿に置きっぱなしでしょう。いろいろ、不便だと思って。それに、私に預けにくいものだってあるかもしれないし」
今まで、出先で荷物がでるような場合は、私の収納袋に入れていた。
でも、ほら、ルースだって男の子じゃん。
なんか、女の子に預けにくい物だってあるかもしれないじゃん。
黄ばんだパンツとか。エッチな本とか。
「運べる荷物が倍になると思えば、いい投資だと思うよ。ねっ」
なにか言いたげだったルースは、私のその言葉に、納得した。
そして、顔中に笑みを広げる。
もう、本当は欲しくてたまらなかった癖に。
ルースに収納袋を買っても、スライムで稼いだお金はまだ十分あった。
よし、例によってルースのステータスアップだ。
盛りに、盛ってやるぜ。
【敏捷性】30アップの指輪、【HP】50アップのリボン。
しめて80万エネル。
ルースも順調に強くなってきてる。
この調子で、もっともっと強くするぞ。
◇◇◇
夕食はギルドで取った。その時に、受付嬢メリッサが、以前頼んでおいた資料をくれた。
ブレン・ブルー周辺にいるD~Fランクモンスターと参考討伐適正ステータスの書かれた紙。
ルースがどの程度のモンスターと戦えるかを知りたかったのだ。
ちなみに、ルースの現在のステータスは、各種魔法アクセサリーで盛り盛り状態で、基本能力値、【強さ】8、【素早さ】4、【かしこさ】9、【運】5。
現状能力値、【攻撃力】42、【防御力】30、【敏捷性】50、【魅力】6。
変動値が【HP】85、【SP】8。
ついでに【レベル】は8。
うわっ。
資料にさっと目を通した私は、素早くそれを折りたたんだ。
これはダメだ。ルースに見せちゃダメだ。
受付嬢メリッサは参考討伐適正ステータスのところに【レベル】まで載せてくれていた。
ラビットボールの参考適正【レベル】1、【強さ】8、【素早さ】5、【かしこさ】5、【運】5。
【攻撃力】20、【防御力】20、【敏捷性】15、【魅力】10。【HP】50、【SP】10。
スライムの参考討伐適正【レベル】3。
【強さ】15、【素早さ】12、【かしこさ】10、【運】12。
【攻撃力】32、【防御力】30、【敏捷性】25、【魅力】20。【HP】80、【SP】30。
盛りに盛った状態で、【レベル】3のステータスとあんまり変わらないよ、ルース。
注意書きに、ステータスはだいたいの平均値です、って書いてあるし。
ステータスアップのもろもろを外したら、いったいどうなることやら。
ずう~ん、と沈み込んだ私に、ルースが心配そうな顔をする。
「どうしたの?」
「ううん、なんでもないよ」
ニッコリと笑う。
いいさ、いいさ。
ルースの分、私が強くなればいいのさ。
「スライムの次は、人食いネズミ退治がいいみたい」
「……人食いネズミか。フラワはネズミとか平気なのかい?」
「別に大丈夫。パンダヒルの女はたくましいの」
「でも、生息地、下水道で、すごい臭いだよ」
「う~ん、そうだけど。人食いネズミを飛ばすと、次はゴブリンだもん」
受付嬢メリッサの資料によるとゴブリンは参考討伐適正【レベル】10。確か、基本能力値の平均が30前後。現状能力値の平均が100前後。【HP】200くらいだったはず。
「じゃあ、人食いネズミは俺だけでやるよ」
「ダメだよ。なにかあったら、どうするの。ラビットボールやスライムと違って、人食いネズミは凶悪なんだよ」
胴体部だけで50センチくらいある大ネズミ。やつらは、なんでもかんでも齧る。人もガンガン齧ってくるのだ。
おまけに、齧られると病気になることがある、やっかいなモンスターだ。
「フラワが辛い思いをするの、嫌なんだ」
あっ、きた。キュンとするのきた。
そんなまっすぐな目で見られたら、溶けるよ。フラワ・パンダヒル、ドロッと溶けちゃうよ。
そこに注文していた料理が来たので、話は中断。
私はパンをモッキュモッキュ食べながらも、次のレベル上げについて考えを巡らせた。
人食いネズミ、飛ばそうかなあ。
ルース一人で行かせるより、ゴブリン退治を二人でやった方が良い気がする。
なにより、ゴブリン退治は格段に報酬が高い。ギルドから依頼額も一体につき5000エネル。
さらに、それとは別に、雄の死骸のある部分が、とある薬になるので、それの買い取り額がなんと2万エネル。
雄一体倒して、合わせて25000エネルですよ。
雄ゴブリンのどの部分かって?
乙女ですから、口の端に上らせるのは抵抗があるのです。
昔、おじいちゃんが、ゴブリン退治から帰ってきて、収納袋から大量の緑色のあれを、床の上に、ざざ~、と広げたのを覚えている。
父さんと姉さん二人がドン引きしてたよ。
お祖母ちゃんと伯母二人と母さんは、大笑いしていた。
よし、ゴブリンにしよう。
そろそろ、ルースにいい鎧を買ってあげたいし。剣ももっといいやつにしないとね。
「フラワ、ちょっとじっとしてて」
「えっ、なになに?」
ルースの手が、ひょいっと伸びてきて、私の頬に触れた。
「くっついてたよ。これ」
ハムの切れはしを見せる。
「わっ、恥ずかしい」
「フラワは可愛いね」
クスクス笑う。
えへへ、幸せだなあ。
◇◇◇
宿に戻ってから(今日もちゃんとお休みのキスしたよ。ウェ~イ)、『初めての治癒師』を開いた。
ゴブリン退治するんなら、スキルを増やしといた方がいい。
ゴブリンて毒を使うこともあるから、毒治療は必須だろうし。
支援系の攻撃力アップとか防御力アップとかのスキルも欲しい。
というわけで、スキルを得る方法。
①ロベリアンネ神殿で、先輩の神官と仲良くなって教えてもらう。
うん、これは却下ね。ロベリアンネ神殿とか、行きたくないし。
②ロベリアンネ神殿で、先輩の神官にお金を払って教えてもらう。
うん、これも却下。
③スキル本を読む。
お金はかかる。今日行った本屋には無かったから、特別な本屋があるのかな。
④ほかの冒険者からスキルを奪い取る。
私のステータスなら行けそうだけど、やめとこう、犯罪だし。そもそも、奪い取るには、スキル奪取ってスキルがいるみたいだし。
⑤モンスターから奪い取る。
スキルを持ってるようなモンスターに出会うのは、まだ先だろうなあ。やっぱりスキル奪取がいるし。
スキル本かな。
スライムで稼いだお金は、まだ残ってるから、ひとつくらいならいけるんじゃないかな。
明日、ギルドでスキル本を売ってる店を紹介してもらおう。