表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/58

くぅ、余裕ぶりおって

「あの森に行ったんですか?」

 受付嬢メリッサが、マジかよ、って顔で私を見る。


「だって、そこに貼ってあったじゃん。近くの森でスライム大量発生。退治願う、みたいなの」

 

「あっ、やばっ。剥がすの忘れてた」


「おい、ふざけんな」


「大変、申し訳ありませんでした。マザー・スライムが発生しているので、Bランク以上の冒険者に退治を依頼しているところだったんです。その間、森のスライム退治は中断してもらおうと、あちらに張り紙をしたのですが」

 壁の別の箇所を指さす。


 読んでないよ、そんなの。


「どうしてくれるんですか。危うく、ルースが死んじゃうところだったんですよ。メリッサさんのミスで、ルースが死んじゃうところだったんですよ。メリッサさんの致命的なミスで」

 大声でわめく。


 シー、シーと必死の顔で中指を唇に当てる受付嬢メリッサ。超焦ってる。


「で、できれば秘密にしてください。上に知られると、査定に響くんですよ。私、今、生活がカツカツで。無職の恋人も転がり込んでくるし」


「でも、こっちは大変な目にあったんですよ。ルースが死にかかったんですからね。それに、メリッサさんの給料が下がっても上がっても、私には全然、関係ないですし」


「奢ります。奢りますから。夕食代三日分で、どうですか?」


「メリッサさんのお給料はどれくらい減るんでしょうか? それって、夕食三日分でつり合いがとれる額なんでしょうか? 私にはわかりません。【かしこさ】3ですからね」


「四日分。これ以上は無理です」


「まあ、いいでしょう。メリッサさんのお給料が減っても、私たちになんのメリットもないですしね」


「ありがとうございます。できれば、あまり高いメニューは頼まないでくださいね」


 本当にカツカツらしい。

 ちょっと憐れみを感じた。

 

 ちょうどトイレに行っていたルースが戻ってきたので、一緒に、解体所へ行く。

 マザー・スライムの死骸はあのまま沼に浮かべといた。とてもじゃないけど、収納袋に入らなかったのだ。


 マザー・スライムのどの部位が、どれくらいの値段なのか知らないので、解体所のおじいさんジャックさんに聞かなくては。


「フラワ?」


 前を歩いていたルースが振り返った。

 

「えっ、ええと、な、なに?」

 あせあせする。

 

 なんか、ルースを蘇生して以来、まともに彼の顔を見れなくて。

 なんか、うまく話せないし。キョドってしまう。


「いや、どうして後ろからついてくるのかなって」


 いつもは並んで歩いてるから不審に思ったらしい。


「べ、別に意味ないよ。ちょっと、そういう気分だったというか」


「なんか、顔赤いよ。熱があるんじゃない?」


 それはあなたのことを意識しまくってるからですよ。

 

「だ、大丈夫だから。は、早く行こう。ねっ」


 まったく、ただでさえイケメンで、ドキドキだってのに、キスを意識して、超ドキドキだよ。


 解体所でジャックさんにマザー・スライムを倒したことを話すと、ジャックさんはめちゃくちゃ驚いた。


「よく、倒せたな。マザー・スライムはBランクだぞ」


 あれ、そうなの。

 そういえば、受付嬢メリッサもBランク以上の冒険者に討伐依頼をかけたって言ってたな。


 確かに、あのあと、レベルアップした。しかも連チャンで。

 ルースを蘇生するのに一生懸命で、まったく気にしなかったけど。

 あとで、ステータス・ウィンドウを開いたら、一気に5も【レベル】が上がってた。

  

 フラワ・パンダヒルは【レベル】15になりました。

 もう、基本能力値が1000オーバーです。

【かしこさ】以外。


「マザー・スライムはあんまり取るところがねえんだよ。肉もまずいしなあ」


 それもあって、討伐依頼をかけても、受ける冒険者がなかなか現れないそうだ。


 はあ、そうか。

 まあ、いいけどさ。【レベル】も上がったし。


 ルースとキス、しちゃったし。


 思いだして、また顔が赤くなった。

 やばいぞ、これ。




◇◇◇




 宿屋に戻って部屋の前で別れるとき、唐突にルースが私の両肩をつかんだ。

 パニックになった。

 ホワワワと変な声出た。


「フラワ、やっぱりなにかあったんだろ?」

 まっすぐに目を見て言った。


 ち、近いよ。顔が近いよ。

 火が出る。顔から火が出るから。


「目をそらすなよ。ちゃんと俺を見てくれ」


 うう、ルースの唇を見ると、どうしてもあのキスの記憶が。

 このイケメンと私はキスをしてしまった。

 初めてのキスを。

 いろんなところから、汗が出てくる。

 後生だから、少し時間をくだされ。


「フラワ?」


 私はチラチラと、ルースの顔を見ては、顔を赤くし、を繰り返した。


「ひょっとして。俺と組むの嫌になった?」

 固い声。


 私は全力で首を横に振った。

 そんなんじゃありません。

 まったく、そんなんじゃありませんから。


「また、フラワに助けられたし。弱くて、ごめん」


「そんなの気にしてないよ」

 私は我慢できずに言った。


「なんかよそよそしいじゃないか。なんでだよ」


 ああ、もう、そんなに知りたいなら、教えてあげるよ。

 後悔しても知らんぞ。


「キスしたの」


 ルースが、キョトンとなった。


「だから、ルースがマザー・スライムに沼に引きずり込まれて……。沼から引き揚げたら、息してなくて。だから、私が息を吹き込んで。だって、ほかに方法がないんだもの」


 怪我なら接触治癒タッチヒールで治せるけど、あれは状態異常の領分だ。


「それで、なんか、照れちゃって……」


 ルースの顔なんてとても見れません。

 どんな顔してるんだ。

 引いてる顔してたら、ショックなんだけど。


 ルースの手が肩から離れた。

 引いてる? やっぱり、どんびきした?


 顎に手がかかった。

 ほえっ、と私はわけがわからず上を向く。


 ルースの顔が間近にあって、そしてくっついた。

 柔らかい唇の感触を、唇に感じる。

 私の思考は止まった。


 気が付いたら唇は離れていて、近い距離から私を見つめるイケメンがあった。


「嫌だった?」


「嫌じゃない」

 声がかすれる。


「良かった」

 ルースが笑った。

 すごくホッとした顔。


 ドバーっと心に洪水が起こって、私はそれに押されるみたいに、ルースに抱き着いた。

 ルースの手が私の背中をキュッと絞める。


「好きだよ。君のことが。大好きだ」


「あだじも……」

 やべっ、たかぶりすぎて、変な声になった。


 クスっとルースが笑う。


「わ、笑った」


「ごめん、なんか、フラワのそういうとこ、可愛いよね」


 くぅう、余裕ぶりおって。

 こっちは、なんかもう、フワフワして、頭が回らないってのに。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ