はあ、しゅきぃ
結局、午前中に倒したスライムの数は1200体くらいだった。
全部、換金してやりましたよ。
120万エネル。120万エネル、ゲットです。
森と冒険者ギルドを三往復しました。
でも、全然疲れてない。
なんか、私、人間の枠からはみ出してませんかね。
まだ時間があったので、またスライムを引っぺがして、ポイ捨てする作業に戻る。
お金は幾らあってもありすぎることはない。ルースのステータスをもっと、もっと盛るのだ。
さらに追加で800体。この頃になると、森のスライムがほとんどいなくなってしまった。
やべ、やり過ぎたか。
ルースのレベル上げのために、もう少し残したといた方が良かったかな。
「ごめんね、ルース。私、ついついやり過ぎちゃうの。もう、馬鹿馬鹿」
ポカポカと自分の頭を叩く。
それにルースが大笑いした。
「な、なにそれ。お、面白い」
えっ、可愛げだよ、可愛げ。
爆笑するところじゃないよ。萌えるところだよ。
「フラワは面白いね」
あっ、おもしれえ女認定された。
けど、やっぱ違うし。そういうんじゃないし。
「大丈夫だよ。【レベル】もあれからまた上がったし。それに、スライムばかり倒してても強くなれない気がするんだ。もっと、実戦を積んだ方がいい」
なんというか、男の顔。
凛々しいよ、凛々しいよ、とっても。
ブレン・ブルーに戻る。
ちょうど、夕日が草原を真っ赤に染めていた。
私たちは手をつないで歩いた。
強い風が吹いて、私の髪とスモッグを横になびかせる。
支えるみたいにルースの手が私の手を強く握った。
う~ん、超幸せ。
◇◇◇
冒険者ギルドで、受付嬢メリッサに化け物を見るような目で見られた。
うん、スライム2000体一日で倒してきたしね。
しかも、何往復もしたからね。
「フラワさんのランクをCに上げるように、ギルド長に言っておきました」と言われた。
「凄いじゃない。もうCランクなんて」
ルースが大喜び。
別に私のランクだけ上がってもなあ。
ずっとルースと二人でやってくつもりだし。
「あっ、そうそう。ロベリアンネ神殿から手紙が届いてますよ」
受付嬢メリッサが白い便箋をカウンターに置いた。フラワ・パンダヒル様、と書かれている。
「えっ、別にいりませんけど」
ルースを迫害する元になったロベリアンネ神殿は私の敵だ。超嫌いだ。潰れてしまえ。
「そうおっしゃらずに。治癒師にとって、ロベリアンネ神殿との関係は重要ですよ」
「私、フリーの治癒師なんで」
「と、とにかく、ちゃんと読んでくださいね。渡しましたからね」
夕食を注文した後、しぶしぶ便箋を開けて、手紙を読む。
要約すると、どうしてロベリアンネ神殿に所属しないのか。それでも治癒師か。あと、ルーシフォス・バックネットとパーティを組んでるのはどういうつもりだ。天罰が当たるぞ。
とにかく、一度、顔を出せ。
そんなことが居丈高に書かれていました。
頭にきたのでビリビリに破いて、ゴミ箱に捨ててやりました。
「一回行ってみたら?」
ルースが心配顔で言った。
「フラワまで、ロベリアンネ神殿に嫌われることないと思うよ」
「そういうの嫌だよ。私だけとか、ルースだけとか。私たち、一緒。二人でひとつでしょう?」
ルースが、ポッと顔を赤くした。
こいつぅ、いい顔しやがって。
こっちまで、赤くなるじゃねえか。
「でも、大丈夫かな。この街でロベリアンネ神殿はかなり影響力があるみたいだし」
「大丈夫。いざとなったら、こんな街、出ていけばいいよ。ルースと一緒なら、私はどこだって生きていけるもん」
ふふ、立て続けにルース愛を口に出してやったぜ。
ルースが目をうるませている。
くくっ、効いてる効いてる。
「お、俺も……、フラワと一緒なら」
「私と一緒なら、なあに?」
さあ、口にしてもらおうか。
君のフラワ愛を。
「フラワと一緒なら、どこでもいい」
私たちは見つめ合った。
ああ、もう、我慢できない。
ルースとキスしたい。
そんなところへ、ウェイトレスが注文した料理を運んできた。
チェッ、いい雰囲気だったのに。
◇◇◇
夕食後、少し街を散歩した。
私の故郷の村なんて、日が暮れたら真っ暗闇なのに、さすがは都会、街灯と店から漏れる灯りで、夜もキラキラ。
大通りを手をつないで歩く。
「フラワはなんで冒険者になろうと思ったんだい?」
「だって、素敵な出会いがありそうだったから。マンガでよくあるでしょう。高貴な身分を隠した戦士と、治癒師の女の子が恋に落ちるとか、そういうの」
「マンガ? なんだい、それ」
「あれ、ルースも知らないの? 学校でも誰も知らなかったし。うちにはいっぱいあったんだけどなあ」
「へえ、どんなものなの?」
「ええと、挿絵たっぷりの本というか。絵で説明する小説というか」
「小説なら読んだことあるよ。『勇者ルディアスの冒険』とか」
「ブレン・ブルーなら、マンガも売ってるかも。ねえ、明日、探してみようよ」
「そうだね。たまには、休日も必要だね」
そのまま、私はマンガについて、熱く語った。いかに面白いか。いかにためになるか。
マンガの大半は異国の話で、とってもファンタジック。
テレビとか、ケータイとか、ゲームとか。
そんな感じの異文化臭がたまらんのですよ。
ちなみに、私がことあるごとに出す、おもしれえ女、とは、マンガの一ジャンル(おばあちゃんは少女マンガと言っていた)で、人気者でモテモテだったり(イケメン限定)、不愛想で悪い噂があって近寄りがたかったり(イケメン限定)、すれてて女とか面倒くせえとかいう雰囲気だったり(イケメン限定)。
とにかく、イケメンで特別な男の子が、主人公に最初に抱く印象である。
こいつ、なんか、ほかの女とは違う、ちょっと興味が湧いたぜ、みたいな。
ルースが途中で、クシャミをしたので、風邪をひいてはいけないと、夜の散歩を終えて、宿に戻る。
うう、もっと一緒にいたいよう。
ルースと一緒にいたいよう。
部屋の前で見つめ合った。
キス。
「おやすみ、フラウ」
言ってルースが部屋に入っていった。
はああ、しゅきぃ。しゅきだよぉ~。