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爽快な朝

「いただきます」


 カルラと向かい合わせで食べ始めた。


 お腹がすきすぎているあまり、二人とも無言のままひたすら食べ続けた。


 人心地ついたあたりで、やっと会話しながら楽しく食べる。


 朝食はがっつり。ランチはそこそこ。ディナーは、まだ時間のはやい内に軽めに。


 これが自分で決めたルール。


 カルラは、夕食以外付き合ってくれる。


 特に朝は、二人で時間をかけて楽しむ。


 食事もそうだけど、お喋りを楽しむのである。


 この二年間、早朝のランニングとストレッチ、お昼以降の運動を欠かしたことはない。運動は、その時期によって違う。


 乗馬であったり山登りであったりウオーキングであったり。


 国境近くの田舎だからこそ、アウトドア的なことはし放題。


 この別荘を買い戻し、移ってきて正解だった。


 オラーノ伯爵家は、大分前の当主がアラニス帝国の窮状を救った。その功績により、男子も女子も皇族か上位貴族の伴侶になることが約束されている。


 わたしの場合、幼い頃に公爵家筆頭グレンデス家の嗣子セシリオの伴侶になることが決まっていた。物心ついたときには、彼の婚約者になっていた。


 だけど、わたしは結婚するずっと前からセシリオがどんな奴か知っていた。だから、妻になりたくなかった。しかし、わたしに拒否権はない。皇族の威厳を損なうことになる。


 だから、わたしは長期的な計画を練った。


 セシリオに思いっきり嫌われよう。その為には、容姿と性格を最低最悪にすればいい。


 思いっきり食べて飲んだ。それこそ、食べては眠り眠っては食べた。しかも、太りやすい食べ物ばかりを選んでは食べた。それだけではない。髪は短髪にして放置した。衣服は、だらしなくをモットーにした。

 そして、性格は居丈高で意地悪でケチでずぼらでと、巷で流行っている悪女を装った。


 セシリオは、最初からわたしを嫌悪していっさい顧みなかった。結婚する前に、「愛するつもりはない。外でレディと楽しませてもらう」と宣言もされた。


 わたしにとって、その宣言は何より望むところだった。だけど、夫婦であり続けなければならない二年間の縛りがある。嫉妬深いふりもしなければならない。


 二年間、耐えに耐えた。それは、刑務所に服役しているようなものだった。


 その間に、両親が亡くなった。


 人のよすぎる二人は、他人の債務を背負わされてしまった。オラーノ伯爵家のすべてを売り払い、挙句の果てに流行り病で亡くなった。


 そのときに売ってしまったこの別荘を、後日買い戻したわけである。

 


 両親の死後、わたしは小説家としてデビューした。とはいえ、隣国モリーナ王国のエージェントを通じて、である。小説家として、一応は食べていけるだけの収入はある。


 それも、離縁されてからのことをかんがえてのこと。生きていくのに糧は必要。ということは、ある程度の収入源が必要になる。


 その収入源が、小説を書くことである。正直なところ、小説が売れたのは実力や才能ではない。運、である。

 それでも、贅沢さえしなければ衣食住には困らないだけの収入は得られるはずである。


 計画は順調に進み、晴れて離縁された。


 二年前にここに移ってきてから、本来の自分に戻るべくダイエットを開始した。そして、いまはほぼ本来の自分の姿に戻った。


 当然、性格もである。


 本来の自分に戻ることが出来、精神的にも落ち着いた。


 これでもう怖いものはない。


 心身ともに平和で健康的な毎日を送ることが出来ている。


 自堕落で嫌な女だったのはもう過去のこと。


 とはいえ、いまが最高の女ということではない。


 性格が良いかというと「うーん」ってなってしまうし、体型だって出るところは出ていてひっこんでいなければならないところがひっこんでいる、というわけではない。


 はやい話が、演じていた昔の自分よりかはいくらかマシかなという程度である。


 もっとも、いまの生活はそう大して他人ひとと接するわけではない。最低限のマナーと品位を保っていれば、悪い噂は立たない。と、思っている。


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