アレックスとアニバルとモフモフロボの正体
「クミ、このジンジャークッキーもきみの手作りかい?」
「ええ、アレックス」
アレックスは、一枚口に放り込んだ。
「わたしも欲しいな」
いつの間にか、ロボがお座りの姿勢に戻っている。
「ほら、ワンちゃん」
「ワンちゃんって申すなっ。おっと」
カルラが一枚宙に放ると、ロボは文句を言いながらも大きな口を開けた。
ジンジャークッキーは、あっという間に消えてしまった。
「美味い。クミ、きみのクッキーは最高だよ」
「ええ、ありがとう。それで?あまりひっぱられて、期待外れに終わるのもなんだから」
「そうだったね」
これだけ期待させられて、くだらない筋書きだったらがっかりどころの話ではない。
それこそ、暴れたくなる。
「ではまず、ぼくの来歴から……」
「あ、いや、待て。アレックス。きみが説明したら、三巻分くらいになりそうだ。だから、おれがするよ」
「……。アニバル、そうかもしれないね。それにこの一連のことは、ぼくのジャンルじゃないしね」
そうなんだ。わたしが知りたいことは、すくなくとも恋愛系の話じゃないのね。
アレックスが恋愛系で起こしたイタイことの為に、あの四人の男たちは彼を捜しているわけじゃないわけね。
アレックスのことをかなり疑っていたので、ちょっとだけ安心した。
安心したことに、自分でも驚いてしまった。
「じゃあ、おれから説明させてもらう」
アニバルは、ヨレヨレのシャツの襟をムダにひっぱって皺を伸ばそうとした。
もっとも、どれだけ伸ばそうとしてもヨレヨレはヨレヨレのままなんだけど。
「何からききたい?やはり、おれたちの正体か?」
「ちょっと、まだ前置きなの?っていうか、あなたたちの正体?いまのそれ、仮の姿っていうこと?」
思わず、カルラと顔を見合わせてしまった。
「まさか、手配されている大罪人?やっぱり、アレックス。あなたはスケコマシで、アニバルがそのマネージャー的な存在なの?二人して、モリーナ王国にいられなくなったってやつ?あの連中は、それを追ってきたモリーナ王国の役人か何か?そのわりには、失礼すぎたしガラが悪かったけど」
「なんてことかしら。でも、アレックス様ならありえるかもしれませんよね」
「いや、ちょっと待ってくれ二人とも。どうしてそう話を作るんだ?」
「アレックス。わたし、一応作家よ」
「ああ、そうだったね。っていうかそこじゃないだろう、クミ。昨日、あれほどことを分けて説明したよね?」
「ええ。だけど、あれが真実かどうかはわたしにはわからないわ」
「ダメだ。ぼくには嫌疑がかかっている。これはもう、ぼく自身では無実を晴らせそうにない。こういうミステリーとか犯罪チックなジャンルは苦手なんだ」
「アレックス、わかったわかった。きみは、流れに身を任せた方がいい」
「だったら、アニバル。きみが一刻もはやく説明して、レディたちを納得させてくれ」
「あれっくす、おれに任せとけって。カルラ、クミ、耳の穴をかっぽじってよーくきいてくれ。アレックスが小説家というのは仮の姿なんだ」
アニバルはアレックスの肩をポンと叩いてからエラソーに切り出した。
「もうっ!アニバル、それはわかっているわよ。ひっぱりすぎよ。だから、さっさと言ってよ。これが小説の王道みたいに、じつはアレックスは国王とか王太子とか王子とか、あるいは宰相とか将軍なんだったらガッカリだから。そして、ロボはモリーナ王国の王族でも選ばれし者とか認めし者のみに仕える魔獣ってことになるわけよね」
「お嬢様の仰る通りですよね。そんなの、ベタすぎます。それでアニバル様は、じつは王族だったりとか。アレックス様の異母兄で、アレックス様の為に働いていらっしゃるのです」
「やるわね、カルラ。あなたもいろんなジャンル読んでるものね。とくに謀略とか策略とか、暗殺とか簒奪とか大好きよね」
「そうですね。これは、お嬢様の影響ですよ。ほっこり癒されるとかしあわせをかみしめることが出来るとか、そういうのはすっかり苦手になってしまいました。血みどろの殺し合いとか、穢れただまし合いとか、そういうのが最高です」
カルラは、美しい顔をしているのにとなでもなく不穏なことを平気で言う。
趣味、悪くないかしら?




