また会う約束
「クミ。きみさえよければ、おたがいの著書を交換出来ればって思うんだ。そうすれば、口に出さなくても分かり合えるし、読めばおたがいのことがわかるかもしれない」
「いいアイデアだと思うわ。だけど、ストーリーや文脈が作者のすべてというわけじゃないと思うのよ」
だとすれば、わたしはとんでもなくバイオレンスな女になってしまう。日常茶飯事的に、血と暴力に接していることになる。
物騒この上ない。というよりか、人間をフツーに殺したり、肉体的にも社会的にも再起不能にしたりなんて怖すぎる。
「もちろんだとも。それがすべてじゃない。だけど、作風とかは参考になるかもしれない」
「そうね」
「きみの作品はいますぐにでも見せてもらえるだろうけど、それだと不公平だろう?どうだろう。明日、きみに予定がなければ、ぼくのを届けに来たいんだけど。明日、交換するということでどう?」
彼にやわらかい笑みとともに提案され、なぜか心臓が飛び跳ねてしまった。
ちょっと待って。これってやっぱり小説のまんまじゃない。
こうして、男性は女性にまた会うきっかけを作るのよ。当然、女性はドキドキしながらそれにのっかるわけで……。
なるほど。アレックスは、期待に応えて小説のまんまのストーリーをリアルに描こうとしているのね。
それなのに、わたしってば心臓が飛び跳ねてしまった、ですって?
独りよがりもいいところだわ。
わたしのジャンルなら、彼は暗殺の対象よ。だから、また会う必要がある。何度か会い、おたがいをよく知り、親密になる。そうして、最終的にはクライアントの依頼を果たすの。つまり、暗殺するわけ。
そこに愛はない。あくまでも仕事とプライドの為よ。
いかなる情も持ち合わせやしない。
それが、わたしの世界。違った。わたしの小説のジャンル。
「ええ、大丈夫よ。明日、また会いましょう。シリーズ物だけど、あなたに読む時間があればいいんだけど」
「奇遇だな。ぼくのもシリーズ物だ。心配はいらないよ。ぼくは執筆の時間はなくっても、きみのシリーズ物を読破する時間はたっぷりある」
「わたしたち、またまた気が合うわね。わたしもそう。執筆だと数分で集中力が途切れてしまうのよ。だけど、あなたのシリーズ物なら何冊あろうと明日一日と夜中で集中して読破してみせるわ」
わたし、とんでもなく無茶なことを宣言しなかったかしら?
彼のシリーズ物が百巻以上あったら、物理的に明後日の朝までに読破出来るわけないのに。
アニバルのうなり声がきこえたような気がしたけど、気のせいね。
結局、アレックスと明日会うことになった。
こういうことも、小説のストーリーのまんまよね。
こういう感じで、にぎやかな夜がすぎていった。
翌朝、いつものように湖にランニングに出かけた。
ランニングやストレッチなど、レディはしない。運動といえば、乗馬くらいかしら。彼女たちは、馬に走らせそれでたっぷり運動した気になっている。
それはともかく、脂肪がつきすぎて見た目だけでなく健康的にもヤバかったわたしは、食事制限だけで本来の自分の体型に戻すつもりはなかった。
まずは運動。それが一番効果的であることを、いろいろな国の資料や小説やエッセイなどで知った。
だからこそ、ランニングとストレッチを欠かすことなく続けている。気候のいいときには、湖で泳いだりもする。
これもまたそうだけど、レディは泳ぐこともしない。
女性の分際で水泳?みっともない。
などと、街や村の人たちにささやかれないよう気を遣っている。早朝か夜半、カルラに付き添ってもらって泳ぐようにしている。
水温が低くなる時間帯だから、寒いのは寒い。だけど、泳いでいる間に多少は慣れてくる。
そんな努力にプラスし、食事に気をつけている。




